今後アメリカの長期金利は再び上昇する懸念はないのだろうか(写真:ブルームバーグ)

アメリカの長期金利はすでに歴史的転換をしたかもしれない。同国の長期金利が10月半ばにかけて急速に上昇基調を強め、10年債の利回りが一気に5%の大台に乗せるに至ったのは記憶に新しい。だが、その後は上下を繰り返しながらも長期金利は徐々に落ち着き、直近では4%を割り込んでいる。

FRBは金融政策を誤った

改めて金利急低下の原因を振り返ってみよう。きっかけの1つとなったのは、10月31日と11月1日に開催されたアメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)だったことは間違いない。このFOMCでは2会合連続で利上げの見送りが決定された。それ自体はほぼ事前の予想通りで、特にサプライズはなかった。

だが結局、市場では「利上げ打ち止め観測」が急速に台頭、長期金利も急低下した。FOMCの声明発表後の会見で、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が今後は利上げを打ち止めにするか、追加利上げ行うかのどちらが妥当なのか、判断を迫られることになる」との見方を示したことで、楽観的な市場が「利上げ打ち止め示唆」と受け止めたことが大きな理由だ。

その後、10月の雇用統計(11月3日)で、非農業雇用数が前月比+15万人と、労働力人口が減少する中でも失業率が予想以上に上昇するという弱気の内容となったことが、こうした動きに拍車をかけた。筆者はアメリカに長年住んで市場を見守ってきたつもりだが、金利が短期間でここまで大きく動いたのは記憶にない。

もちろん、背景にはFRBによるゼロ金利政策と積極的な量的緩和策(QE)、その巻き戻し(引き締め)がある。そして、今またその反動が来ていることは間違いなさそうだ。

新型コロナウイルスの感染爆発後、FRBがアメリカ経済を立て直すために進めた量的緩和策に伴い、FRBが大量のアメリカ国債を購入、金利が低い水準に張り付いたままになった結果、それ以外のトレーダーが金利市場から弾き出されてしまった。

そこへ今度はインフレを制御するためにFRBが量的縮小(QT)に転じ、FRBも米国債の買い手から売り手に回ってしまい、買い手が不足する事態が生じてしまった。

2023年6月に債務上限問題が一応の決着を見たことで、同国の米財務省は8月以降、財政不足の問題を解消するために米国債の発行額を急速に増やした。

ところが、慢性的な買い手不足の状況下では大量に発行された米国債を裁くことができず、債券市場は供給過剰の状態に陥ったことが、金利上昇の大きな要因である。債券市場における買い手不足の問題は、債券市場の変動率を高めただけでなく、金利の急激な上昇の一因となってきた。

状況が変われば、長期金利も低下に転じる

12月13日に開かれたFOMCでは、ドットチャートと呼ばれるFRB高官の政策金利見通しで2024年が50ベーシスポイント(0.5%)引き下げられ、ジェローム・パウエルFRB議長は会見で2024年の利下げの可能性に言及した。

これを受けて市場は、2024年早期の利下げを本格的に織り込み始めようとしている。一方で、これまでの金利の上昇要因は完全にはなくなっていないことにも注意が必要だ。消費者物価指数(CPI)は変動の激しい食料とエネルギーを除いたコア指数で前年同期比4%上昇という伸びが続いており、FRBが目標としている2%に向けて落ち着くのかは微妙なところだ。

またアメリカ政府の財政赤字の問題もすぐに解消されるようなものではなく、今後も米国債の大量発行はかなりの期間続くことになると思われる。

FRBが積極的に利上げを進めたにもかかわらず、7〜9月期の経済成長が年率換算で4%台後半という高い伸びになったことは、大きなサプライズだった。やはり新型コロナウイルスの感染爆発以降に政府が打ち出した巨額の財政支出を伴う経済政策が、長期間相場を押し上げたことが原因だろう。

しかしながら、状況は刻一刻と変わっていくものだ。アメリカのインフレは、堅調な経済や雇用によって需要が高止まりしていることが大きな要因となっているが、これは近い将来に大きく変化する可能性が高い。

確かに、前例のないほど巨額の経済政策だっただけに、この押し上げ効果がいつまで続くのか予想がつかない。だが、永遠に続くことがないこともまた事実だ。

経済政策の効果が薄れてくれば、FRBがこれまで大幅に利上げした影響が、一気に出てくることも十分にありうる。この点は、経済のソフトランディングを予想している向きとは意見が分かれるが、景気が急速に悪化してくれば、インフレ圧力も一気に後退する可能性が高い。そうなればFRBも早期に利下げに転じることができるようになる。

一方、アメリカ国債に関しては、かなりの長期間、大量発行が続くことは避けられないと思われる。だからといって買い手不在の中で債券市場の需給が一段と悪化するとは限らない。

確かにFRBが量的縮小(QT)を行っている限りは、米国債の買い手にはなってくれない。だが新たな買い手が現れてくれば、この問題も解決に向かう。4%前後というアメリカ国債の利回りは、投資家にとって十分に魅力的な水準であり、今後は金融機関や年金基金、ヘッジファンドに至るまで、同国の国債に対する買い意欲が強まりそうだ。もし景気悪化が顕著になれば、需要が急増する可能性も十分にありうる。

将来的な金利低下を予想している向きは、ほとんどがその前提条件としてアメリカ景気の急速な悪化を予想している。それはまったく理にかなっており、少なくとも希望的観測が占める割合が高いソフトランディング予想よりも実現の可能性が高いと考える。

(松本 英毅 : NY在住コモディティトレーダー)