リョーサンの臨時株主総会は12月19日に東京都千代田区の本社ビル内で行われた(記者撮影)

旧村上ファンドが繰り出す次の一手は――。

半導体メーカーから半導体を仕入れ、電機メーカーなどに販売する半導体商社。中堅商社であるリョーサンと菱洋エレクトロの経営統合が12月19日、両社の開いた臨時株主総会で承認された。

リョーサンの稲葉和彦社長は、「いろいろあったが、大多数の株主から期待を込めてこれから頑張ってほしいと言ってもらうことができた」と、胸をなで下ろす。

稲葉社長の言う「いろいろ」とは、村上世彰氏が実質的に支配する会社がリョーサン株の買い増しを進め、今回の統合に反対したことだ。村上氏は物言う株主として広く知られる。

臨時株主総会の直前に「反対声明」

「旧村上ファンド」と総称されるシティインデックスイレブンスと南青山不動産は、総会での議決権行使が認められる基準日時点で約11%のリョーサン株を保有していた。

リョーサンと菱洋エレクトロが統合を発表したのは今年5月15日。従前から約2%のリョーサン株を保有していた旧村上ファンドは、統合発表直後から買い増しに動く。6月20日には大量保有報告書の提出義務が生じる5%超まで取得。足元では14%を保有する。

淡々と取得を続けた後、旧村上ファンドは総会直前の12月6日に声を上げた。「本総会では本議案に反対の議決権行使を行って本議案の否決を目指す」という声明を発表したのだ。

声明では半導体商社業界の再編には賛成としている。だが、統合後の新会社1株に対してリョーサン株1.32株を割り当てる統合比率が「リョーサン株主にとって不当」との考えを示した。

今回の経営統合は特別決議事項にあたり、可決には3分の2(67%)以上の賛成が必要。逆に言えば、否決に必要な34%のうち約11%を旧村上ファンドが握っている状態で総会当日を迎えた。


シティインデックスイレブンスが公表した「反対声明」。業界の再編には賛成の意を示した(編集部撮影)

とはいえリョーサンの筆頭株主は、統合相手である菱洋エレクトロ。リョーサン株を18%保有する。議決権行使助言会社のISSやグラスルイスも統合議案に賛成を推奨した。

「機関投資家には統合の意義に納得してもらえていて、手応えはある」。リョーサンの稲葉社長が事前の票読みで自信を示していたとおり、実際にフタを開けてみれば、賛成率は82%となり統合は可決された。

反対の意思表示が必須だった?

「不当」な比率での統合が決まってしまったことで、旧村上ファンドはこれからどう動きうるのか。

「そもそも、今回の議案を本気で否決しにいく気があったのかは疑問だ」。そう話すのは企業の買収防衛などに詳しいIBコンサルティングの鈴木賢一郎社長だ。

というのも、旧村上ファンドが反対の声明を出したのは、両社の統合比率が発表されて2カ月近く経ってからだ。総会まで2週間しかなく、ほかの株主の理解を醸成するのに十分な期間とは言いがたい。

加えて反対声明には「弊社は、本総会について議決権の代理行使の勧誘(委任状の勧誘)を行う予定はなく、本書面についても議決権の代理行使の勧誘を行う意図はありません」と記した。控えめなスタンスに映る。

もし本気でなかったとすれば、その意図は何なのか。考えられる理由の1つが「反対株主による株式買取請求権」の行使だ。

これは、組織再編などに反対した株主が、会社に対して保有株の買い取りを請求できる権利だ。権利を行使するためには、株主総会の前に会社に対して反対であることを表明したうえで、総会で実際に反対票を投じる必要がある。

会社に買い取ってもらう価格は、買取請求時や統合承認時の市場株価を参考にするとされている。

統合発表後に急騰したリョーサン株は、大量保有報告書の提出によって旧村上ファンドの保有が知られたことで、その後一段と上昇。足元は約4800円と、旧村上ファンドの平均取得単価である4090円を大幅に上回る。仮にこの価格での売却となれば、約20%のリターンを得られる計算だ。


買取請求権を行使せず14%の保有株を市場で放出すれば、需給悪化による株価の暴落は避けられない。加えて、リョーサンによる自己株の買い付けであれば、市場内での売却よりも節税メリットを得られる。

当初からこの買取請求権の行使を念頭に置いていたとすれば、統合への反対やその意思表示は必須である一方で、統合が実際に否決されてしまうのは不都合。控えめな反対声明を総会直前に出したことも腑に落ちる。

コスモエネルギー株では第三者に売却

「そんな手もあるのか」

臨時総会前、リョーサンの統合相手・菱洋エレクトロの幹部は、旧村上ファンドとコスモエネルギーホールディングス(HD)の対立の結末を知ってうなった。旧村上ファンドは12月1日、保有するすべてのコスモ株を第三者である産業ガス大手の岩谷産業に売却、「不戦勝」で幕を引いた。

半導体商社業界には他業種に比べて小規模な企業が数多く乱立している。これまでにも統合や買収が行われてきてはいるものの、再編の余地はまだまだ大きい。

リョーサンと菱洋エレクトロが統合すれば新会社は業界の2位集団に合流するが、それでもまだ混戦状態。2位集団同士、もしくは下位商社とのさらなる合従連衡はありえる。

そんな中、旧村上ファンドが持つまとまった比率のリョーサン株に興味を示す同業が出てきてもおかしくはない。今後、コスモのケースのように第三者への売却という展開も考えられるということだ。

旧村上ファンドは現在、中堅半導体商社・グローセルの株式を11%超まで買い進めている。グローセルに対しては、業界首位のマクニカHDが2024年2月にTOB(株式公開買い付け)を行うと発表している。グローセルの株価はすでにTOB価格を上回って推移するなど、こちらも波乱含みだ。

リョーサンやグローセルではどういった出口戦略を取るのか。2024年も、半導体商社業界にとって旧村上系ファンドは台風の目になりそうだ。

(石阪 友貴 : 東洋経済 記者)