ゴミ屋敷に暮らすペットの現状とは(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

そのゴミ屋敷は、家主の女性が夜逃げをした現場だった。ハンガーラックの下に落ちていた上着のファーを拾い上げようとすると、それはミイラ化したペットの猫の死体だった。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長が、ゴミ屋敷に暮らすペットたちについて語った。

毛皮かと思ったら、猫の死体だった

ある日イーブイのもとへ、リフォーム会社からゴミ屋敷清掃の依頼があった。そのリフォーム会社は、物件の管理会社から工事を頼まれたが、まずは部屋の中に残った荷物を搬出しないことには手を付けられない状態だった。住んでいたのは20〜30代ほどの若い一人の女性。家賃の支払いが滞り、管理会社が現場を訪れると、すでに夜逃げをした後だったのだ。二見氏が、現場の様子を思い出しながら語る。

「スタッフの一人がハンガーラックの下にある毛皮を拾おうとしたんです。上着についているファーだと思ったそうなんですが、骨がそばにあるのですぐに動物の死体だとわかりました。すでにミイラ化していましたが、猫であることは確認できました。飼い主の上着に包まるような形で亡くなっていったんだと思います」(二見氏、以下同)

部屋の窓はすべて締め切った状態だった。ペットを置き去りにしている時点で許されたことではないが、窓さえ開けておけば猫も逃げることができたかもしれない。ただ爪を研いでいただけかもしれないが、周辺は猫の爪痕でボロボロになっていた。

「お腹が空いて苦しんだ末に爪を立てたのかもしれません。実際のところどうなのかは知る由もありませんが、そう考えざるをえないような状況でした。窓がすべて閉まっていたことからも、外から入ってきた猫ではないことは明白です」


本文の事例とは異なるが、ノラネコが入り込んでいることもある(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


イタチが飛び出してくる家もあった(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

家のどこかで猫が2匹死んでいるかもしれない

家主が夜逃げをしたとはいえ、本人の許可なしにイーブイが猫の死体を埋葬してしまうと、不法投棄となってしまう恐れがあるため、清掃部局といった行政に相談するしかない(自治体ごとに対応は異なる)。

ある田舎の現場では、井戸の中で野良猫が死んでいたことがあった。行政に連絡をすると、「井戸の中までは入れないので、外に出してくれれば現場に向かう」とのことだった。二見氏は梯子を使って井戸の中に入り、猫の水死体を片手で抱えながら引き揚げた。

「井戸の中に落ちてからだいぶ時間が経っていたみたいで、猫の死体は大量の水を吸ってパンパンに膨れ上がっていました。自分がやらないとどうにもならなかったんですが、二度とやりたくない仕事のひとつです」

ほどなくして行政の職員が到着。猫の水死体は袋に詰められ、持っていかれた。

「僕らは毎日(月に約130軒)いろんな現場に行っていますが、ペットがいるゴミ屋敷に直面する機会は本当に多いです。自分が生活できない状態に陥ってまでペットを飼い続けるというのは、愛情でも何でもないと思うんですよ。相手はお客さまとはいえ、そういう人には腹が立ちますし、強い憤りを覚えます」

4LDKの広い一軒家に住む女性からの依頼を受けたときのことだ。家の中はゴミこそ少ないものの、大量のモノで埋め尽くされていた。女性は片付けを開始する際、二見氏にこう言った。

「家のどこかで猫が2匹死んでいるかもしれないです」

女性は「猫を保護する活動をしている」と話した。8匹の猫を部屋の中で保護していたが、6匹しか見当たらないのだという。結局、2匹の猫は出てこなかった。


飼い犬の糞が部屋に落ちていた家。本文の事例とは異なる(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


犬が噛んで粉々になったゴミ。本文の事例とは異なる(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

玄関から糞尿にまみれたゴールデンレトリーバー2匹が…

劣悪すぎる環境から、その場にいることすらできない現場もあった。40代の女性が一人で暮らすマンションへ見積もりに行くと、エントランスの時点で強い刺激臭が鼻を襲った。女性が住む3階に近づくにつれ、臭いはどんどん増していく。

「ドアを開けた瞬間、2匹のゴールデンレトリーバーが“ワンワンワン!”と吠えながら飛び出してきました。部屋の中は犬の糞と尿まみれで、土足で入るのもしんどいくらい汚れていました。そして、目がしみるんです。目を開けていられないくらい痛かったです」

部屋の中にはケージもなく、犬は放し飼いにされていた。見積もり中も犬たちは二見氏に何度も飛びかかり、しつけもほとんどされていない様子だったという。

「いくらゴミ屋敷とはいえ、人間だけが住んでいる以上、便や尿でまみれるような状況にはならないです。どんなに部屋が散らかっていても1年以上風呂に入らないなんて人はいませんし、トイレも使ったら流すでしょう。でも、ペットは自分でできないじゃないですか。しつけがされていなければどこにでも排泄してしまうし、ペットシーツを自分で取り替えることなんてできません。部屋で亡くなっていた猫もそう。ペットは待つことしかできないんです」

なぜ飼い主がいながら、そんな状況に陥ってしまうのか。それには理由がある。

「途中で住めなくなって、別の場所に部屋を借りるんですよ。ゴミ屋敷になってしまった家にはペットだけが暮らしていて、飼い主は別の家に住んでいるというケースはいくつも見てきました」


モルモットを飼っているゴミ屋敷もあった(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)


モルモットの糞が撒き散らされていた(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

窓にハエがたかる、ペットのいるゴミ屋敷

あるゴミ屋敷の近くに住む住人からは、こんな依頼があった。

「ゴミ屋敷の窓に大量のハエがたかっている」


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そのゴミ屋敷の住人は近所の人たちが知る限り、猫と犬を計4匹飼っていた。しかし、犬と猫の姿を見ることもなければ、鳴き声も聞こえない。そして、臭いもかなりキツかった。

「僕らはどこまでいっても、あくまでゴミ屋敷清掃会社です。家主である本人から依頼がない限りは、勝手に部屋へ入ることなどできないんです」

ゴミ屋敷の中で4匹のペットがすでに亡くなっている可能性がある。もしかしたら、3匹が亡くなり、1匹だけかろうじて生きているかもしれない。しかし、外からはどうすることもできなかった。

(國友 公司 : ルポライター)