広州モーターショー2023で発表した中国で9代目となるカムリ(筆者撮影)

トヨタと中国第一汽車の合弁企業、一汽トヨタが11月3日付の文書で、2023年10〜11月に実施する減産を「2024年2月までに延長する」との計画をディーラーに伝えた。

2023年の新車市場で、外資系合弁各社の新車販売が軒並み前年比マイナス成長となっている中、唯一プラス成長を維持している一汽トヨタが減産に踏み切ったことから、厳しい市場環境がうかがえる。

アフターコロナの中国では、電気自動車(BEV)を中心とする新エネルギー車(NEV)需要が増加する一方、ガソリン車の値下げ競争が一層激しくなっている。

特に高級車のブランド低下が顕著な日系メーカー

日系メーカーの中国販売台数は2023年に400万台を割り、ピークであった2020年比で約2割減少する見通しだ。中国市場で苦戦する日本勢は、踏みとどまることができるのか。中国メーカーとの合弁で展開する日系メーカーの行方が注目されている。

2023年1〜11月の販売台数をみると、豊富なラインナップとハイブリッド車を強みとするトヨタは、値下げを実施したこともあり、2%減にとどまっている。

高級車市場ではSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の影響を受けており、全量を輸入販売するレクサスは「メイド・イン・ジャパン」の高品質と技術で差別化を実現したものの、前年同期比3%減となった。


レクサスLMは主な市場を中国とし、新型モデルは2023年の上海国際モーターショーで発表した(写真:トヨタ自動車)

一方、ホンダと日産はそれぞれ前年同期比13%減、25%減となった。ホンダの高級ブランド「アキュラ」の中国生産・販売が2023年に停止。日産の「インフィニティ」は年間販売台数が約6000台となる見通しで、ピークであった2017年の8分の1程度まで落ち込む。高級車の低迷から、両社のブランド力の低下がうかがえる。

かかるなか、日系各社は派遣従業員の削減による生産調整、ディーラーの在庫圧力の緩和、輸出拠点化など、市場環境に適した運営や構造改革に取り組んでいる。

トヨタは、2023年7月に広汽トヨタ(広州汽車との合弁)で約1000人の従業員を削減し、ホンダでも11月に広汽ホンダの従業員約900人を削減した。また、工場の稼働率を維持するため、中国製BEVを海外に輸出する動きも出てきている。


輸出を目論むもテスラや中国車に太刀打ちできず

東風ホンダは、2023年4月に新型BEV「e:NS1」、6月に「CR-V e:HEV」を発表し、ヨーロッパへも輸出。11月には、タイやアメリカに中国製電動車部品も輸出し始めた。また、東風日産は11月に新事業戦略を発表し、2025年から中国製電動車を輸出開始し、年間10万台を目指す。

一方、日本勢もBEVを投入して巻き返しを図っているが、現状は価格競争力が弱く、走行性能や走行フィーリングでも、アメリカ・テスラや中国新興勢に太刀打ちできない状況だ。日系BEVの中国販売台数は、2023年に約8万台となると見られるが、日本車の中国販売に占める割合は2%に過ぎない。


広汽トヨタが広州モーターショー2023で発表した、謁智4X(筆者撮影)

また、BYDを筆頭とする中国勢プラグインハイブリッド(PHEV)の価格破壊が、日本車の競争力を一気に脅かしている。

日系自動車大手は、コストダウンとブランド力の維持を意識しながら、ガソリン車市場で残存者利益の獲得に注力。動力源で差別化を図ってきたユニークなガソリン車ブランドにとっては、厳しい争いが迫られている。

三菱自動車は2023年10月、保有する広汽三菱汽車の株式を1元の対価で、中国合弁相手広州汽車集団に譲渡し、中国撤退を余儀なくされた。2018年にスズキが譲渡した「長安スズキ」(スズキと長安汽車の合弁)に続き、「乗用車事業1元」の日系第2号になった。

年間20万台の生産能力を持つ三菱自動車の長沙工場は、約3000人の従業員を抱えている。「無償の形で工場を譲渡し、今後広州Aions(広州汽車のBEV子会社)のBEV生産に転用できれば、地域雇用への影響を最小限に抑える」と地場自動車メーカーの幹部が指摘した。

三菱自動車の中国事業撤退は、サプライヤーにも影響を与えている。金型費を含む部品・部材の未払金について、合弁相手の広州汽車は地場サプライヤーに対して金額の45%程度を支給し、日系サプライヤーにも同様の水準を提示。「国有大手と交渉の余地はない」と、日系サプライヤー幹部がため息をついた。

中国では、外資自動車メーカーの事業展開は、現地の合弁相手との議論が避けられない。1994年に公布された「中国自動車産業政策」は、外資企業の中国での自動車生産を合弁形態でのみ許可し、「合弁相手は2社まで」「出資比率は上限50%」といった制限が設けられていた。

この長年続いた産業保護政策は、2022年に撤廃。ドイツ・BMWは中国の乗用車合弁メーカー華晨宝馬汽車への出資比率を50%から75%に引き上げ、規制緩和を受けた第1号となった。


トヨタがBYD TOYOTA EV TECHNOLOGY カンパニーなどと共同開発し、2023年上海国際モーターショーで公開したbZ Sport Crossover Concept(筆者撮影)

日系合弁企業の合弁契約期限をみると、一汽トヨタと広汽ホンダはともに5年後の2028年になり、その他日系合弁メーカーは2030年以降になる。今後、日系自動車メーカーはパートナー契約を継続する前提で、既存の合弁事業を再検討するだろう。

このため、合弁相手の中国企業との良好なパートナーシップを維持する必要がある。また、経営の自由度を高めるため、独資や地場異業種企業と合弁でBEV生産子会社の設立も視野に入れる必要が出てくるだろう。

自動車も家電、パソコン、スマホのように

ガソリン車時代は、合弁メーカーが製品力とブランド力を武器に中国市場で圧倒的地位を構築してきた。ここにきて、中国勢がNEV市場で先行する一方、モノづくりも急速にキャッチアップしてきている。中国自動車産業は“ポスト合弁時代”となり、合弁メーカーが岐路に立っている。

また、中国自動車業界では、NEVシフトによりメーカーの淘汰も進んでいる。各社が生き残りを目指し、熾烈な競争を繰り広げており、海外市場を求めようと輸出が増えている。家電、パソコン、スマホなどがたどった道を思い起こすと、自動車市場においても外資の中国事業の縮小や撤退が予測される。


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今後はテック企業の参入、自動運転技術の進化などにより、「クルマのスマホ化」が車両の付加価値となる一方、中国で予想外の変化が起きる可能性がある。それだけに政策の動向、技術・市場の変化を注視しながら、日本自動車メーカーが中国事業に臨むべきであろう。

(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授)