日中は快速急行を担う3000系だが朝や夕夜間は特急運用にも就く。京都方は列車本数が絞られるうえ特急は在線時間が長いので2本の3000系特急が並ぶ光景も(出町柳駅、写真:松本洋一)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2024年2月号「赤と青 2つのプレミアムカーを堪能」を再構成した記事を掲載します。

大阪淀屋橋と京都出町柳を結ぶ「京阪電車」では快適な指定席車両プレミアムカーが光っている。赤い特急車両8000系での好評を受けて青い3000系にも組み込まれ京阪間の特急と快速急行を主としてサービスに余念がない。そのプレミアムカーを中心に据えて京阪間を往復し 現在の京阪線事情を眺めた。折も折 ライバル会社からもホットなニュースが飛び込んできた。

SFカードとプレミアムカー券を手に快速急行乗車

出町柳から12時06分発快速急行のプレミアムカーで淀屋橋へ。観光の流れと逆の、昼の大阪行きなので、静かに味わえるはずだ。乗車券は「京阪電車大阪・京都1日観光チケット」(1500円)を用意しており、「京阪線」と総称される京阪本線、鴨東線、中之島線、交野線、宇治線の全線と、八幡市駅で連絡する石清水八幡宮の鋼索線が自由に乗り降りできる。関東では見なくなって久しいSFカードが、関西はこうした企画券で現役である。

それに加えて、プレミアムカー券を購入する。34km以下は400円、34km超は500円。プレミアムカー券は、当初は事務室での手売り方式だったが、現在は改札内外やホームに券売機が設置されている。

その券売機は交通系ICカードはじめ電子決済限定で、キャッシュレスサービスをうたう。だが、スマホ画面を券面とするWebサービスは別(会員制)にあるため、券売機からはレシート状の紙券が発行される。お勧めはされないだろうが、車内購入もいちおう可能。乗務するアテンダントが携帯するタブレットで空席を押さえてくれる。料金は変わらない。

1面2線のホームに立つと、赤と黄色の8000系特急と青い3000系快速急行が並んでいる。現行ダイヤは基本15分サイクル毎時4本の特急の中に、所要時間が異なる快速急行を毎時2本挟むから、ホーム両側にプレミアムカー付き列車が並び、わりと接近した間隔で出発する。

乗降口は金箔を貼ったような華やかさ

3000系プレミアムカーに乗車する。一般席の車両は大きく上下2色の塗り分けだが、赤い8000系ともどもプレミアムカーは車体全体の地色に金帯が走り、見た目にも明らかに区別できる。8両編成中の連結位置は、いずれも大阪側から3両目の6号車。金箔を市松に貼ったような、華やかな、しかし嫌味にならない渋さを備えた乗降口では、アテンダントが当該列車の券の所持を確認しつつ、穏やかに迎え入れてくれる。ドアは8000系では片引き式だが、3000系は両引き式という違いがあり、またドア横の窓の列車名表示は、ガラスの裏側に装置を取り付けたものではなく、ガラス自体が一体の表示装置となっているそうで、文字が鮮明。鉄道ファン的にはそのような点に目が向く。

三条と祇園四条で数人ずつの乗客を増やし、七条を発車すると地上に出る。下りの東海道新幹線が京都駅に到着する直前の地点である。京町家が建ち並ぶ中でカーブを繰り返し、鳥羽街道、伏見稲荷……と歴史の町を行く。近鉄京都線と連絡する丹波橋と宇治線を分岐する中書島に停車、そこまでが京都市内である。

客室内は大阪向き進行方向左側が1人掛け、右側が2人掛けで、大柄なリクライニングシートが配されている。座席と室内全体がともに黒とホワイトベージュのコンビネーションで、見た目も肌触りも“品”がある。京阪のHPによると「漆黒色」「生なり色」と称する。座席肩の掴み手、黒革の枕カバーに浮き立つPREMIUM CARの文字、深いヘッドレストの側に配された京阪特急の鳩マークと三ツ星を組み合わせたシンボルマーク……、いずれも金色である。

座席部の床は掃き清めた石庭をモチーフに波紋を描いたカーペットを敷き、足裏の感触がよい。いわばJRの特急グリーン車だが、幾度乗ってもそれ以上のグレードに感じ入る。

なお、8000系での運転開始時はアテンダントに頼むと毛布や携帯充電器を貸してくれるサービスもあったが、接触を回避する対策として休止され、2023年5月に正式に終了が発表された。さらにコロナ禍は、専任アテンダントを張り付ける人的にも京阪史上画期的なサービスであるプレミアムカーの営業自体を相当な苦境に追い込んだ。現在はおそらく旧に復したようで何よりである。それと、以前は男性アテンダントは少なかったようだが、今回は相当の頻度で見かけた。その点も時代の変化かもしれない。

ふと窓上のステッカーに目を止めると、「ナノイーX」の搭載を示していた。特段の表示は、パナソニックが京阪沿線を代表する企業としての関係性であるのかもしれない。


プレミアムカーに着席して「生なり色」の背面を眺めると、見るからに手触りのよさそうな品格ある生地。網ポケットには SANZEN−HIROBAの案内(写真:松本洋一)

JRAの京都競馬場を見ると淀を通過、ほどなく木津川と宇治川を渡って大阪府に入る。川を挟んだ平地がぐっと狭まり、JRや阪急京都線が走る対岸に天王山を望む。このころ、アテンダントはプレミアムカーグッズの販売を案内。座席生地や、枕カバーと同じ革を使った財布、ケース、車内の車号銘板と同デザインのキーホルダーがそろえられ、いずれもそれなりのお値段で、グレードが高い。

中計にプレミアムカー増備 3000系で実施か

2023年3月末に京阪ホールディングスが発表した京阪グループ長期経営戦略・中期経営計画「BIOSTYLE〜深化と挑戦〜」における2025年度までの運輸業の事業戦略を見ると、その中の一つに「プレミアムカーの増備」が記載されている。

プレミアムカーの利用者数は、誕生初年の2017年度を100とした場合の指数が2019年度は200に達した。コロナ禍の2020年度は140以下に落ちたようだが、翌2021年度は3000系への連結があり220近くまで回復、さらに2022年度は300を突破するなど好調ぶりを続けている。そのために増車されるようだ。

公式には示されていないが、3000系について2両にするもようである。2両にすれば、京阪の立場としては料金収入の倍増が可能なほか、アテンダントは2両に1人となるから人件費のコストパフォーマンスが向上する。3000系は6号車の隣の7号車も付随車であり、車両の組み換えは容易である。対する8000系は7号車が電動車だから、1両ずつ外して大改造するのは難しい。編成自体の経年もあり1両のみ新造車に差し換えることも現実的でなかろう――等の諸々から、そのように推測されるのだが、果たして……。

阪急からPRiVACE導入のビッグニュース

中計にはさらに、プレミアムカーの増備とともに「特別な乗車体験の提供」に含まれる内容として、沿線エリアへの誘客強化を掲げた「観光列車の導入検討」も項目に挙げられている。特別な観光用車両を新造で用意するのはハイリスクである、とは事業者においては常識的に言われることで、とすれば8000系の改造あたりが有力か。

京阪のこうした話題の中、阪急電鉄からも大きなニュースが飛び込んできた。同社京都線にかねて検討中と伝えられていた指定席車両を導入することが10月6日に明らかにされ、さらに11月21日には車両の姿のCGとともに、名称を「PRiVACE(プライベース)」とすることが発表された。

神戸・宝塚線の新型通勤車2000系とともに、京都線には新型特急車として2300系を新造し、2024年夏から順次、営業運転に投入する。2013年以来11年ぶりのモデルチェンジで、伝統のマルーンカラー、木目調化粧板、ゴールデンオリーブ色の座席など“阪急電車”のイメージを継承しつつ前面窓ガラスに曲線を取り入れ、疾走感を醸すデザインに変更、安心や快適性のアップを目指してバリアフリー設備の充実、省エネルギー性の向上、セキュリティ面の強化を図る。PRiVACEは、こうした京都線新特急車2300系の大阪方から4両目に連結されると言う。

京阪線と阪急京都線は、ときに国鉄〜JRの東海道線(JR京都線)も交えて耳目を集める競合関係にある。京阪の旧3000系特急車は1971年登場、阪急の6300系は1975年、京阪8000系は1989年……。京阪が2階建て車を旧3000系編成からスタートさせたのは1995年、その後、阪急は2003年から9300系新特急車を導入、旧特急車6300を利用して観光向けの「京とれいん」を2011年に運転開始、京阪プレミアムカーは2017年、「京とれいん雅洛」は2019年。互い違いの中に、京阪と阪急はつねに相手の動向に注目していた感が伝わってくる。そして今回、かねて「均質なサービス」を言っていた阪急が有料サービスに乗り出すことは、京阪プレミアムカーをつぶさに研究していたに違いない。

プレミアムカーと対照的なクラシックムード

そうして明らかにされたPRiVACEは、じつに阪急らしいクラシックさを醸す内外装で、モダンに寄ったプレミアムカーと好対照。ホームページに特設されたPRサイトでもカジュアルで身近な感覚の京阪のイメージキャラクター「おけいはん」とは対照的な、エレガントな容貌のモデルがムードを演出している。


京都線の特急系列車(特急・通勤特急・準特急)において当初は1時間あたり2〜3本でサービス開始、当面は現行特急車9300系に指定席車両を連結する。2025年頃には運転本数は同4〜6本に拡大される予定で、車両も新型2300系に統一される。実際の座席、具体的な運転開始日、料金等の発表が待たれるところだ。
 

(鉄道ジャーナル編集部)