2023年の4大不祥事を振り返ります

2023年がもうすぐ終わる。振り返ってみれば、新型コロナウイルスの感染が本格的に収束し、通常の日常生活にかなりの部分で戻った1年だった。にもかかわらず、閉塞感から抜け出せない1年でもあったように思える。

ロシア−ウクライナの戦闘は一向に収束しない中、イスラエルとガザでの武力衝突が激化、国際情勢は不安定となった。国内に目を移しても、岸田内閣の支持率は、特に年の後半に低下。政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑により、年末に最低を更新するに至っている。企業においても、大きな不祥事が相次いで起きている。

時計の針が逆戻りしたように思える1年であったが、よく見ていくと、これまで問題視されてこなかった事象が顕在化したとも言える。

ここでは、企業を中心とする不祥事について、この1年を俯瞰してみたい。

2023年に起きた主な不祥事を振り返る

今年に起きた、企業や団体の主な不祥事を下記にまとめてみた。

【2023年に起きた主な不祥事(企業・団体)】

1月〜
回転寿司チェーン店で顧客の迷惑行為動画が拡散。その後、外食チェーンで顧客の迷惑行為が相次いで問題化

3月
楽天モバイルの元部長、委託業者と共謀し巨額詐欺事件を起こす
旧ジャニーズ事務所の元社長故ジャニー喜多川氏の性加害問題がBBCで放送。以後、相次ぐ被害者の告発で問題は深刻化

5月
近畿日本ツーリストのコロナ関連事業業務委託費の過大請求が発覚
丸亀製麺 カエル混入

7月
ビッグモーター 自動車保険金の不正請求問題が顕在化

8月
日本大学 アメフト部の違法薬物問題が発覚

9月
宝塚歌劇団の劇団員が転落死。以後、いじめ・パワハラによる自殺疑惑が浮上

10月
大手受験塾 四谷大塚の講師が教え子の女子児童に盗撮
八戸市の駅弁製造会社「吉田屋」の食中毒問題
NTT西日本の子会社から個人情報928万件が流出

11月
サイゼリヤのサラダにカエル混入
都内のイベントで販売されたマフィンを食べた複数の客が腹痛や嘔吐を訴える

12月
銀座カラー破産、顧客への返金、施術が行われず
ホストクラブの高額売掛金問題で警察庁一斉立ち入り
ENEOS社長、セクハラで解任
ダイハツで174件の不正行為が判明し、全車種出荷停止

(一覧:筆者作成)

まず、世間を騒がせた大きな事件を見ていこう。

ビッグモーター保険金不正請求、旧ジャニーズ事務所の性加害問題、日大アメフト違法薬物問題、宝塚劇団員の転落死事件が「2023年の4大不祥事」と言ってよいだろう。

これらの問題には、以下のような共通点が見られる。

1. 個人の不祥事に留まらず、組織全体のコンプライアンスの機能不全ともつながっている

2. 以前から問題は存在していた(かつ、それに気付いている人も少なからずいた)にもかかわらず、十分な改善策が取られてこなかった

3. 初動対応に失敗し、問題が拡大し、長期化した

これらの事件は、2023年に新たに起こったものではなく、「以前からくすぶっていた問題が、2023年に顕在化した」と見るのが正しいだろう。

ビッグモーターに関しては、2022年から保険会社の自主調査で水増し請求などの不正が発覚、2023年に国土交通省・地方運輸局からの行政処分や立ち入り検査を受けている。

旧ジャニーズ事務所での性加害問題に至っては、過去に起きた事件である。


日大の問題も長期化した(写真:東京スポーツ/アフロ)

日大アメフト部の薬物問題は今年に起こった事件ではあるが、同じアメフト部で、2018年に部員による「危険タックル事件」が起きている。この度の事件は、5年を経ても組織の「健全化」が図られていないことを印象づけることになってしまった。

宝塚歌劇団のいじめ問題は、過去にも週刊誌で報道されたことはあったし、2022年にも「週刊文春」でハラスメント問題が報道されている。

つまり、過去の問題が組織の内部、ケースによっては外部からも見過ごされていたということになる。

初動対応を見誤ったのも、経営陣側に「これまでもやってきたが、大きな問題にはならなかった」「さほど深刻な問題ではない」「このまま乗り切れるだろう」といった見通しの甘さがあったためだろう。

この12月には、新たに発覚したダイハツの不正行為も加わり、「5大不祥事」と言えるようになるかもしれない。ダイハツの場合は、「初動対応に失敗した」とは必ずしも言えないが、上記の1、2を満たしており、重大かつ深刻な問題へと発展してきている。

たった1年のうちにこれだけの大問題が頻発していることを鑑み、まだ問題が顕在化していない企業も、自社の行動が現代の倫理基準に適合しているのか、いま一度見直す必要があるだろう。

顧客の迷惑行為には毅然とした対応を

2023年は飲食・食品がらみのトラブルも頻発した。コロナの収束によって外出機会が増えたことで、今年は店舗を起点とする“炎上案件”が目立った。

今年の初めに、「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」の回転寿司チェーンにおいて相次いで顧客による迷惑行為の動画・画像が拡散、「寿司テロ」と呼ばれるに至った。それにとどまらず、うどん店「資さんうどん」、牛丼店「吉野家」、しゃぶしゃぶ店「しゃぶ葉」、ラーメン屋「ラーメン山岡家」などでも、顧客の迷惑行為が拡散して問題となった。

コロナ前は、従業員や店員による、いわゆる「バイトテロ」が目立っていたが、今年の迷惑行為は、顧客によるものが多く見られた。

その背景には、一般の人々が気軽に動画を配信するようになったことや、迷惑行為を行ってアクセスを稼いだり人々の注目を集めようとしたりする「迷惑系YouTuber」の影響もあるようだ。

顧客による問題行為に対して、企業側が厳しい対応を講じるようになっていることにも注目したい。

スシローの運営会社「あきんどスシロー」は、迷惑行為を行った少年に対して損害賠償を求める訴えを提起、「くら寿司」に関しては、警察に被害届を提出、迷惑行為を行った顧客は逮捕されるに至った。

これまでは、「企業よりも顧客が偉い」という考え方が一般的で、顧客の行為に対して企業が法的手段を講じることに対しては風当たりも強かった。しかし、最近では企業側を支持する声が優勢となってきている。

もはや、企業は顧客の迷惑行為に泣き寝入りする必要もなくなっているし、むしろ毅然とした態度を取るほうが、支持を集める時代に変わってきている。

顕在化する企業の「コンプライアンス格差」

以上で述べてきた以外にも、情報漏洩、詐欺事件、セクハラ・パワハラ、売掛金を巡るトラブルなど、2023年はさまざまな不祥事が起こった。こうして見ていくと、日本の企業、その他の組織は、時代の流れに乗れていないだけでなく、むしろ退化してしまっているようにも見受けられる。

実際には、すべてがそうとまでは言い切れない側面もある。12月13日、アジア企業統治協会(ACGA)は、アジアの企業統治(コーポレートガバナンス:CG)を評価する「CGウォッチ2023」を公表。日本は前回(2020年)の5位から急伸し、1位のオーストラリアに次ぐ2位に上昇している。

この評価は、企業のコンプライアンスを評価したものではないが、世界市場で評価されるために日本の行政も企業もそれぞれ尽力していることは間違いない。

実際に、株価を見るとこれまで低迷してきた日本株は今年に入って上昇に転じている。日本企業がグローバル市場で見直され始めているようにも思える。

投資家、取引先、消費者のいずれにおいても、グローバルで評価されるためには、倫理基準もグローバル水準に揃えていく必要がある。
 
旧ジャニーズ事務所の性加害問題が、英BBCのドキュメンタリーで取り上げられたのがきっかけとなって国内でも問題化されたこと、その後、スポンサー(広告主)企業が相次いで所属タレントの起用を終了すると発表したことが象徴的だ。

多くの日本企業は、コンプライアンスをグローバル基準に合わせているし、そのための努力も行っている。一方で、今年に不祥事を起こしたような、企業や組織の中には、依然として組織内部の特殊な慣行や旧態依然とした価値観にとらわれている組織も多い。

言ってみれば、日本企業の間では「コンプライアンス格差」と言えるような現象が起こっていると言える。

2023年の一連の不祥事を見ると、コンプライアンス面の整備が遅れている企業も、もはやそのままではいられなくなっている――ということを示しているように見える。伝統や慣習を盾にして、変化を受け入れないという選択肢は、もはや取ることができなくなっていることは、肝に銘じておきたい。

(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)