2023年11月にデザインを中心に先行情報が公開されていたが、12月21日に正式な発売日および価格などの詳細情報が発表されたホンダの新型SUV「WR-V」(写真:本田技研工業)

本田技研工業(以下、ホンダ)が、新型コンパクトSUV「WR-V(ダブリューアールブイ)」について、価格や発売日などの詳細を正式発表した。

2023年11月に公式特設サイトで先行公開され、2024年3月22日発売となるこのモデルは、SUVらしいタフな外観や、クラストップレベルの広い荷室空間を持つことなどが注目。また、200万円前半〜250万円以下という価格帯は、ホンダSUVラインナップのなかで最もリーズナブルな設定となることで、大きな話題を呼んでいる。

しかも、このモデルが属するコンパクトSUV市場は、ここ数年、大きな需要増をみせている成長ジャンルで、ライバル車も数多い。そんな激戦区へホンダが新規投入するWR-Vとはどのようなモデルで、どんな特徴があるのか、詳細を紹介する。

ガソリン車のみ、シンプルな3グレード構成


最上級グレードとなるWR-V Z+のスタイリング(写真:本田技研工業)

新型WR-Vは、ホンダがインドで生産・販売する「エレベイト(ELEVATE)」の国内仕様車で、日本では輸入車扱いとなる。車名は、「Winsome Runabout Vehicle(ウィンサム ランナバウト ビークル)」の頭文字を組み合わせたもの。ホンダによれば、Winsomeには、「楽しさ」や「快活さ」という意味があり、「このクルマと生き生きとした毎日を楽しんでほしいという思いが込められている」という。

日本仕様のWR-Vでは、ラインナップにエントリーグレードの「X」、中級グレードの「Z」、上級グレードの「Z+」といった3タイプを設定。いずれのグレードにも、パワートレインは1.5Lガソリンエンジンのみを搭載し、駆動方式も2WD(FF)だけと、かなり割り切った設定になっている。


最も手頃なXの外観(写真:本田技研工業)

そのぶん、各グレードの価格(税込み)はXで209万8800円、Zが234万9600円、最高値のZ+でも248万9300円と、250万円以下。ちなみに、ホンダのコンパクトSUVには「ヴェゼル」もあるが、こちらはガソリン車とハイブリッド車の両方、それに2WD(FF)と4WDを設定し、税込みの価格帯は239万9100円〜341万8800円。WR-Vは、ヴェゼルよりもラインナップを絞っている一方、価格帯もより低い設定となっている。

コンパクトSUVながら広々とした荷室


WR-Vの荷室空間(写真:三木宏章)

荷室は、5名乗車時でも458Lという大容量のスペースを確保。スーツケース4個(25インチ×2、21インチ×2)を収納できる広さを持つ。また、後席は6:4分割式で、背もたれの片側を倒して長尺物を積載できるし、左右とも倒すとより広い荷室スペースを作ることも可能。長いサーフボード(約170cm)や自転車など、さまざまな荷物を積載できる。

ちなみに荷室のサイズは、テールゲート開口部の荷室高が882mmで、荷室長は後席背もたれを起こした5名乗車時で840mm、左右の後席背もたれを倒した2名乗車時には2181mmに延長できる。また、荷室最大幅は1350mmで、荷室床面最小幅(ホイールハウス部)は1020mmだ。


後席を倒した、スペースを拡大した荷室(写真:三木宏章)

このようにWR-Vは、コンパクトSUVクラスでトップレベルの荷室空間を持つが、ちょっと気になるのが、後席の背もたれを倒したとき。座面と背もたれの厚みが段差となり、荷室がフラットにならないのだ。同じホンダ車でも、ヴェゼルの場合はシートを座面ごと足元へ収納できる「ダイブダウン機構」を持つが、WR-Vには採用されていない。そのぶん、より厚みを持たせたWR-Vの後席は、クッション性が高く、長距離走行でも乗員が疲れにくい効果があるという。


WR-Vの後席(写真:三木宏章)

ちなみに、先述したWR-V海外仕様のエレベイトが販売されているインドでは、オーナーが運転手付きで後席に座ることも多いという。つまり、現地では高級車として使われているのだ。そうした背景からか、WR-Vは後席の乗り心地についても、高いレベルを追求していることがうかがえる。

なお、WR-Vが採用するシート生地は、Xグレードにファブリックを採用。ZとZ+の両グレードには、プライムスムース×ファブリックのコンビシートに加え、本巻きステアリングホイールやプライスムースを施したドアライニングなども装備し、さらなる高級感を演出している。

WR-Vのライバル車について


WR-Vのインテリア(写真:三木宏章)

以上がWR-Vの概要だ。ライバル車となるのは、ボディサイズや価格帯から考えるとトヨタ自動車(以下、トヨタ)の「ライズ」とその兄弟車であるダイハツ工業(以下、ダイハツ)の「ロッキー」あたりになるだろう。だが、これら2モデルは、ダイハツの車両認証試験の不正問題により、販売・出荷を停止している(2023年12月現在)。

だが、コンパクトSUVのジャンルに、まだまだライバル車は多い。例えば、トヨタの「ヤリスクロス」やマツダの「CX-3」など。これら2モデルは、WR-Vと同じ1.5Lガソリン車2WD(FF)の設定があり、価格(税込み)もヤリスクロスが189万6000円〜236万7000円、CX-3が227万9200円(特別仕様車は253万2200円〜270万8200円)。いずれもWR-Vと同じような価格帯だ。


WR-Vのサイドシルエット(写真:本田技研工業)

しかも、ヤリスクロスやCX-3のガソリン車には、北海道や東北などの雪国にユーザーが多い4WDも設定する。とくにヤリスクロスの場合、212万7000円〜256万2000円(いずれも税込み)と、ガソリン車4WDでもWR-Vに近い価格帯だ。また、CX-3のガソリン車4WDでも、ベースグレードの15Sツーリングであれば、価格(税込み)は252万1200円だから、WR-Vの最上級Z+の248万9300円(税込み)と比べても、差はあまり大きくない。

ちなみに、同じホンダのヴェゼルも、ガソリン車2WD(FF)の価格(税込み)は239万9100円で、こちらもWR-Vの価格帯に近い。そう考えると、同じホンダ・ブランド内でも、ユーザーの取り合いが起こる可能性もある。


写真左がZグレード、写真右がZ+グレード(写真:三木宏章)

ホンダは、WR-Vの月間販売台数計画を3000台と発表している。年間にすれば約3万6000台程度だ。同じコンパクトSUVでは、例えば、自販連(日本自動車販売協会連合会)が発表した2022年の年間(1〜12月)新車販売台数によると、トヨタ・ライズが8万3620台、同門ホンダのヴェゼルが5万736台。ラインナップを絞っているぶん、WR-Vは販売の目標値もやや控えめだ。あくまで私見だが、同じホンダ車でユーザーの食い合いをできるだけ避けることも、同モデルのラインナップ構成には関係しているのかもしれない。

ヴェゼルやZR-Vよりも手頃なSUV投入の意味


WR-Vのフロントフェイス(写真:本田技研工業)


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ホンダのSUVラインナップは、従来、同じコンパクトクラスのヴェゼルと、ミドルクラスの「ZR-V」しかなかった。つまり、WR-Vは、今まで手薄だった同社SUV構成の充実を図るという役割もあるといえる。なお、ホンダによれば、このモデルのメインターゲットは20〜30代のミレニアル世代。ラインナップを絞り、そのぶんリーズナブルな価格帯にした背景には、それらユーザー層に訴求する目的もあることがうかがえる。

いずれにしろ、熾烈なシェア争いを繰り広げるコンパクトSUV市場で、新たに投入されるWR-Vがその存在感を示し、多くのユーザーから支持を受けられるのかが今後気になるところだ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)