(写真:: takeuchi masato/PIXTA)

コンサルタントは形ある製品がない商売なだけに、その知識や戦略を伝えるための「言葉」を武器にしなければいけない。

では、やり手の経営者や知識豊富な現場の人間、さらには百戦錬磨の上司を前にしたとき、コンサルタントたちはどのような伝え方を意識しているのか?

大手総合コンサルタントファームで働きつつ、プレゼン講師やSNSでコンサル仕事術を発信する、しゅうマナビジネス氏は「まず3秒の一言で、相手に聞く姿勢になってもらうことが重要だ」と話す。

同氏の著作『3秒で伝える コンサルが使う[シンプルな言葉で相手を動かす]会話術』から一部内容を抜粋し、コンサルが駆使する伝え方のコツを紹介する。

ロジカルシンキングを学びすぎると「理屈っぽくなる」

3秒で伝える意識を持つと、ただ情報を並べるのではなく、物事の本質を考えたうえでシンプルに伝えられるようになります。

話す前に少し立ち止まり、「今、最も伝えるべき内容は何か」「相手にとってわかりやすいシンプルな言葉は何か」と考える。

それはロジカルシンキングの思考訓練と同じような効果を生み、物事を論理的に考える力が身につくはずです。

ただ、ここで勘違いしてほしくないのは、「論理的に考える」と「論理的に話す」はまったくの別モノだということです。

現役コンサルとして誤解を恐れずに言えば、ロジカルシンキングを学んだだけでは「相手を動かす説明」ができるようにはなりません。なぜなら、コミュニケーションとは、あくまで“相手ありき”だからです。

そもそもロジカルシンキングとは、分析や推論を用いて問題を解決し、意思決定を行うための思考スキルです。

事実やデータに基づく論理的な結論を導き出すことを重視しているので、「この主張は正しい」「このデータは根拠や事実を示している」と、自分の正しさを証明するのには非常に役に立ちます。

しかし、ロジカルシンキングを学び、客観的事実に基づいて正しい主張をしたのに、相手が動いてくれません。それは「相手の感情や状況をロジックに取り込めていない」からです。

以前、私が所属する組織には、物事をなんでもロジカルに考えるベテランコンサルがいました。

ある日、彼やその部下たちと一緒にランチを食べる機会があったのですが、部下から「和食と洋食のどっちがいいですか?」と聞かれ、「なんで中華はないの?」と面倒な質問(選択肢の抜け漏れを指摘)をして、「噂通りの人だな……」と思ったことがあります。

これはやや極端なエピソードですが、ロジカルシンキングを重視すると、「正しさを求めすぎてしまう」という弊害が起きます。

論理による裏付けを重要性や緊急性などと関係なく求めてしまい、どうでもいいことに対しても“理屈っぽく”なってしまうのです。

あなたも「この人が言っていることは正論だし間違いないけど、どうも気に障るからやりたくない」などと思ったことはありませんか?

私はこういったタイプの人を、「論理的思考の失敗例」と呼んでいます。

人が動くのは「感情に変化が起きたとき」

人は正論だけでは決して動きません。人が動くのは感情が動いたときです。「欲しい」とか「それがやりたい」とか「腹が立つ」「マズい」といった感情変化が起きたときに行動します。

例えば、あなたがデパ地下でついスイーツを衝動買いしてしまったときに、どんな感情が動いたかを考えてみてください。
「お腹が減っていたので、すごく美味しそうに見えた」
「『限定』という言葉に釣られて、つい欲しくなった」
「SNS映えしそうなインパクトがあった」
「これを買って帰ると家族が喜ぶと思った」

こうした、「空腹を満たしたい」「もう買えなくなるかも」「家族の喜ぶ顔が見たい」といった感情の変化が、あなたに「スイーツを買う」という行動をとらせます。

ビジネスの場面でも同じです。
「この商品なら安心して部長に決裁してもらえる」
「この人は信頼できるし安心感がある」
「こんなに頑張ってくれて心打たれた」
「いい案だけど、横柄な態度が気に食わないから断ろう」
といった具合に、感情が動くことでそれぞれ行動に繫がっています。

そのような人間の本質的な衝動に対して、ロジカルシンキングは“感情への訴求”がものすごく弱いのです。

なぜなら、論理的な結論を導き出す時点では、感情を排除する必要があるからです。

「A案とB案があり、データに基づくと明らかにA案のほうが売り上げは上がりますが、A案は嫌いなので今回はB案を採用します」なんて結論の出し方をしたら、データを分析する意味などありません。

だからこそ感情を排除し、あくまで事実やデータファーストで意思決定を行います。

相手に「なるほど」と言ってもらえることを目指す


しかし、感情を排除して論理的に正しい結論を導き出したところで、今度はそれだけでは相手が動いてくれません。

では、相手に動いてもらうにはどうすればいいか? 

そのためには、「論理的に考える」+「相手の感情や状況をロジックに取り込む」ことが必要となります。

これは言い換えれば、「説得」と「納得」の違いです。言葉は似ていますが、2つの違いは主語を考えるとすぐにわかります。「説得」をするのは誰か? そう、これは伝える側の行為です。

一方で、「納得」するのは誰でしょうか? そう、こちらは説明を受ける側の行為です。

私は説明するときはいつも、「相手から『なるほど!』と言ってもらうにはどうすればいいか?」と、意識しています。

単純ですが、相手が納得するということは、「なるほど!」という感情を引き出すことだからです。

正論を振りかざして「説得」をするだけでは、話し手が主体なので、いつまでたっても相手に行動してもらえません。

そうではなく、相手目線に立ち、相手の「納得」を意識して伝えることで、こちらの主張を受け入れてもらいやすくなるのです。

(しゅうマナビジネス : コンサルタント)