「親に対するしんどさ」が明らかになってくるのは大人になってから。今の自分をしんどくしている行動を理解し、癒しにつなげていく方法を紹介します(写真:maruco/PIXTA)

「毒親というほどではないけれど、親との関係がしんどい」

そんな親に対する“モヤモヤ”は、大人になった今だから表れた「癒し」の知らせかもしれません。SNS・ブログで人気の心理カウンセラー・寝子さんの著書『「親がしんどい」を解きほぐす』より一部抜粋・再編してお届けします。

親の要求を「断れない」のはなぜ?

親の影響を受けるのは子ども時代になりますが、「親に対するしんどさ」が明らかになってくるのは大人になってからです。

そのため、今のしんどさは子ども時代から地続きであるという視点から見てみると、今の自分をしんどくしている行動の理解につながります。

大人になった今、体験することが多い「しんどくなる行動」の代表的なものに「親の要求を断れない」というものが挙げられます。

「親に言われると断れない」「本当は1人でゆっくりしたいのに、親に頼み事をされると飛んで行ってしまう」ということに疲れを溜めている方々はたくさんいらっしゃいます。

私たちは、どうして親の要求を断れないのでしょうか?

その理由を整理していきます。

親の要求を断ることができない原因に、「断ると親が不機嫌になるから」ということが最も多い理由として挙げられます。

これは、“親の不機嫌さに対する子どものころの動揺”が今も起きていると捉えられます。

大人の負の感情は子どもには抱えきれない強さを持つうえに、生活の危機にも直結します。それゆえ、子どもにとっては身の危機を感じるほどに脅かされるものです。

そのような恐怖から、なんとか親の機嫌を直そうと自発的に動いたことがある子どもは非常に多いものです。たとえ理不尽でも、「親が不機嫌でも放っておけばいい」というわけにはいかなかったのです。

そして「どうにかしないと」という切迫した焦りから、「いつも迷惑をかけている自分が何かしたからかな?」と「自分のせい」と考えることでなんとか対処しようとしていたことが、大人になってからも引き継がれている可能性があります。

子どものころと今を分ける

子どものころの強い恐怖は無意識に心に刻まれ、「親の機嫌を取る」という当時の対処は、適応策として心身が繰り返すようになっていることが多くあります。そのため、大人になってからも、無意識に「親の機嫌を損ねないように」と気をつけ続けていることがあるのです。

けれど、親の機嫌は親の問題であり、本来はあなたが引き受けなくていいことなのですよね。

そして、今は大人になっています。もう、彼らの力は私たちを圧倒するものではありません。大人のあなたは、親の機嫌を取らずとも生きていけるのです。

もし、今も“親の不機嫌さ”に敏感であったなら、「小さいころ、子どもなりに親の機嫌に心を痛めていたのだな」と、かつてのご自身を労(いたわ)る機会にしていきましょう。そうやってご自身を労(ねぎら)っていけたら、親の不機嫌に対する動揺が少しずつ軽くなり、行動が変わっていきます。

「家族」というのは特殊な集団であり、システムでもあります。親との関係性はもちろんですが、きょうだい同士でも相互作用が起きます。

たとえば、長男であれば「子どもの中での長」としてリーダー気質を強めていくかもしれません。長女であれば「下の子の面倒を見る」など、昔ながらの女の子らしさを求められていることを察知して、「いい子」になっていくかもしれません。末っ子は、普通にしていては上のきょうだいに勝てないので、「家庭のムードメーカー」になることで存在感を示すかもしれません。

こうして、置かれた環境との相互作用によって、それぞれが個性を磨いていきます。その中で、親の役に立つことが家庭内での“役割”であったなら、それが大人になっても引き継がれ、親もあなたの対処能力に甘え続けていることがあります。

「子どもは居るだけで価値がある」とは言うものの、現実は暗黙のうちに子どもになんらかの役割を負わせていることは珍しくありません。

今はほかにも選択肢がある

もちろん、家庭の中で“役割”を持つことが悪いこととは限りません。大事なことは、子ども時代はそうするしか選択肢がなかったという点です。


自分で率先してやっていたように見えて、実際は「家庭」という組織の中で居場所を確保するための適応策だった……ということがあります。

“親の役に立つことが子どもの自分の役割だった”ことから、今も親の要求を断れないのかもしれないのです。

けれど、今の居場所は自分で作ることができる大人になっています。かつての「家庭」がご自身の生活のすべてではなくなっているはずです。

親の役に立つなどの“役割”をすべて放棄しないまでも、“役立ち方”は今の自分が加減していいのです。

(寝子 : 臨床心理士・公認心理師)