(撮影:梅谷秀司)

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会見するダイハツ奥平社長はトヨタ元専務。右はトヨタ中嶋副社長。豊田会長と佐藤恒治社長はこの日不在だった(撮影:尾形文繁)

トヨタ自動車の100%子会社・ダイハツ工業で、2023年12月20日、新車の安全性能を確認する認証試験など25の試験項目で、174個の不正行為が新たに判明した。

衝突試験での不正発覚をきっかけに23年5月に設置した第三者委員会の調査は、国内で現在生産・開発する全28車種で不正が判明する前代未聞の結果となった。報告を受けたダイハツは全国4つの完成車工場で24年1月末まで生産を停止することを決めた。

「しわ寄せがくる実情があった」

「責任は経営陣にある。根幹を揺るがす事態であると重く受け止めている」。12月20日の記者会見でダイハツの奥平総一郎社長は厳しい表情でそう話した。

第三者委の報告書によると、今回認められた不正行為で最も古いものは1989年。30年以上にわたって不正が断続的に行われてきたことになる。

第三者委が不正の原因と指摘したのが、ダイハツが強みとしてきた短期開発によるプレッシャーだ。過度にタイトで硬直的なスケジュールの中で開発が進み「最後の工程である認証試験にしわ寄せがくる実情があった」と総括している。

こうした傾向を強めたのが11年に投入した軽トールワゴン「ミライース」。通常は4〜5年かかるとされる新車開発を、体制改編などを通じ17カ月で実現、大ヒットにつなげた。

第三者委はこの成功体験が短期開発を重視する社内風土を強めたと分析。「認証試験は合格して当たり前。不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなどということはあり得ない」という考えが浸透し、現場任せで管理職が関与しない体制や、チェック体制の未整備、などが重なり、不正につながったと結論づけている。

安全試験や認証に関連する部署の人員が、ピークの10年から22年には3分の1に削減されていたことも明らかになった。

補償内容については部品会社に個別で交渉

これらを経営の責任と指弾する一方、組織的な不正については、「ごく一部の例外を除き、組織的に不正行為を実行・継続したことを示唆する事実は認められなかった」と否定した。

ダイハツは軽市場で3割のシェアを握り、スズキとトップ争いを続けてきた。が、今回の不正発覚で打撃は避けられそうにない。

所管する国土交通省は不正発覚後、ダイハツ本社への立ち入り検査を連日実施。独自の調査結果を踏まえて、量産するための「型式認定」の取り消しや、是正命令といった道路運送車両法に基づく行政処分を検討する。

今後はサプライチェーンや販売店、顧客への影響が焦点の1つになる。ダイハツは2月以降の生産再開について見通しが立っていないという。

帝国データバンクによると、ダイハツと取引のある企業は国内で約8136社、派生する売上高は約2.2兆円に達するという。ダイハツは今後部品会社と補償内容について個別で交渉していくという。

全国のダイハツ販売店は23年末時点で販売を実質停止しており、今後は販売店への支援も求められそうだ。ダイハツによると、顧客に対しても出荷前の契約について頭金の返金に応じるなど個別に相談していく。

「トヨタの傘下じゃなかったら潰れているような事態だ」。ダイハツとも取引があるトヨタ系部品メーカーの幹部はそう強調したうえで、「どれくらいの影響が出るのかもわからない。一社一社細かく補償を決めていくにしてもいつまで時間がかかるのか」と指摘する。

再建に手間取れば「痛手」は大きい

親会社であるトヨタも影響を免れない。野村証券の桾本(くぬぎ もと)将隆アナリストは「仮に、ダイハツが1カ月生産を停止し12万台減産すると、トヨタの売上高は2400億円減少し、サプライヤーへの補償も含め営業利益は1000億〜1500億円減少する」と試算する。


12月20日の会見で質問に答えるトヨタの中嶋副社長(撮影:尾形文繁)

国内60万台、海外50万台を販売するダイハツは、トヨタグループの販売台数の約1割を占める。ダイハツの再建に手間取ればトヨタにとって痛手は大きい。

近年、トヨタグループでは日野自動車や豊田自動織機でエンジン試験の不正が発覚。系列ディーラーでも車検不正や修理代金の過剰請求問題が明らかになるなど、ガバナンスをめぐる不祥事が相次いでいる。

トヨタの中嶋裕樹副社長は20日の会見で「トヨタグループも完璧な会社ではない」と話した。豊田章男会長は出張先のタイで「一日も早く信頼を取り戻せるよう、親会社として全面協力する」と陳謝した。

信頼を最大のブランドとしてきたトヨタ。グループガバナンスを自らの問題として対応する必要がある。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)