CEOは何をみて経営トップのチームメンバーを決めているのか(写真:metamorworks /PIXTA)

経営のみならず、チームを率いる立場になった場合、自らのチームをどんな人材構成にするかを考えるのはその後のパフォーマンスを左右する重要なミッションだ。本稿では、世界中から選りすぐられた「ベストなCEO」たちのマインドセットと行動習慣をまとめた『マッキンゼー CEOエクセレンス――一流経営者の要件』から、上級経営幹部のチームに入れるべき人材、外すべき人材について紹介する(一部を省略・再構成しています)。

人ではなく「役割」から考える

誰をチームに入れるべきかを正しく検討するには、人ではなくまず役割から入るべきだ。どんなトップチームが会社を前進させるのだろう? どんな知識やスキルが必要だろうか? どんな経験が必要だろうか? 譲れない適性と心構えは何だろう? ダイバーシティ、公平性、インクルージョンについては? ベストなCEOはこうした点を考慮しながら、トップチームを慎重につくりあげていく。

アディダスのヘルベルト・ハイナーは、チームづくりにおいて全体と個々を考えることの重要性を、ヨーロッパのサッカーを引き合いに出して強調した。

「ひとり一人全員がストライカー、あるいは全員がゴールキーパーではプレーになりません。必要なのは、卓越したゴールキーパー1名、卓越したストライカー1名、そして彼らをサポートする卓越した選手たちです。互いに頼りにできる、信頼とシナジーが感じられるチームを築くことが、CEOの最も重要な役割の一つです」

ソニーの平井一夫は、自身が行ってきたトップチームの人選方法を説明した。「私が基本的に求めたのは、その人物に事業運営を頼むことになる分野での経験と実証済みの能力です。それはテレビ、デジタルイメージング、映画、プレイステーションといった、どんな事業でも同じです」。

さらに、そうした素質に加えて、次のような姿勢も重視した。「上司に反論ができて、自分の意見を述べることを恐れず、大胆に実行できる、そういった能力を発揮できる点も重視しました。上司やCEOの考えに対して、それが良くないと言える人物でなければならないのです。みなを集めたとき、私が期待しているのはそうした能力だと伝えてきました」。

とりわけ、ベストなCEOのほぼ全員が求めている素質は、短期的および長期的な物事のバランスをうまく取る能力だった。GMのメアリー・バーラは、次のように説明している。

「最初の頃は、『とにかく、この人には売って売って売りまくってもらおう。それで十分だ』などと思っていました。たしかに、あるレベルの役職までは、それでもいいかもしれません。しかし、最上位クラスの役職者の大半には、短期的な実践をすぐに結果につなげながらも、地平線を見渡して将来の計画も立てられる人が必要だということがわかってきたのです」

チームにおける「多様性」

チーム全体の構成も、検討すべき重要な点だ。資生堂の魚谷雅彦はトップチームをつくる際、半数を生え抜き組、残りの半数を中途入社組にした。

DSM(オランダのライフサイエンス・化学大手)のフェイケ・シーベスマは、自身がCEOに就任する前は、経営幹部たちは「1人のレディとたくさんのジェントルメン」と冗談交じりで称されていたと嘆いた。シーベスマは300名のリーダーの3割、そして取締役会とトップチームの半数を女性が占めるよう徹底した。

アホールド・デレーズのディック・ボーアは、メンバーの半数が経験ある社内の人間、もう半数が社外から招いた人間によるチームを築いた。インド最大の民間銀行ICICIの元CEOであるK・V・カマートは、「30代前半」の若き知性を自身のチームに増やそうと努めた。

ふさわしい素質と優れた心構えは、備えているに越したことはないというものではなく、チームのすべてのメンバーにとって極めて重要なものだ。ベストなCEOはそれらが備わっていない人物には何らかの対処をするが、その方法は迅速かつ公正だ。

チームから人を外す前に、ベストなCEOは次の問いに「はい」と答えられるかどうかを確認する。

・そのチームのメンバーは、自分に何を求められているのか(課題が何で、それを解くために何をやらなければならないか)を正確に把握しているか?
・必要なツールやリソース、およびそれらを効果的に使うスキルや自信を身につける機会が与えられてきたか?
・そのメンバーは、共通の目標を目指すマインドセットや振る舞いを実践する人々(CEOも含めて)に囲まれてきたか?
・チームのメンバーとしてうまく動けず成果が出せなかった場合、どんな結果が待ち受けているかが明確に示されているか?

何かを変えるのなら早めに変える

B級選手がA級選手になれるようサポートするための公正な取り組みは、通常は何年もかけずに数カ月で行うべきものだ。ロッキード・マーティンのマリリン・ヒューソンは、次のように説明する。


「あなたが新たなリーダーになってすぐの段階なら周りは変革を受け入れやすいので、物事を早めに変えるほうがいいです。しばらく現状を維持すると人々はそれに慣れてしまい、あなたがようやく変革しようとすると、彼らは突然足をすくわれたような気がしてしまうのです。すると、こういった取り組みはより一層難しくなります」

同じような意見を持つウエストパック銀行のゲイル・ケリーは、別の観点からも指摘する。

「成功のためのお膳立てをこちらでしたにもかかわらずうまくいきそうにもない人が、その後成功することは極めてまれです。だからこそ、こうした決断は早めに行わなければならないのです。それが本人にとっても、会社にとっても最善の策です。その仕事に向いていないことを話しあえるという点で、相手にとって最も納得できる対処法といえます。あまりに長く放置してしまうと、そういった話しあいはできなくなってしまいます」

最後に、エーオンのグレッグ・ケースは、公正に対処することについて次のようにアドバイスしている。

「経営幹部を異動させようとするときは、十分な配慮が必要です。あなたが思いやりをもって対処しているかどうか、周囲の他の経営幹部たちも見ています。会社を前進させるための現役選手でなくなるからといって、その人自身が決してすばらしい人物ではないわけでも、過去に多大な貢献をしなかったわけでもありません。その人のこれまでの成功を称え、新たな出発を称えましょう」

(キャロリン・デュワー : シニアパートナー)
(スコット・ケラー)
(ヴィクラム・マルホトラ : シニアパートナー)