12月9日、10日に東京ドームで開催された、ラブライブ!との合同ライブ(写真:バンダイナムコフィルムワークス)

曲が始まるたびに大きな歓声が沸き、輝くサイリウムとともに会場は熱気に包まれた。

12月9日、10日に東京ドームで開催された、バンダイナムコミュージックライブ制作の「異次元フェス」。第一弾は、バンダイナムコグループが展開する「アイドルマスター」シリーズと「ラブライブ!」シリーズの合同で行われた。2日間で現地とライブ配信合計で27万人を動員し、大きな盛り上がりをみせた。

アイドルマスターは2月に同シリーズ史上最大規模となる東京ドーム公演を成功させたほか、2023年だけでアニメーション作品を3本も公開。IP(知的財産)の展開拡大を続けている。

ゲームセンター向けから誕生

アイドルマスターシリーズは2005年、ゲームセンターのアーケードゲーム「THE IDOLM@STER」として誕生した。ユーザーがプロデューサーとなって架空のアイドルを育成する、シミュレーション・音楽ゲームだ。

その後2006年には、アニメ、ライブなどメディアミックス展開を図る「PROJECT IM@S」を発表。2009年からは「2nd VISION」と題し、多角的なメディアミックス展開をより強化する方針を打ち出した。

さらに2011年以降、「シンデレラガールズ」「ミリオンライブ!」「SideM」「シャイニーカラーズ」の4つのブランドを新たに立ち上げ、ブランドごとにゲーム展開やライブ活動などを行い、ファン層を広げてきた。

2019年度には、バンダイナムコエンターテインメントおよびパートナー企業のアイドルマスター関連の商品・サービス等の売り上げ推定総額は600億円を突破。その後もさらなる展開を図っている。

ゲーム内でのアイドルプロデュース体験の提供を起点に、メディアミックスで各方面での展開を強化していくという流れが、アイドルマスターをここまでの人気IPへと飛躍させた。

バンダイナムコエンターテインメントで765プロダクションゼネラルマネージャーを務める波多野公士氏は「アイドルマスターはアイドルが題材だっただけに、音楽やライブへの展開は、世界観を広げるために必然だったのだろう」と分析する。

そして2023年2月に行われた東京ドーム公演では、5ブランドのアイドルたちが初めて同じステージに集結した。この合同ライブにより、2009年から始動した2nd VISIONは1つの到達点を迎えた。

MR技術を駆使した体験の進化

メディアミックス展開と新規ブランド立ち上げで規模を拡大してきたアイドルマスターが今、新たな戦略として打ち出しているのが「3.0 VISION」だ。MR(複合現実)を駆使したリアルとデジタルの融合によるアイドルプロデュース体験の進化に力を注ぐ。


7月に神田スクエアホールで開かれた「765 MILLIONSTARS LIVE 2023 Dreamin' Groove」の様子。MR技術を駆使したライブイベントだ(写真:バンダイナムコエンターテイメント)

例えば、バンダイナムコ未来研究所内にある、xR技術やリアルタイムモーションキャプチャ技術などが搭載された自社スタジオも活用しながら、MRを駆使した生放送などを配信。2023年7月に神田スクエアホールで開催されたMRライブイベント「765 MILLIONSTARS LIVE 2023 Dreamin’ Groove」は、「”MR”-MORE RE@LITY-」と掲げられたプロジェクトの中で、よりアイドルの実在感を高めることを狙いとして開催された。

また、ストリーミング配信を中心としたアイドルプロジェクト「PROJECT IM@S vα-liv(ヴイアライヴ)」の立ち上げなど、従来なかった手法でのIP展開も進めている。

昨今、VTuberなど新たなエンタメコンテンツが台頭する中で、アイドルマスターも新しい技術に適応するようなIPとして展開を模索している段階だ。

「アイドルマスターは、新しい技術やコンテンツに対してものすごく寛容でチャレンジングなIP。時代の変化に合わせてアップデートしていく必要がある。自分たちがやりたいことに技術が追いついてきており、アイドルが実在するような演出をするうえでの技術的ハードルも越えられると考えている」(波多野氏)

新技術を駆使した体験の進化とともに、直近で動きが顕著になっているのが、行政などのライセンスパートナーとの取り組みだ。

アイドルマスターシリーズ全体では、現在300人以上のアイドルが存在する。それぞれに異なる個性やストーリー、バックグラウンドがあるため、パートナーの特性に適応しやすい。ライセンスパートナー件数は年間数十%ペースで増えており、観光大使就任など地方創生の分野での協業もある。

ファンの熱量維持に重要なことは?

活躍の場が一段と広がる一方で、チャレンジングなIP展開により、これまで楽しんできたコンテンツの変化を懸念する既存のファンもいるだろう。こうした変化とファンの熱量を両立するために重要なこととして、波多野氏は「プロデューサー(ユーザー)との継続的なコミュニケーション」だと話す。

「アイドルプロデュース体験という軸がぶれなければ、どんどんチャレンジしていきたい。一方で18年間支えてくれたプロデューサーさんもかなり多く、納得感を得て、応援していただけるようなコミュニケーションの取り方を、運営チーム一同、考えてやっていきたい」(波多野氏)

2023年は3.0 VISIONはじまりの年として、さまざまな取り組みに着手した年だった。2024年以降はこれまでのライブやゲームなどの事業をしっかり進めつつ、IPを広げていくため3.0 VISIONで注力する複合現実などの領域に積極的に挑戦するという。

長年のファンからの支持を強固にしつつ、ビジネスの裾野をどこまで広げられるか。アイドルマスターの挑戦はまだまだ続きそうだ。

(武山 隼大 : 東洋経済 記者)