郵便物数は2001年度をピークに減少が続いている(撮影:今井康一)

「郵便事業の営業損益は2022年度に▲211億円と民営化後初めての赤字を計上したところ、当社においては、引き続き、賃上げや適正な価格転嫁の推進、郵便利用拡大のための取組を実施していくとともに、更なる業務効率化の取組を推進してまいる所存ですが、それでもなお、営業収益の減少・営業費用の増加を打ち返すことが難しく、今後の郵便事業収支は、別添のとおり、非常に厳しい見通しとなっております」

日本郵便の千田哲也社長は、総務省の玉田康人・情報流通行政局郵政行政部長に宛てた12月13日付の要望書にこう記した。

郵便事業の営業赤字は2023年度に919億円に拡大する。郵便料金を値上げしなければ、赤字はどんどん膨らみ、2027年度には3000億円を突破。2028年度には3439億円にまで悪化する――。千田社長はそんなグラフを要望書に添付した。

千田社長はこうした見通しを示したうえで、要望書を以下の文言で締めくくっている。

「今後とも、郵便サービスの安定的な提供を維持するためには、郵便物数(郵便営業収益)の大宗を占める第一種郵便物も含めた郵便料金の早期引上げをお願いせざるを得ない状況でございます。つきましては、上記総務省令の速やかな改正をお願いしたく、ご検討をお願いします」

上限を省令で定め、日本郵便が届け出

「上記総務省令」とは、郵便法施行規則第23条を指す。定形郵便物の料金上限を定める省令で、現在の上限は84円と明記している。この上限を超えない範囲で、日本郵便は総務省に郵便料金を届け出ている。重量25グラム以下の第一種郵便物、いわゆる定形封書は現在、この上限にぴったり張り付く84円だ。


郵便料金の上限を引き上げるには、総務省令を改正する必要がある。郵便法第73条によれば、省令改正は審議会に諮らなければならない。さらに「郵便法第七十三条の審議会等を定める政令」によれば、その審議会は「情報通信行政・郵政行政審議会」である。

12月18日、松本剛明総務大臣は情報通信行政・郵政行政審議会の相田仁会長に、定形郵便物の料金の上限を110円に引き上げる改正案を諮問した。

2024年1月22日までパブリックコメントを募集。パブコメを受けて同審議会が総務省に答申を提出する。さらに消費者委員会や物価問題に関する関係閣僚会議に付議し、2024年春から夏にかけて省令を改正し公布・施行する。省令改正を受けて日本郵便が新料金を届け出て、値上げが実現するのは2024年秋頃とみられる。

日本郵便の親会社である日本郵政の増田寛也社長は「2024年10月に値上げしたいと日本郵便は考えている」と語る。

重量25グラム以下の定形封書は、今回も上限とぴったり同じ金額の110円となりそうだ。現在は84円だから26円(+31.0%)の値上げだ。消費税分の上乗せを除けば1994年以来、実に30年ぶりの値上げとなる。

はがきは7年ぶりの値上げ

総務省情報流通行政局郵政行政部が作成した12月18日付「郵便法施行規則の一部を改正する省令案ご説明資料」(以下「12月18日付資料」)によれば、日本郵便が第二種郵便物(はがき)も値上げするだろうと総務省は想定している。

想定額は85円だ。現在の63円から22円(+34.9%)の値上げである。消費増税分の上乗せを除けば、2017年以来7年ぶりの値上げだ。

はがき料金は省令に定めがなく、日本郵便が総務省に届け出るだけでいい。ただし郵便法67条により、定形封書よりは安くなければならない。たとえば現在の定形封書84円のままでは、はがきを85円にできない。そこで定形封書の上限が引き上がるタイミングで、はがきも値上げをする。


郵便物数は2001年度をピークに減少を続けている。2001年度には262億通だったが、2022年度は144億通と45%も減少した。総務省は12月18日付資料の中で「インターネットやSNSの普及、各種請求書等のWeb化の進展、各企業の通信費や販促費の削減の動き、個人間通信の減少等」を主な減少要因として挙げている。郵便物数は今後もさらに減少し、2028年度に115億通まで落ち込む見通しだ。


冒頭の料金改定をしない場合の赤字見通しは、こうした郵便物の激減を前提にした試算だ。ただ、12月18日付資料によれば、値上げをしても、郵便事業が黒字化するのは2025年度の1期のみで、再び赤字に転落。2028年度には1232億円の営業赤字を見込んでいる。

再値上げを念頭に

「従来の考え方(改定後3年間の郵便事業の黒字維持)を見直し、経営状況に応じて短期間に再度見直すことも念頭に、最小限の値上げ幅とするとの考え方の下、総務省令で定める上限額の上げ幅も最小限とする」。総務省の12月18付資料にはこう書いてある。

郵便事業の「経営状況」は下のグラフのように再び赤字に転落する見通しだ。すなわち、郵便料金の上限を「短期間に再度見直すこと」は必至だといえる。

さらに「再度の見直し」は今後頻繁に起こると見るのが自然だろう。日本郵政の増田社長は12月22日の定例会見で「何度も値上げをするのは国民の理解を得られにくいのではないか」とする一方で、定形封書を値上げした1994年以降、「米国では17回、英国では20回と先進国は頻繁に値上げしてきた」と指摘した。

「郵便に関する料金は、郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものでなければならない」。これは郵便法第3条の条文である。郵便事業の赤字は郵便法に違反した状態であり、郵便料金の上限引き上げの法的根拠となり続けるからだ。


(山田 雄一郎 : 東洋経済 記者)