財務省と各省庁の攻防は師走の風物詩(写真: builderB / PIXTA)

2024年度予算政府案が12月22日に閣議決定された。一般会計歳出総額は、112兆0717億円と、2023年度当初予算の114兆3812億円よりも2.3兆円ほど減った。

ただ、2023年度当初予算には、計上されながら2023年度中には使用しない防衛力強化資金への繰り入れ3兆3806億円が含まれている。これは、防衛力強化資金という後年度の防衛費のために備えておく「財布」に防衛財源を確保しておくものである。

これを差し引いて、2024年度当初予算と比較可能な形にすると、2023年度当初予算は111兆0006億円である。したがって、これと比較すると2024年度予算案での一般会計歳出総額は、約1.1兆円増えている。増加率にして、0.96%増となった。

防衛費にこども予算、診療報酬引き上げ…

無理もない。医療や介護分野での「賃上げ」を反映させる診療報酬・介護報酬の引き上げ、防衛力強化、次元の異なるこども予算の充実と、岸田文雄内閣肝いりの政策が予算で目白押しである。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような歳出増である。

政策的経費のうち、最も増えたのは、防衛関係費である。2023年度の6兆7880億円(防衛力強化資金への繰り入れを除く)から、7兆9172億円へと1兆1292億円増えた。防衛力整備計画で2027年度までの5年間で43兆円程度の防衛費を支出することを決めており、それを推進したものといえる。

次に増えた費目は社会保障関係費で、37兆7193億円と、2023年度と比べ8506億円増加した。その背景の一つには、診療報酬・介護報酬の同時改定の影響がある。

社会保障費については、8月末に提出された2024年度概算要求では、高齢化などに伴う「自然増」として厚生労働省などが5200億円を織り込んだ要求をしていた。これには、年金給付の物価スライドなどによる増加は含まない。

他方、「骨太方針2021」では、社会保障費の実質的な伸びを高齢化による増加分に収めるという「歳出の目安」を設けている。これに基づくと、社会保障費の伸び(年金給付のスライド分を除く)は3700億円程度に収めなければならない。

はたして、社会保障費の査定の結果はどうなったか。

自然増の5200億円から、薬価改定などによる制度改革・効率化を進めて1400億円抑制を図り、3700億円程度の増加にとどめることができた。

ただ、これでは医療・介護従事者の賃上げ(処遇改善)の財源は捻出できない。それに、次元の異なる少子化対策として、2024年度予算政府案と同日に閣議決定された「こども未来戦略」で打ち上げた児童手当の抜本的拡充の財源も十分に工面できない。

そこで、これらの財源のために、インボイス制度導入に伴う消費税収増に相当する1200億円を活用することとした。消費税増税に伴う増収分は、社会保障に充当することとしている。これは、標準税率を10%としたままでも入る消費税の増収分である。

こうして、年金給付のスライド分を含めて、社会保障費を対前年度比で約8500億円増やしたというわけである。

歳出の4分の1を占める「借金のツケ」

社会保障関係費の中で最も多い支出は年金である。公的年金給付では、物価や賃金の上昇を反映して物価スライドや賃金スライドを導入している。目下、物価や賃金が3%超上がっていることから、それに伴い公的年金給付は増えることとなる。

ただ、東洋経済オンラインの本連載の拙稿「年金『世代間の公平』をめぐる与野党の攻防」で詳述したように、年金の給付と負担の世代間格差を縮めるために、マクロ経済スライドが導入されている。物価も賃金も上昇している下では、現行のマクロ経済スライドは発動されることとなっている。

2024年度については、給付を0.4%下げる形でマクロ経済スライドが発動されることとなった。そして、公的年金給付は2.9%引き上げられる模様である。

もう1つ注目すべきは、国債費である。過去に発行した国債の元本償還と利払費が含まれている。2024年度予算案では、国債費が27兆0090億円と過去最高となった。国債費が歳出総額に占める割合は、約24%と、歳出全体の4分の1を占めるほどになっている。過去に負った借金のツケが、じわじわと国の財政の自由度を奪ってゆく。

他方、歳入面をみよう。

一般会計の税収は69兆6080億円と、2023年度当初予算より1680億円とわずかに増えると見込んでいる。これには、岸田首相がこだわった1人あたり所得税3万円、個人住民税1万円の定額減税で所得税収が2兆3020億円減るという影響も織り込まれている。

ただ、対前年度当初予算比で、法人税が2兆4440億円、消費税が8310億円増えるなど、所得税減税がなければ、税収は過去最高を記録して国債発行をもっと抑制できたのだろう。

2024年度一般会計における国債発行は34兆9490億円と、対前年度当初予算比で6740億円減らすことはできた。とはいえ、一般歳出総額に比した国債発行額(公債金収入)の比率である公債依存度は、2023年度当初予算の31.1%から2024年度予算政府案は31.2%と微増している。

好調な税収に支えられ、あれほどの歳出増がありながら、一般会計の基礎的財政収支の赤字は、2023年度当初予算の10兆7613億円から8兆3163億円へと減った。所得税減税がなければ、一般会計の基礎的財政収支赤字は6兆0143億円まで減っていたとみられる。

2025年度は、国と地方の基礎的財政収支黒字化の目標年次である。地方は基礎的財政収支が黒字である。2025年度こそ、国と地方の基礎的財政収支を黒字化して目標を達成すべきである。

財政で物価上昇をあおることは避けられた

確かに、2024年度は歳出増が目立つ予算政府案となった。これをどう見るか。

これまではデフレ下での予算編成だった。物価はほぼ上がらないという中で、名目額の増減が意味をなしていた。

それが今や、物価上昇下の予算編成である。12月21日に閣議了解された政府経済見通しでは、2024年度の消費者物価上昇率は2.5%である。歳出が2.5%を超えて増えれば、物価変動部分を取り除いた実質ベースでも増えたことになる。

しかし、前述のように、一般会計総額の名目ベースの増加率は、防衛力強化資金の影響を除去すると0.96%の増加である。これを実質ベースに直すと、変化率はマイナス1.54%である。実質ベースでは、むしろ「歳出減」が実現したことになる。

名目額では増やして、予算要求側に花を持たせつつ、実質ベースでは歳出の増加率をマイナスとして財政健全化の実を取る。これにより、財政政策で物価上昇をあおらないようにもできる。物価上昇下の予算編成は、こうした工夫が必要だ。

(土居 丈朗 : 慶應義塾大学 経済学部教授)