社内で行われている日本語教室の様子(写真:システムアイ提供)

人手不足に苦しむ日本企業。とりわけDX人材は、まさに奪い合いの状況にある。「リスキリングでDX人材を養成しよう!」という国を挙げての「運動」も、急を要する企業の現場では、いまひとつ現実味が感じられないのではないか。

そこで、発想と視点を変える企業が出てきた。外国人採用である。高度なスキルを持ち、なおかつ「日本が好き」な外国人エンジニアを、正社員として採用する企業が増え始めている。

外国人58名が正社員として働く

横浜に本社を置くシステムアイは、1996年に創業されたシステム開発のコンサルティング会社。もともと金融機関向けのシステム開発をメインにしていたが、クラウドやAIなど、新たな技術の台頭を受けて、業容を拡大。2019年に、東証プライムに上場する大手グループの傘下に入り、業務系のシステムだけでなく、一般のコンシューマーが使用するアプリの開発などに事業領域を広げている。

事業拡大に伴って、高度なコンピュータ・スキルを持った人材の採用も積極化。2019年当時は約80名だった従業員は、4年後の今、300名規模になった。特筆すべきは、外国人社員の多さだ。現在、58名が正社員として働いている。

同社社長の葛川敬祐(くずかわけいすけ)さんは、「私が代表になった2019年時点で、外国人社員はゼロでした」と語る。

「何かターニングポイントみたいなものがあったわけではないのですが、技術的な幅を広げていこうと考え、高度なスキルを持つ人材が不足している現状を踏まえると、日本人だけに人材マーケットを絞っているのでは今後は成立しない、と徐々に思うようになりました」


システムアイ社長の葛川敬祐さん(写真:システムアイ提供)

もともとコンピュータ・システムの世界では「オフショア開発」という手法があり、賃金が相対的に安い海外の企業に開発の一部を委託することは珍しくなかった。

葛川さん自身、中国などから日本に来て働いている人とともに仕事をするということはあった。ただ、正社員として雇用するとなると話は違ってくる。日本人だけで構成されていた職場では戸惑いや混乱などもあったはずだ。

「最初に肌の黒い方が入社して来られたときは、社内が結構ざわつきました。でも、今はもう誰もそんなふうに思わないし、当たり前になってきています。それは『いいことだろう』と思っています。特に、IT系人材が足りないと言われている中で、狭い視野で生きていくよりは、いろいろな人と自然に働くことで、社員も成長するでしょう」

「あの頃」の日本メーカーの技術に憧れる外国人

現在58名の外国人社員を国籍別に見ると、中国16名、ミャンマー9名、韓国8名、アメリカ5名、フィリピン4名など、18カ国に及んでいる。

「徐々にですが、外国人が働きやすい会社なんだ、ということが認識されてきたと思います。採用戦略として、いろいろな媒体などで、海外の方が活躍されている、という露出をしているので、求職者が検索したときにそういう情報に当たるということが増え、『それなら安心』と思ってもらえているのだと思います」

素朴に疑問なのは、なぜ彼ら/彼女らは、日本で働きたいと思うのか、ということだ。

「理由は大きく2つに分かれるようです。欧米の方は『日本が好き』、もしくは日本人のパートナーがいる、というのが過半数を占めています。アジア系の方は、いちばんの優秀層はアメリカに行き、その次が日本。どちらかというとキャリアアップ、お金を稼ぐ、そういう目的のような気がします。欧米から来る方に関していうと、日本に憧れるというのに2種類あって、マンガ・アニメが好き、という人と、もう一つは日本の技術に憧れを持っている人。ホンダとかソニーとか、あの頃の日本メーカーの技術ですね」

外国人社員は、みなそれぞれの母国などでコンピュータ・サイエンスを学んだエンジニアだ。

「私が今まで見聞きしてきた中では、アメリカとフランス系のアフリカなどは、大学の教育水準が高いという印象があります。個人差もあるかもしれませんが、知識量が豊富な印象があるのです。日本の大学を十把一絡げにするのは間違っていると思いますが、実践的な教育をする大学が多いように感じます。

一方、海外の大学は、専門領域をしっかり学ばせるので、足腰が鍛えられている。基本的なことをしっかり訓練されている方々は、応用編をやってもキャッチアップが早いものです」

フランクに話せる雰囲気がある

実際に働いている外国人社員にも話を聞いてみよう。

「日本の会社はイメージとして上下関係が厳しい気がしますが、システムアイは、フランクに話せる雰囲気があります」

こう話すのは、チェコ出身のズビニェック・ジュンダーレックさん。囲碁などの文化を通して日本に関心を持ったズビニェックさんは、秋田県にある国際教養大学への留学経験があり、漢字検定3級も取得している。


チェコ出身のズビニェック・ジュンダーレックさん(写真:システムアイ提供)

「今は、Slack、Teams、Webチャットなどのコミュニケーションツールを1つにつなぐシステムのメイン開発者を務めています。どのぐらい日本にいるかは決めていませんが、近い将来のビジョンとして、チームリーダーとして部下を持って、技術的にもサポートできるようになりたいと思っています」

一方、ミャンマー出身のティンザー・ヌゥエ・ウィンさんは、あるクライアントのシステム開発を担当し、設計、開発、テストなどに従事している。

「ミャンマーの大学の同期では、国外で働く人はそれほど多くはありません。私は、いつか海外で働いてみたいと思っていました。日本は、夜、一人で出かけても安心ですし、ルールを守り、横断歩道を勝手に渡らない、というようなところもいいと思います。社内のコミュニケーションで困ったことはありません。一緒に働いている仲間もみんな優しくて、日本語がわからなくても丁寧に説明してくれます」


ミャンマー出身のティンザー・ヌゥエ・ウィンさん(写真:システムアイ提供)

日本に留学経験のあるズビニェックさんも、その生活を満喫している。「日本のいいところは、自然がとても美しい。休日は長野などで登山をしていますが、どこに行っても日本人は親切です」。

ちなみに、お2人へのインタビューは日本語で行った。回答も、もちろん日本語だ。外国人社員の採用によって、システムアイの社内の雰囲気は変わり、新たな文化が醸成されつつあるようだ。

「受け入れる社員の姿勢は、この3年で変わったと思います。当初は、社員にサーベイをとると、『海外の人をうちのプロジェクトに入れてほしくない』みたいな声がありました。でも、それは減っています。外国人と働いてもまったく問題はないし、ともに働くことに価値がある、ということを、みんなが少しづつ肌で感じているんじゃないかな、と思います」

日本企業では「多様性」を重視しようとスローガンのように語られる。しかし、それは掛け声ほどには浸透していない。一方システムアイは、実践を重ねることで多様性を実現しつつある。

ただ、やはり外国人を採用して、本当にうまく馴染むか、日本人社員と協働して成果を上げられるのか、疑問に感じる読者もいるだろう。

外国人を特別扱いはしない

外国人が会社に馴染めるよう、同社はどのような考え方と姿勢で取り組んできたのだろうか。

「外国人社員を特別扱いはしていません」。葛川さんは、こう説明する。「アファーマティブアクション(格差を是正する目的で一定の優遇措置を講じること)みたいなことは、個人的にはあまりやりたくないと思っていて、すべて公平にしていくというのが大事なことではないかと考えています」。

もちろん、受け入れにあたって、雇用契約書などを英語化して、外国人社員が簡単に読み書きできるようにするなど、手続き面での改善はしている。また、外国人社員の要望に応じて、人事部に英語の堪能なスタッフを配置するようにもなった。

ただ、業務面では、外国人も、日本人社員と同等にしている。「むしろ積極的に『日本語がもっと上手にならなければダメだ』と言って日本語で話しかけるなど、彼らにも成長してもらうために対応しています」。

受け入れる社員の姿勢は、この3年で変わった。「そこは、何かルールを作って接してもらうのではなく、カルチャーをつくることが大事だろうと思っています。半年とか1年とか長い時間をかけてちょっとずつ文化を浸透させていく、という考えです」。

社内では、日本人社員が講師を務める日本語教室や、逆に彼らに英語を教えてもらう英語教室などの取り組みがある。また、部活に外国人社員が参加する、という光景もある。

「英語教室で講師をして、それで自信を持ったりする、ということもあります。そういう意味でも、できるだけフェアに扱う、ということですね。広報部が企画して、盆踊りを見にいくとか、海外の方に寂しくならないでもらうような、いい思い出を作ってもらうイベントもしています」


社内で開催されている日本語教室(写真:システムアイ提供)

人事部による社員のアンケート調査でも、外国人の数が増えてきたことによって、上司と部下でカジュアルに話をするようなコミュニケーションをとってもいいんだ、と日本人社員が気付き始めた、という結果が出ている。ルールや制度によってではなく、自然な形で多様性が無理なく尊重され、実現できている。これが、外国人採用による、よい変化であるようだ。

日本人社員も英語で調べ物をするように

一方、業務面では、外国人社員の存在は、どのようなプラス面があるのだろうか。

「ITビジネスにおいては、最新技術に関わる文献やドキュメンテーションが英語で出来上がっているものがかなり多くて、生の情報に当たるという意味では、英語が読み書きできる人が新鮮な情報を持ってくる、ということがあります。

社内には多様なプロジェクトがありますが、各チームで外国人社員が何らかの情報を持ってきて、それを教えられて日本人社員が『俺も英語で調べられるようにしなきゃ』というようなよいサイクルがあります。私たちの領域では、情報上の時差というのはかなり大きいのです。ニッチな技術だと、日本語化されないものもありますから」

手探りで始まったシステムアイの外国人採用は、2020年のスタート時には、日本人と同じように求人サイトでの募集が主たる手段だった。すでに日本に住んでおり、日本語も流暢な人を中心に採用した。日本人と遜色なく日本で働ける層を採用した。

そして2021年からは採用エージェントの利用を始め、本腰をいれるようになった。また、すでに入社した社員による紹介、いわゆる「リファラル採用」も始まった。現在は、日本語レベルが低い人にも門戸を開きエージェント活用とリファラル採用を進めている。

DX人材をリスキリングによって育成するのは、可能性ゼロとは言わないが、現場が求める即戦力人材に対して数的に充足させることは困難だろう。コンピュータ・サイエンスを学んだ外国人を採用することが、最も現実的ではないだろうか。

もちろん不安を感じる方も少なくないはずだ。しかし、やってみると心配するほどではなく、むしろ職場にいい効果をもたらすことは、システムアイの事例でおわかりの通りだ。

日本では英語の先生にしかなれない

葛川さんは言う。「日本に興味を持って移住してくる外国人エンジニアは、日本で働き口を探したときに、やっぱり『日本語が使えない』などの理由で本職につけない方が多い。当社にもいますが、エンジニアなのに、日本では英語の先生にしかなれない、というのです。私たちは、そういう方々を受け入れられる状況になって来ているので、経験豊かな方が来てくれます」。

ここには大きなミスマッチがあり、それは見過ごされているようだ。

「私たちの経営課題として、外国の方でもマネジャーになったり、お客様と折衝ができるようになっていくとか、そういうことをいろいろな軸で実現させたいと考えています。ただ一方で、私の指向性が、全幹部の指向性と同じかというとそうではありません。

わかりやすく言うと、英語が本当に苦手な人もいます。そういう人に外国人スタッフを大量に送り込んでもお互い幸せになれないので、そこは1人ずつの適性を見て、それに合った採用をしていかなければならないだろうなと思っています」

葛川さんは、これからも外国人採用を積極的に進めていこうと考えている。

(間杉 俊彦 : フリーライター)