倒産した脱毛サロン「銀座カラー」渋谷109前店の看板(写真:東京商工リサーチ、12月16日撮影)

12月15日の夜、衝撃のニュースが駆け巡った。脱毛サロン「銀座カラー」を展開するエム・シーネットワークスジャパン(東京都港区)が、ホームページに「破産手続開始決定のお知らせ」を掲示したのだ。負債総額は約58億円、債権者(被害者)が約10万人にのぼる大型倒産はSNSなどを通じて瞬く間に広がった。

多くの被害者を生み出した同社の倒産劇の背景を東京商工リサーチ(TSR)が追った。

積極的な広告宣伝と出店攻勢

エム・シーネットワークスジャパンは1993年に脱毛専門のエステサロン経営を目的に設立された。当初は銀座店のみを運営していたが、2010年代から「銀座カラー」の屋号で積極的に全国出店に打って出た。

脱毛専門サロンの分野では、銀座に置いた本店や業界の中では長い業歴もあって一定の信頼を得ていた。さらに、通い放題プランなどを全面に押し出し、若年女性を中心に顧客を獲得していた。また、知名度の高い女優や俳優を起用したCMなど大々的なメディア広告で新規集客を募った。


「銀座カラー」のメンバーズカード。所有者の女性は「突然の倒産のニュースを知って驚いた。契約からしばらくたっているが、『永久脱毛』とされていたのに損した気分だ」と話していた(写真:東洋経済オンライン編集部撮影)

ただ、会員が増えると「予約が取りにくくなる」のが脱毛サロンの常だ。エム・シーネットワークスジャパンは、「予約が取りにくい」というマイナスイメージを払拭し、新規契約を増やすため、多店舗展開を図っていた。銀座や渋谷、横浜など、首都圏の一等地を中心に、各地の主要都市に進出し、店舗網を拡大。ピーク時は全国に約50店舗を構え、顧客数は80万人以上と自称していた。

こうした拡大策が功を奏し、売上高は2020年4月期には125億6130万円と10年前の6倍以上に急拡大。知名度もアップし、脱毛サロン大手の一角を担うまでに急成長した。

コロナ禍で事業環境が激変

ところが、新型コロナウイルス感染拡大で事業環境が暗転する。コロナ禍で多くの店舗が一時的に休業や営業制限を迫られ、外出自粛などの浸透も利用者の急減に拍車をかけた。コロナ禍の2021年4月期の売上高は約100億円にダウンし、11億753万円の最終赤字を計上して債務超過に転落した。

長引くコロナ禍で新規集客が遅れる一方、医療脱毛の低価格化が進み、競争はさらに激しさを増していた。厳しい環境が続き、生き残りをかけて店舗の統廃合を進めたが、事態は悪化の一途をたどった。

最後の決算となった2023年4月期の業績は、売上高が45億1932万円にとどまり、14億7750万円の営業赤字に沈んだ。店舗の閉鎖費用が主体とみられる特別損失は10億円を超え、最終赤字は23億1130万円に膨らんだ。期末の債務超過額は65億円に達し、社会保険料の滞納額は8億円を超えた。

こうした状況下で、経営者一族による私財提供などで資金繰りを繋ぎつつ、M&Aによる事業譲渡を模索した。しかし、2023年10月頃には承継候補先から謝絶され、11月下旬には私財の提供も困難になった。ついに12月に入り、運転資金が枯渇して破産に追い込まれた。

TSRの調査では、担保となる資産の乏しいエム・シーネットワークスジャパンは従来から銀行借入(=有利子負債)は少なく、2022年4月期末ではゼロだった。過去の出店攻勢や同期末で41億9889万円の債務超過にあることを考えると、バランスシートに有利子負債が計上されていないのは奇異に映る。

では出店費用や赤字補填資金の主な出所はどこか。エム・シーネットワークスジャパンのバランスシートを見直すと、目を引く項目がもう一カ所ある。前受金だ。負債合計91億2373万円のうち、前受金が70億168万円に及ぶ。「負債前受金比率」は76.7%にのぼる。ただ、この比率はあまり耳馴染みがなく、定型化された財務分析フォームにはほぼ採用されていない。

与信管理の現場では、財務リスク把握の観点から「有利子負債構成比率」が頻繁に活用される。エム・シーネットワークスジャパンの場合、2022年4月期末は有利子負債がないため、同比率は0.0%で、一見すると優良企業に映る。ただ、前受金を他人資本と捉えて算出し直すと、142.1%と異常値をたたき出す。

TSRが保有する財務データから2022年に倒産した企業を分析すると、倒産直前期の有利子負債構成比率(平均)は69.3%だった。生存企業の平均は29.8%だ。同社の資金繰りの異常性がはっきりする。

この会社の成長は、顧客からの前受金が支えていた。前金方式では、顧客が右肩上がりに増え続ける間は、集めた前金を人件費や出店費用などの設備投資に充てることができる。だが、ひとたび顧客が減少に転じると、一気に資金繰りに狂いが生じる。今回の結末は、ビジネスモデルを選択して拡大路線を採った段階で、運命づけられていたともいえる。

「銀座カラー」の信用調査報告書

こうした点を踏まえ、エム・シーネットワークスジャパンのTSR REPORT(信用調査報告書)には何が書かれていたのかを検証したい。

今年9月に作成されたTSR REPORTによると、「企業診断(評点)」は44点と格付けされ、与信の目安とされる50点を大きく下回っている。「評点推移」は2021年9月以降、7回に渡って評点が更新されている。評点は信用調査ごとに更新されるが、通常は年に1回、決算確定後に見直されるケースが多い。TSRへの頻繁な調査依頼は取引先の警戒感の高さを物語る。


「銀座カラー」を展開するエム・シーネットワークスジャパンのTSR REPORT(信用調査報告書)を抜粋したもの(画像:東京商工リサーチ)

「所見」には、「2022年4月期末時点で50店舗あったが、2023年4月期末時点で31店舗まで減少」と、直近1年間の大幅な店舗リストラを指摘している。

また、2022年4月期以降の財務諸表は取材で入手されておらず、TSR REPORTに添付されていない。東京商工リサーチ(TSR)への取材対応を含めて公開性が大幅に低下し、意図的な忌避も伺える。

こうしたことからエム・シーネットワークスジャパンの信用力が大きく毀損していることは与信業界では広く認識されていた。ただ、信用情報は一般には公開されない。公開を求める声もあるが、信用調査は会員向けの有料サービスで、また機微情報の安易な公開は事業価値の毀損に繋がりかねず扱いは慎重さが求められる。

繰り返される前金ビジネスの倒産劇

過度に前金に依存した資金繰りが破たんし、顧客を巻き込み社会問題化したケースはこれまでも後を絶たない。

2023年は特に同様のケースが目立つ。エム・シーネットワークスジャパンと同じ大手脱毛サロンとして知られた「C3」の運営会社であるビューティースリー(江東区)や、男性専門脱毛サロン「ウルフクリニック」の経営に携わっていたTBI(東京都港区)、「東京プラス歯科矯正歯科」のクリニック名でマウスピース矯正を手掛けていた友伸會(豊島区)など、美容関連の「前金ビジネス」の倒産が相次いでいる。

これら倒産劇には、コロナ禍という特殊要因が少なからず関係している。だが、サービスの利用者確保には自ずと限度があり、コロナ禍でなくてもいずれは拡大策に限界が訪れるのは自明の理だったはずだ。

前金ビジネスは美容関連だけにとどまらないが、美容業界では特に、若者を中心に多数の被害者を生む悲劇が幾度となく繰り返されてきた。それでもなくならないのは、あくなき美への追求という永遠の憧れがある。

消費者心理に便乗した前金ビジネスに危うさがあることは否めない。消費者保護の観点から、一般個人を対象として長期の前受金を前提とするサービスや製品の場合は、企業側の決算公告義務を厳格化するなどの対応も必要だ。

(原田 三寛 : 東京商工リサーチ情報本部情報部長)