12月11日に新宿で行われたジャパンプレミアイベントより。およそ10年ぶりの来日を果たしたザック・スナイダー監督。(Netflix映画『REBEL MOON:パート1 炎の子』12月22日(金)世界独占配信、『REBEL MOON:パート2 傷跡を刻む者』24年4月19日(金)世界独占配信)

『300<スリーハンドレッド>』『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』のザック・スナイダー監督が構想に数十年という歳月を費やして完成させた2部作SFの前編となる『REBEL MOON:パート1 炎の子』が12月22日よりNetflixにて配信中だ。

黒澤明監督の名作『七人の侍』にインスパイアされた本作は、銀河の支配者から自由を奪い返すべく立ち上がった7人の英雄の戦いを壮大なスケールで描き出すSFスペクタクル超大作だ。

本作のメガホンをとったのは、ハリウッドきっての鬼才ザック・スナイダー。芸術家の母親のもとに育ち、若き日にロンドン、カリフォルニアで学んだ絵画のセンスを色濃く反映した彼の独自なビジュアルスタイルは、まずはCMの世界で大きく花開き、その後に映画界に進出。

ハリウッドでも異質の個性を放つ

深い陰影に彩られた絵画のような世界観や、ユニークなストーリーテリング、ダイナミックなカメラワークから繰り広げられる激しいアクションなど、彼の斬新、かつ大胆な映画制作スタイルは、ハリウッドでも異質の個性を放つこととなった。

そこで今回は『REBEL MOON』のプロモーションのために来日したザック・スナイダー監督にインタビューを実施。ハリウッドで活躍するうえで、いかにして個性を失うことなくクリエーターとしてのオリジナリティーを守ってこられたのか。独自のビジョンを映像化させるために日々、心がけていることは何なのか、などについて聞いた。

――ハリウッドで自分自身の個性や、創作の自由を守るというのは非常に難しいことだと思いますが、そんな中でスナイダー監督はクリエーターとして、ハリウッドの中で強烈な個性を放っています。自分のオリジナリティーをどのようにして守っているのでしょうか?

確かに振り返ってみると、自分のキャリアにおいて自分のクリエーティビティーを守るためにずっと戦ってきたなという感じはありますね。

作品づくりにおいて、芸術性と商業性のバランスを取らなくてはならないわけですが、そのあんばいを見つけるのはなかなか難しい。

でもさいわいなことに、自分が発表してきた過去の映画は、本編とは別に、ディレクターズカット版もつくることができたので。それである意味、自分のオリジナリティーを守ることはできたかなと思っています。

――今回タッグを組んだNetflixとの関係性はどうなんですか?

Netflixとの関係はほかとはまた違っていて。(2021年にNetflixで配信されたゾンビ映画)『アーミー・オブ・ザ・デッド』も好きにやっていいと言ってもらえた。もちろん内容についてはいろいろと話し合いはしたけれども最終的には彼らは完全にサポートしてくれた。


大ヒット映画『キングスマン』で義足の殺し屋を演じたソフィア・ブテラ(中央)は、本作でもキレのいいアクションを披露している。(Netflix映画『REBEL MOON:パート1 炎の子』12月22日(金)世界独占配信、『REBEL MOON:パート2 傷跡を刻む者』24年4月19日(金)世界独占配信)

そういう意味でNetflixは自分のことを信頼をしてくれているなと感じましたね。実は今回、配信版と同時にディレクターズカット版も一緒につくるというやり方をしていて。

将来的にディレクターズカット版をリリースすることを見越して、それ用の素材も一緒に撮影したんですが、そういうことも初めてなんですよね。

だからすごく守られた感じがありましたね。なんだか不思議な感じなんですけど、今作はすごく解き放たれた感じというか、自由がありましたね。

ビジョンを実現することの難しさ

――今回は自分のビジョンを守るための自由を得たということですね。

自分自身のビジョンを実現させるということに関しては、ひとつのやり方しかできないんですよね。それを守ろうとしていろいろな壁にぶつかったこともあるわけですが。

正直言うと、自分のビジョンが求められる一方で、なぜか自分のビジョンが世に出ることに対してものすごくナーバスになる人たちもいるんですよね。その理由はよく分からないのだけれども……。

ただ『REBEL MOON』に関していえば、スタジオとフィルムメーカーの自分との関係が、はじめてクリアな形で合意形成された作品でしたね。


本作主人公のソフィア・ブテラは「わたしは自分の仕事を心から愛している人が好きだけど、ザックはまさにそういう人だった」と語る。(Netflix映画『REBEL MOON:パート1 炎の子』12月22日(金)世界独占配信、『REBEL MOON:パート2 傷跡を刻む者』24年4月19日(金)世界独占配信)

――これだけパワフルな作品をつくりあげるスナイダー監督は、ものすごいハードワーカーな方なのではないかと思ったのですが。

その質問に関しては、もちろんイエスだと言わざるをえないですね(笑)。それは全然恥ずかしいことではなく、自分はワーカホリックだと言い切ることができます。

だって映画監督というのは最高の仕事だし、この仕事ができること自体が恵まれているわけだから、それを当たり前のことだと考えないようにしています。

――『REBEL MOON』のような、これだけ壮大なビジョンを実現するためには、キャストやスタッフ、いろいろな人の力を引き出さなきゃいけないと思うんですが。相手の力を引き出す秘訣(ひけつ)はあるんですか?

相手の持っている力を引き出すための一番いい方法は、ほかの人がやる以上に、まずは自分が仕事を頑張って、熱意を持ってやるということに尽きると思うんです。

自分の頑張っている姿を見てくれることで、まわりの人たちも、それに呼応するように立ち上がってくれるんですよね。そうすることによって、彼らがより多くのものを作品にもたらしてくれると思っています。


ザック・スナイダー監督の公私にわたるパートナーであるプロデューサーのデボラ・スナイダー(Netflix映画『REBEL MOON:パート1 炎の子』12月22日(金)世界独占配信、『REBEL MOON:パート2 傷跡を刻む者』24年4月19日(金)世界独占配信)

――スナイダー監督は、妻のデボラさん、製作パートナーのウェスリー・カラーさんとともに、自身の製作会社The Stone Quarry(ザ・ストーン・クアリー)を運営していますが、そのことも創作の自由を守ることにつながっているのでは?

それは間違いないですね。僕とデボラとウェスリーとの関係性というのはサンクチュアリ(聖域)であり、インスピレーションを受ける場所でもあるわけで。彼女たちによって創作の自由が守られている感覚はありますね。

僕がアイデアを考えだし、デボラたちがそのクリエーティビティーを守ってくれる。これは最高の環境です。

特にデボラとは24時間ずっと一緒なわけですが、僕らの場合、真夜中であろうが、朝ご飯の時であろうが、四六時中映画の話になるわけで。そばから見るとそれは強烈に思われるかもしれないですが、楽しいですね。

カメラマンを兼任することで気づくこと

――ワーカホリックの監督にとっては、最高の環境ですね。

その通りですね(笑)。

――映画監督というのは、いろんなことを瞬時に決めなくてはいけない仕事だと思うんですが、何か思考を整理する方法などはあるんですか?

思考を整理する方法とは違うかもしれないけど、彫刻をつくったり、絵を描いたりするようなアプローチに近い感じかもしれないですね。

つねに進行しているものを見ながら、好きじゃない部分を削っていき、自分が望む形になるまで調整を続けていく、という感じなので、問題解決という能力に関しては、割と長(た)けているんじゃないかなと思います(笑)。

自分は監督と同時に、カメラマンも兼任しているので、監督をやっているだけでは気がつかない、技術的な問題に気づくことも多い。手を動かすことで認識することもあるわけですし、これはいる、これはいらないというのは自分にしか言えないわけなので。

だからスタッフが必要なときに答えられるように、そこにいるということも必要です。

――面白い仕事ですね。

確かにほかと違ったスキルを求められる仕事だと思います。ある意味、秘密のベールの裏側にいるアーティストのような感じでありながら、同時に技術的な職人というか。現場でものをつくりあげるという、両方の側面を持ち合わせている仕事なので。

それと自分はプロデューサーでもあるので。ほかの作業をしているときに、使っていない照明が目に入ったりすることもあるわけです。

そうすると「あそこの照明機材、もし使わないんだったらレンタル代も高くつくから返していいよ」と言って、制作費をセーブすることもありますよね。マルチタスクというのはそうかもしれないですね。

――どうやったらスナイダー監督のようにエネルギッシュに働くことができるんでしょうか?

自分の仕事に対する哲学は、たとえ仕事のタスクが何であれ、自分の中の一番高いレベルでベストを尽くすこと。それは職人的な考え方かもしれないけれど、何をつくるにしても極めることが大事だと思う。

それは休日にビーチに遊びに行って砂のお城をつくるときであっても、役員がたくさんいるようなミーティングであったとしても、同じアプローチです。ディテールを大切にすることを心がけてますね。

プロジェクトへの向き合い方

――こうした大規模なプロジェクトを遂行するにあたり、長い期間にわたって情熱を燃やし続けないといけないと思うのですが、どうやってそのモチベーションを保っているのですか?

これは錬金術みたいなもので、なかなか説明できることではないんだけど、自分のDNAの中に組み込まれているということはあると思います。朝起きた時に、つくりたい、やりたいという思いが湧き上がってくる。それはけっしてドラッグとかではないんだけどね(笑)。

ある種のアドレナリンみたいなものというか。あと自分はいろいろなプロジェクトを進行させているので、飽きることがないんですよ。いつも何かをしているから楽しい、というか。それと絶対に完成しないプロジェクトを用意しておくことも大事ですね。それは仕事でなくても、植木を育てるとか、そういった趣味でいいわけですけど。

そうすることで、たとえば『REBEL MOON』の作業に煮詰まったときに、別のことに向き合うようにすれば、気分もリフレッシュすることができるし、そこからまたフレッシュな気持ちで『REBEL MOON』に向き合うことができる。自分はそういうふうにしてプロジェクトに向き合うようにしています。

(壬生 智裕 : 映画ライター)