手軽にとれる、あの栄養素が長寿をもたらす!? (写真:Nishihama/PIXTA)

タウリンという言葉を聞いたことのある人は多いだろう。テレビCMが頻繁に流れるので誰もが知っている「某栄養ドリンク」にも、有効成分として含まれている。2023年6月、アメリカの高名な科学誌『Science』に、タウリンを補充することで哺乳類の寿命が延びるとの動物実験の報告がなされ、再び脚光を浴びている。

「タウリン」の歴史

タウリンの発見は古く、1827年にドイツの科学者が牛の胆汁中から発見した。人体にもタウリンが存在することが分かったのは1846年だ。日本では第2次世界大戦前から栄養剤として研究が始まっていたと製薬会社のホームページに記載されている。1949年に日本でタウリンを含む栄養剤が発売され、いまは栄養ドリンクとして販売されている。

タウリンは、ヒトの体内では膵臓で作られるが、多くを食物からの摂取に依存する。食物ではイカやタコ、貝類にタウリンは多く含まれ、海産物を多く食べる日本人にとってなじみの深い栄養素だ。

タウリンは人体の多くの組織で最も豊富に存在するアミノ酸だ。哺乳類では心臓、脳、骨格筋、肝臓、網膜において特に多く存在する。タウリンは、細胞の大きさを調節したり、ストレス応答や、免疫の働きを調節するなど、多彩な機能を果たしている。免疫調節効果では抗菌効果や抗ウイルス効果があるだけでなく、過剰な炎症を抑える作用もある。コロナやインフルエンザ、ほかにも様々な感染症が跋扈する現在において、タウリンは一層重要な栄養素なのかもしれない。

実験的に体内のタウリン量を低下させたマウスは、体重が減り、臓器の機能に異常が生じ、短命であったとの報告がなされている。また、タウリンが欠乏した猫は、網膜、心筋、白血球機能の異常および成長と発育の異常を起こす。ヒトではタウリン欠乏がどのような症状を引き起こすのかは不明だが、哺乳類ではタウリン欠乏は体に悪影響を及ぼすことがわかっていた。だが、タウリンを与えることが健康状態にプラスの効果があるのか否かは、これまでわからなかった。

Science誌の論文では、哺乳動物にタウリンを栄養素として加えることで、 動物のミトコンドリアが活性化し、寿命が延びた、と報告しており、タウリンのプラスの効果を示す画期的な研究だ。

血中のタウリン濃度が高い個体は長寿であることはわかっていたが、長寿の個体はタウリン濃度が高いのか、タウリン濃度を高くすると長寿になるのかわからなかった。今回の研究では、タウリンの血中濃度が低いと短命となり、 そこにタウリンを外から餌で加えてあげると、寿命を延ばせることがわかったのだ。タウリン補給の延命効果を初めて示した画期的な研究だ。

もちろん、この研究結果が人間に当てはまるとは限らない。タウリンをゴクゴク飲めば長寿になるのか? それは検証してみなければわからない。ただし、哺乳類でこのような結果が得られていることは、人間でも検証する価値のある仮説だ。

人間でタウリン補充の効果は検証できない?

人間で食事の影響を検証する試験は難しい。動物実験と異なり、人間では食事の内容を完全に管理できない。タウリンを投与しない群に割り当てられた人が、毎日タコやイカを食べてタウリンを沢山摂っているかもしれない。さらに、長寿や病気をしないことに繋がるか確認するのであれば、臨床試験に数十年かかることになる。その間、参加者の食事を完全にコントロールし続けることは不可能だ。

また、タウリンが人間においても延命効果が認められたとしよう。大陸の内陸部に住んでいて、海産物を食べる機会のない人、つまりタウリン摂取量が少ない人では、補充する効果があるだろう。しかし海の近くに住み、もともと海産物をたくさん食べているような人では、タウリンをプラスして摂取することの上乗せ効果は少ないかもしれない。すべての人にデータが当てはまるわけではないのだ。

結局のところ、少なくとも体に悪影響がないのであれば、積極的に摂っておこう、ということにしかならない。タウリンの摂り過ぎが健康被害を起こしたとする報告はない。タウリンがヒトの健康や寿命に与える影響について、今後も様々な研究が続くと予想される。注目していきたい。

タウリンは、イカやタコ、貝類、甲殻類及び魚類(心臓・脾臓・血合い肉)に多く含まれている。タウリンは水に溶けやすいアミノ酸なので、汁ごととれる鍋物やスープ等に利用するといい。まさに冬に打ってつけの食べ方であり、食事の店を選ぶ参考にしてはどうだろうか。

(久住 英二 : 内科医・血液専門医)