柴田さんが3人の専門家から教わった「親の介護をするうえで大切なこと」について語ってもらいました(撮影:今 祥雄)

女優として舞台やドラマに出演する一方、明るくユーモアあふれる人柄でバラエティでも人気の柴田理恵さん。その活躍の裏で、富山に住む94歳の母・須美子さんの遠距離介護を6年続けてきたと言います。

そんな柴田さんが、著書『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』を出版。本書では、柴田さんが遠距離介護を決断するまでの過程や日々の介護について赤裸々につづられるほか、「介護」「医療」「お金」の3人の専門家とともに、介護に役立つ知識をわかりやすく解説しています。

インタビューの後編では、柴田さんが3人の専門家から教わった、「親の介護をするうえで大切なこと」について語ってもらいました。

前回:『柴田理恵さん「東京-富山」遠距離介護を決めた胸中

介護のプロでも自分の親の介護は難しい

――著書『遠距離介護の幸せなカタチ』では、柴田さんが「介護」「医療」「お金」の3人の専門家と対談されています。専門家の方たちとのお話の中で、最も印象に残ったことは何でしょうか。

最初に衝撃を受けたのは、長年介護業界で活躍されている川内潤さん(NPO法人となりのかいご代表理事)の言葉です。

川内さんは、「介護のプロでも、自分の親の介護をするのはとても難しい。私が介護職に就いたときに最初に教わったのが、『自分の親の介護はするな』という言葉でした」とおっしゃっていて、「え、そうなの?」と驚きましたね。

――「親の介護は子どもの務め」だと思っていたら、そうじゃないんですね。介護のプロの言葉だけに信憑性があります。

川内さんがおっしゃるには、「子どもが自分で親を介護すると、親は甘えが出たり、依存したりするようになる。子どもも親が思うように動いてくれなくて、ついつい感情的になってケンカになってしまう」そうなんですね。

それを聞いて、自分もちょっと思い当たることがありました。以前、実家を片付けたときに、「これは要らないだろう」と母の物を捨てようとしたんですね。そしたら、ひどく怒られたことがあって。

母がリハビリ施設から自宅に戻って一人暮らしを再開したときも、部屋が散らかっていたので、きれいにお掃除したことがありました。誰かが来たらみっともないし、母も歩きにくくて危ないだろうと思って。

部屋に母がつまずいたら危なそうな収納ワゴンがあったので、それを別のところに移動したら、次にまた実家に帰ったときに元の位置に戻っていたんですよ(笑)。それには少々びっくりしました。

子どもからすると、「親にはきちんときれいに、快適に暮らしてほしい」「危なくないように過ごしてほしい」と思ってしまいますが、それはこちらの勝手な期待なんだなと。

快適かどうか、危ないかどうかは、生活している本人が見極めればいいこと。たまに来る人間が勝手にいじっちゃいけないんだって、よくよくわかりました。

親の介護が必要になったらすぐに外部の支援を

――親子の間でも、線引きが必要なんですね。そういう意味でも親の介護を自分でするのは難しいと。

川内さんは、「親の介護が必要になったら、最初の段階から外部のサービスに頼るべきだ」とおっしゃっていました。

「まだ症状が軽いから」と、子どもが親の介護を担ってしまうと、親はそれに慣れてしまって頼り続けてしまう可能性があるそうです。

老いがさらに進行して、子どもの手に負えなくなっても、親はそのまま子どもに面倒を見てもらいたいと思ってしまう。外部のサービスを受けたがらなくなってしまうと言います。

――柴田さんは、早い段階から介護のプロに相談していましたか。

はい。うちの場合は、父が病気になったときに、かかりつけのお医者さんから「こういう介護サービスがありますよ」と教えてもらったんですね。それから地域のケアマネジャーさんに介護の相談をするようになって、ずいぶんお世話になりました。

母の介護が必要になったときも、同じケアマネさんに相談できたのでスムーズでした。母の性格もうちの家庭環境もよく知っている方だったので、安心でしたね。

――介護のプロにお任せする際に、柴田さんが心がけていることはありますか。

ケアマネさんをはじめ、ヘルパーさんや施設の方々とこまめに連絡をとることです。

「うちの母に何か変わった様子はありませんか?」「何か母のことで困っていることはありませんか?」などと状況をヒアリングしたり。逆に「母がこういうふうに言っているんですけど、どう思いますか?」と、こちらから相談事を投げかけることもありました。

そうやって、常に介護のプロの方たちと密に連絡をとるうちに、「実はお母さんのことで気になることがありまして……」と、状況を打ち明けてくれることもありましたね。

介護の悩みは自分の中で溜め込まないで

――お母さんのことで気になることとは何だったのでしょう。

施設の方が「最近、お母さんが服をぜんぜん着替えない」と、教えてくれたんです。

「何でかな?」と不安になって、母のことをよく知る地元の友達に相談してみたんですね。そしたら、「あの、きちんとした性格のお母さんが理由もなく着替えないなんてことはないよ。何か意味があるはずだから、責め立てないで、お母さんの思いを聞いてみたら?」とアドバイスをくれたんです。

そこで本人に聞いてみたら、「よっちゃんに申し訳なくてね」と言い出したんです。よっちゃんというのは、いつも面倒を見てくれている親戚のヒトシくん(母方のいとこの息子さん)の奥さんで、施設にいる母の洋服も洗濯してくれているんですね。

母が、「よっちゃんは、男の子2人育てていて、洗濯だって大変だろうに。私の分までと思ったら申し訳なくて……」と言うので、「いやいや、お母さんが洗濯物を出さなかったら、よっちゃんは『自分の洗濯の仕方が気に入らないかな?』って心配するよ。だから、ちゃんと着替えてね!」と伝えたんです。

すると、その後から母はちゃんと着替えるようになりました。

こうして現場の方たちが母の細かい変化に気づいて、私に相談を投げかけてくれたのは、日頃から密に連絡を取り合っていたからかもしれないなと。現場の方たちとの意思疎通や連携によってうまく解決できることがあるんだと、改めて気づかされました。


(撮影:今 祥雄)

――なるほど。現場の方とのコミュニケーションもしかり、柴田さんがお友達に相談したのも良かったのかもしれませんね。

ほんと、ナイスアシストでした。その友達も親御さんの介護をしているので、私の気持ちも状況もよく理解してくれているんです。

親の介護のことってなかなか人に話しづらいですけど、自分の中だけで溜め込まないほうがいいと思います。

介護を経験している友達なら、お互いにその大変さを理解し合えますし、自分の親のことだとイラッとすることも、他の親御さんのことなら客観的に見てくれます。

「お母さん(お父さん)にこうしてあげたらいいんじゃない?」と、冷静かつ温かい目で見たアイデアをくれる気がします。

――ほかに専門家の先生からお話を聞いて、新たな気づきなどはありましたか。

在宅医療のスペシャリストの佐々木淳先生から伺ったんですけれど、最近は24時間対応の地域密着型の在宅医療・介護サービスも増えていて、「在宅での療養や看取りが可能になってきている」ということです。

自宅でも点滴や酸素吸入を受けられるなど、介護保険を使って在宅で必要な医療を施してもらえるのは希望が持てました。

母は「家に帰りたい」という思いが強いので、最終的にそういう選択があることも知れてよかったです。

超長寿時代。95歳までのマネープランを

――本書には、「介護にまつわるお金」についても詳しく書かれていますね。ファイナンシャル・プランナーの高山一恵さんから、「マネープランは95歳まで考えておいたほうがいい」とのお話があり、ちょっと衝撃を受けました。

私もです。高山先生が介護施設の職員さんから聞いた話によると、「入居者の方の中には、自分はそんなに長生きしないと思って80〜85歳ぐらいまでの資金しか用意していない人が多い。でも、思いのほか長生きして、資金ショートしてしまい、施設を出ざるを得ない人もいる」と。そのお話は身につまされました。

今どきは元気な80代がたくさんいらっしゃいますし、うちの母も94歳ですから、マネープランを90代まで考えておくのは大切なことだと思いました。

その一方で、先生たちからのお話で目から鱗だったのは、「お金がないならないなりに、限られた予算でも必要な介護は受けられる」ということです。

介護付き有料老人ホームに入るとなると、確かに数千万の老後資金は必要なのかなと思いますが、それこそ介護保険を使いながら、在宅で必要なサービスだけを選んでいけば、金額は大きく膨らまないと聞いて、安心しました。


柴田理恵(しばた・りえ)/女優。1959年、富山県生まれ。1984年に劇団「ワハハ本舗」を旗揚げ。舞台やドラマ、映画などで活躍する一方、明るく飾らない人柄で老若男女を問わず人気を集め、バラエティにも多数出演。著書に『遠距離介護の幸せなカタチ』(祥伝社)のほか、絵本『おかあさんありがとう』(ニコモ)などがある(撮影:今 祥雄)

わが家も母の在宅介護を始めたときは、介護保険を利用した分が月額2万7652円(内訳は、デイサービス/週2回で1万7425円、訪問介護/週3回で8997円、福祉用具レンタル/手すり・介護用ベッドなどで1230円)でした。

そのほか、近所の病院代や生活用品、食費代などで月5万円ほど。1カ月あたり合計7万円台で、すべて母の年金でまかなっていました。

月々の予算も含めてケアマネさんに相談すると、必要なサービスだけを見極めてくれると思います。

――柴田さんは、ご自身の人生の最期について考えることはありますか。

親の人生の終盤に向き合ううちに、私自身のことも自然に考えるようになりました。

母は、なんべん転んでも、病になっても、あきらめずに「私はこうしたい」という望みを持ち続けているんですね。

「おいしいお酒が飲みたい」「自分の大好きな家で暮らしたい」「ご近所さんや子どもたちと触れ合いたい」。そういう希望を常に自分で見つけて、それに向かって前向きに努力するんです。その姿は、自分の親ながらすごいなぁと感心させられます。

それに母は、お世話になった看護師さんや施設の職員さんに、いつもニコニコしながら、「ありがと、ありがと」って言っているんですね。私も晩年は周りの人たちに笑顔で「ありがと」って言える人になりたいです。

介護離職はせず、自分の幸せを最優先に

――柴田さんが笑顔を振りまく姿は、目に浮かびます。

そうですか? うれしいなぁ(笑)。


親って本当にありがたい存在ですよね。自分を育ててくれて、人としての生き方を教えてくれて、最後は「人生のしまい方」を見せてくれている。人はこうやって死んでいくんだってことを、身をもって教えてくれる、「生きるお手本」だと感じます。

――最後に、親の介護に不安を抱えている人に向けて、メッセージがありましたら。

もし親の介護が始まったら、絶対に一人で抱え込まないほうがいいです。どんな親であっても、子どもの幸せを願わない親はいないと思うので、まずは自分自身が幸せだと思う環境をちゃんとキープしておくべきです。

専門家の先生たちも言っていましたが、介護離職はおすすめできません。経済的にも、精神的にも追い詰められ、退職したことをあとで後悔する人も多いと聞きます。

介護はプロに任せて、家族はその後方からサポートをしていけばいい。まずは自分自身の人生を最優先になさるのが一番だと思います。

(伯耆原 良子 : ライター、コラムニスト)