2022年3月から東芝の社長CEO(最高経営責任者)を務める島田太郎氏。上場廃止後も続投となった(撮影:大澤 誠)

「光りかがやく東芝を取り戻したい」――。

東芝の島田太郎社長は、そう述べて満面の笑みを浮かべた。憑き物が落ちたようだった。

東芝は2023年12月20日付で上場廃止となり、同22日付で株式併合の効力が生じたことで、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が唯一の株主になった。その日の午前に臨時株主総会が開かれ、新体制がスタート。午後に続投となった島田社長がメディアの合同インタビューに答えた。

経営の舵取りを担う取締役の構成は上場廃止を機にがらりと変わった。非上場化を見届けた渡辺章博・取締役会議長やアクティビストファンド出身の取締役は全員退任。11人から7人に減った取締役には、JIPと東芝が非上場化する際に何らかの形で出資した企業の関係者が入った。

新体制の2つのポイント

非上場化後の新体制には大きくわけて2つのポイントがある。

まず1つは新たに副社長に就任した池谷光司氏を中心とした業務改善のためのプロジェクトチームの設置だ。池谷氏は三菱UFJ銀行出身。2023年6月まで三菱自動車のCFO(最高財務責任者)を務め、現在はJIPの副会長に就いている。

プロジェクトチームでは、組織のフラット化と経営指標の見える化に取り組むことになる。島田社長は、「われわれは階層のうえでフィルターにフィルターがかかった数字を見て(経営)判断をしている。徹底したプロセス改革を進める」と説明した。

プロジェクトチームのこうした動きは2つ目の施策、分社の再編・統合とも深く関係している。

東芝にはエネルギーシステムズ、インフラシステムズ、デバイス&ストレージ、デジタルソリューションズという4つの分社がある。22日付で分社体制を事実上廃止し、今後は島田氏が4社の社長を兼務する。

狙うのはインフラビジネスのデジタル化や事業間の横連携だ。それを進めていくためには、電機や通信など異なる分野の技術者が垣根を越えて連携していく必要があると指摘した。

根底にあるのは、組織形態が時代遅れになっているという危機感。島田社長は「現在の世の中とわれわれ(東芝)の事業部の形があっていない」と喝破した。

単に製品を供給するだけのビジネスモデルから、顧客の課題解決を中心としたビジネスに移行するためには、組織のフラット化が必要だ。実際、事業再編で先行した日立製作所では、複数のビジネスユニットを統括するセクターを設けたほか、「ルマーダ」という標語を掲げて部門間の連携を促した。


2023年12月20日に上場廃止となった東芝。取引最終日の19日は前日終値比5円安で取引を終えた(撮影:梅谷秀司)

東芝ににじり寄る出資者

今回、約2兆円の巨額資金を投じてまで上場廃止を推し進めたのは、海外投資家を中心としたアクティビスト株主の排除が最大の目的だった。東芝経営陣は、立場によってさまざまな意見を持つ株主の意見をうまく集約できず、経営判断が遅れた。

JIPが単独の株主になったことで、最も期待されているのは経営のスピードアップだ。ただ、非上場化の過程で資金の出し手と東芝は急速に接近している。

12月8日には半導体製造大手のロームと東芝がパワー半導体の共同生産を始めると発表した。ロームは東芝の非上場化に3000億円を出資しており、半導体分野で東芝との協業に意欲的だった。

ロームのほかにオリックスや中部電力など国内連合20社超がJIPを通じて出資している。東芝は経営の自由度を確保しつつ、自社の再成長につながる投資を行えるのだろうか。

島田社長にその点を尋ねると、「仕組み上、(ファンドの)裏側で出資をしている方が経営に直接関与するということはない」との答えだった。

一方で、「出資者にはいろいろな、東芝に頑張ってほしいということ以外に事業投資などさまざまな意味合いがあるだろう。1つひとつ(の案件)については是々非々だ」とも述べ、今後の協業にも含みを持たせた。

東芝は現在でも約10万人の従業員を抱え、多数の特許や先進技術を要する企業でもある。各出資者との距離を適度に保ちつつ、協業などでシナジーを生んでいけるのか。東芝だけではなく、親会社としてのJIPの実力も問われている。

(梅垣 勇人 : 東洋経済 記者)