業界首位のウエルシアHDは調剤薬局併設などに強みがある(編集部撮影)

厳しい出店競争を繰り広げているドラッグストア業界。イオン子会社で、業界首位のウエルシアホールディングス(HD)は、ドラッグストアの将来像をどう描いているのか。2位でイオンが13%超出資するツルハHDとの関係姓は。そして破竹の勢いで成長を続ける、4位のコスモス薬品をどう見るか。2023年3月からイオンの執行役ヘルス&ウエルネス担当を兼任する、ウエルシアHDの松本忠久社長に聞いた。

15年間で20社をM&Aしてきた

――ドラッグストアで初めて売り上げ1兆円を達成し、現在は「2030年売り上げ3兆円」構想を掲げています。

とくに「1兆円」を意識していたわけではないが、振り返ってみると、われわれの成長エンジンはなんといってもM&Aだった。この15年くらいで約20社と一緒になってきた。今後も継続的にM&Aを行っていく。

もっとも重視するのは「同じ方向を向いているか」だ。われわれが目指す店舗像は、生活者にとって便利である店。食品や化粧品、雑貨が並び、調剤薬局もそろっている。そして店舗スタッフによるカウンセリングで、ビューティーとヘルス分野はどこにも負けない店を目指す。

進出しているエリアやシェアにおいて補完関係があることも重要。(2024年6月買収予定の)とをしや薬局は、当社に不足している長野県のシェアを補完できると同時に、調剤薬局に注力している共通点があることが決め手となった。

――イオンが13%超出資するツルハHDですが、今年の株主総会でファンドから経営陣交代の株主提案を受けました。結果は否決でしたが、大手も含む業界再編についてはどう考えていますか。

ドラッグストアにはオーナー家が多いため、(ファンドから)ガバナンスの問題を突かれる隙があるのだろう。


まつもと・ただひさ 1958年生まれ。1983年北陸大学薬学部卒業後、サンドラッグ入社。1991年いいの(現ウエルシア薬局)入社、2014年ウエルシア薬局取締役副社長。2019年3月から現職(撮影:尾形文繁)

まだまだドラッグストアは他の流通業界に比べて歴史が浅い。現在、ドラッグストアでは世代交代が進んでおり、これが再編を後押しするだろう。(創業者である)初代社長は、とにかく会社を大きくするために一生懸命やってきた。一方、2代目は「どんな価値を提供できる会社にしていきたいか」という、規模拡大以外の面を重視する傾向が先代よりも強い。

「どんな店を目指したいのか」が一致すると非常に組みやすくなるし、これがガッチリはまれば大きな再編が起こるのではないか。

登録販売者の採用・育成が課題

――ツルハHDの経営陣とは、定期的にコミュニケーションを取っているのですか?

(イオン、ウエルシアHD、ツルハHDやクスリのアオキホールディングスなどが医薬品のプライベートブランド共有などを行う)ハピコムのメンバーである各社は、3カ月に1回集まって、商品や薬剤師の教育などに関する情報交換をしている。

共通する課題の1つが、登録販売者の採用・育成だ。登録販売者の資格は、試験に合格し一定の要件を満たせば取得できるが、知識や経験が浅いと、風邪薬の成分の違いすら答えられない。結果、お客さんのことを怖がってしまい、十分な接客ができなくなってしまう。私もハピコムの会議に参加し、各社の社長とこうした業界の課題について話し合っている。

――九州ではイオン九州と合弁企業をつくり、生鮮など食品の品ぞろえを拡充した業態「ウエルシアプラス」を出店しました。

(イオンリテールやイトーヨーカ堂など)「フード&ドラッグ」として、既存のスーパーにドラッグをくっつける戦略を採る企業もあるが、成功例は極めて少ないと思っている。

スーパーはドラッグストアと違い、業務がカテゴリーごとの縦割りで分かれているため、そこにドラッグを足しても同じだけコストがかかってしまい非効率だ。重要なのは縦割りの少ないドラッグストアのオペレーションの中で、食品も管理できるようにすること。

通常店でも一部食品を取り扱うことはあるが、ドラッグストアとスーパーでは鮮度管理のレベルがまるで違う。スーパーの水準に到達することは不可能。そのうえ食品スーパーはオーバーストアの中で努力しており、どんどん進化している。

ウエルシアプラスは通常店で出すよりも2割ほど高い売上高を実現できており、この点では成功といえる。ただオペレーション上の課題は多いため、早く新しいスタイルを構築していきたい。

ウエルシアは利便性が第一

――九州は「毎日安売り」に定評がある業界4位のコスモス薬品が600店舗以上展開する牙城です。勝算はありますか?

コスモス薬品は生鮮食品に注力せず、オペレーションコストを抑えた運営が上手い。ヘルスの領域も非常に教育のレベルが高く、店舗に行くと必ず店員がやってきて商品を説明してくれる。ただ大きな土地が必要なので、都市部での展開は難しいのかもしれない。

一方、われわれは利便性を第一に掲げている。今後は価格の面をもう少し打ち出していきたい。スケールメリットを活かして、より安く提供していく。食品については、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」が非常に評価されているので、これを多く取り入れながら総合的に商品を提供していく。

――化粧品など好採算な商材を持つドラッグストアの方が、スーパーよりも安く食品を販売でき、有利だといわれていますが。

先日、アメリカ西海岸を視察して実感したのが、「アメリカのドラッグストアはこんなに弱くなったのか」ということだ。ビューティーやヘルスは強いが、雑貨や食品分野ではトレーダー・ジョーズなどほかのスーパーに客を取られてしまっている。

完全な「カテゴリー負け」状態だ。日本でもこの状況を放置すれば、いずれアメリカのドラッグストアのようになってしまうのではないか。そういう危機感を持っている。

――同業のM&Aのほか、売り上げ3兆円到達には何が必要ですか。

成長戦略の柱の1つは海外だ。シンガポールで12店舗(2023年2月末時点)を運営するほか、イオングループとしてはASEANや中国でのビジネスに積極的だ。ウエルシアとしても今後、アジア地域での事業が成長の軸になってくるだろう。

現時点ではウエルシアがシンガポール、イオングループがマレーシアなどのショッピングセンター内でドラッグストアを運営している。これらを統合し「イオンのドラッグといえばこういうもの」というフォーマットを構築していくことが大切だと思う。それができれば、海外でも年間数十出店ができるようになるだろう。

もう1つは介護だ。20年近く取り組んできたが、正直あまり成長していない。要因は内部のリソースだけに頼ってきたからだ。これからはプロの人たちとの取り組みを模索し、介護分野でのM&Aもあり得る。

介護は施設や訪問、配食など、サービスごとに切り抜くと非常に利益が取りづらい。ただイオングループであれば水平統合でスケールメリットが出せるし、垂直統合だって考えられる。配食や日用品周りの商品提供も行いつつ、運動機能を高めるためのサポートも行う、ということだ。大きな領域で介護を考えれば、利益を出せるはずだ。

OTCも提案できる薬剤師を増やす

――どんなドラッグストアに変えていきますか。

目指しているのは「健康ステーション」。調剤併設店は増やしているが、調剤業務はいずれ工場化が進むだろう。重要なのは、付加価値をつけること。健康や美容に関する悩みを何でも相談でき、それに応えることができる、いわばコンシェルジュのようなドラッグストアを目指す。

「核」となるのが薬剤師だ。仮にOTC(一般用医薬品)の名前を知らずとも、成分を見れば効能などを瞬時に理解できる。さらに「白衣の魔力」は強く、お客さんから安心感を持って相談してもらえる。従来は各店舗で調剤薬局での業務で登録していたが、現在は物販でも接客ができるよう登録し直している。薬剤師がOTCなどを提案していける店を増やしていく。

ヘルス分野の他業態を巻き込んでいくことも重要だ。ドクター(医師)の領域になると、薬剤師では対応しきれない。ドラッグストア店内で外部の医療機関の遠隔診療を受けられるようにしたり、医療機関と提携して在宅医療を受ける患者さん向けの調剤業務を当社の薬剤師が担当したり、医療法人との連携を深めていきたい。2024年2月には新しい取り組みを実験したいと思っている。

「ドラッグストアはどこでも同じ。欲しいものが揃っていて、なおかつ安ければ良い」というのが消費者の感覚かもしれない。ただそれではダメだ。健康に対するサポート、アドバイスをあらゆる面から行える存在になりたい。この構想に魅力を感じてくれる同業者は多い。こうした会社とはパーパスを共有でき、組みやすいだろう。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)
(冨永 望 : 東洋経済 記者)