問題のある部下への対応方法はケースバイケースです(写真:Fast&Slow/PIXTA)

部下の性格や態度、はたまた体臭といった衛生的な問題で業務に支障が出ていることを確認したとき、マネジャーにはどのような対応が求められるでしょうか。また、1対1の面談で、部下に業務改善を上手に促す方法はあるでしょうか。

ローレン・B・ベルカー氏らの著書『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』から一部を抜粋、編集してお届けします。

“最高の部下”だったはずなのに

時間の使い方の問題で懲戒免職になった部下の事例を順を追って見ていこう。とても難しい状況だが、似たような状況は起こりうる。

あなたはコンサルティング会社に勤務しており、直属の部下のケリーは経営者へのコーチングを担当していた。

顧客のオフィスを訪問して、上級役員へのマンツーマンのコーチング、マネジメント能力向上の支援、プロジェクト遂行のアドバイスなどをするのが仕事だ。

顧客からの評価は常に上々で、引っ張りだこだった。あなたにとっても、最高の部下のひとりだった。

だが、状況は一変する。継続顧客からのケリーの評価が下がったのだ。新規顧客も同様だ。ケリーはかつては5分か10分の休憩を取っていたが、ランチ以外に1時間の休憩を1日に何度もとるようになったという。

数週間にわたってこうした苦情が相次いだため、ケリーを呼び出して、苦情について話すことにした。

「クライアントである経営者を放置していなくなるなんて、あなた自身もうちの会社もプロフェッショナルではないと思われてしまうよ。

相手はあなたのコーチングを受けるために多額の費用を出している。しかも忙しい経営者がわざわざスケジュールをあけて待ってくれているんだよ」と伝えた。

ケリーは「そんなに長い休憩をとっているはずはない」ときっぱり否定した。

あなたは、仕事関連だろうがプライベートだろうが、ケリーの抱えている問題が解決できればと、何とか話し合おうと頑張ったが、ケリーは「私は完璧にやっている、そんな長時間の休憩などとっていない」と言い張った。

そこであなたは行動計画を立てた。クライアントに5分か10分の休憩を申し出る際(ケリーは喫煙者だ)には、時計を見て、今の時間と戻る時間を伝えるようにさせたのだ。

これで解決だと思うだろう。そうはいかなかった。顧客からの苦情は続いた。そこで何度もケリーと話し合ったが、何も好転しない。会社の経費で外部カウンセラーを利用することも提案したが、拒絶された。

態度は改善されず、あなたはケリーに最後のチャンスとして「あと1回、同じ苦情を受けたら解雇する」と伝えた。苦情はいくつも届き、解雇が決まった。

この事例をマネジメント能力の欠如による失敗だと考える人も多いが、そうではない。どんな問題でもマネジャーの対応次第で解決できるわけではない。

この事例では、状況を修復するために、手は尽くしている。問題行動を毎回指摘し、どんなことでも打ち明けられるよう尽力し、改善のための行動計画を作って実行させ、変わるチャンスを何度も与えた。

どれもうまくいかなかったので、最終手段として、かつて非常に優秀だった部下を解雇するしかなかったのだ。

体臭が不快、デリケートな問題への対処

勤務中の時間の使い方については、他にも問題は起こるだろう。部下がインターネットで仕事と関係ないことを延々やっている、ランチ休憩が長すぎる、予定をすっぽかす、などだ。

言うまでもないが、あなたは過剰に労働者を締め上げるべきではないし、誰でも何かしら問題を抱えることはある。重要なのは、あなたや会社がマネジメントする上で問題となる常習犯をしっかり取り締まることだ。

上司が対処に苦しむ問題として、個人の衛生問題が挙げられる。たとえば、自分の部署にいる若い女性従業員の体臭が不快であるとする。同僚たちがひどいことを言っており、さらには彼女を避けるようになった。

業務上、彼女とは頻繁にコミュニケーションをとる必要があるのに、これは看過できない。体臭が業務上の課題になっているのだ。

このケースは自分で対応せず、人事部の担当者から本人に話してもらうとよいだろう。

これは難題から逃げているのではない。あなたが対応した場合、部下はあなたに会うたび恥ずかしく、気づまりな話し合いを思い出して惨めな気分になるだろうから、それを避けるためだ。

人事担当者に、業務の現場と離れたところで本人と話して解決してもらえば、他に問題のない人材を失わずに済む。こうしたデリケートな問題で対応を誤って部下に恥をかかせると、離職のリスクすらあるのだ。

白紙1枚、シンプルな業務改善ツール

業績に課題のある部下に対しては、簡単なツールを使って、改善のためにやるべきことを理解させよう。

物事がうまくいかないときには、問題を明確化することが何より重要である。効果を最大限に発揮できるよう、1対1の面談の中でこのツールを作成するとよい。

用意するのは白紙1枚、普通のコピー用紙で十分だ。封筒に入れるときのように用紙を三つ折りにして、開いておく。折り目に沿って水平に線を引けば、空欄が3等分されたシートの出来上がりだ。

「これからあなたの業務改善計画を作ります」と部下に伝えよう。上の欄には「強み」と書く。真ん中の欄は「改善すべき点」であり、下の欄には「目標」と書いて、これを部下と一緒に埋めていけばいい。

あなたの頭の中には各欄に欲しい答えが思い浮かんでいるだろうが、部下に発言させることが重要だ。よいアイデアも出てくるかもしれない。

部下の意見を聞きながら計画を作成していく。その意見が適切かを判断するのはマネジャーの仕事だ。発言に納得できない場合は、そこから議論を進めていこう。


マネジメントは指揮・統制、リーダーシップは人にやる気を出させること。管理職の経験を積み、成長するうちにリーダーシップのスキルも上がってくるはずだ(出所:『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』)

たとえば、「自分の強みはチームワークがうまくできること」と部下は言うものの、実情に反すると思った場合には、「どうしてそう言ったのか教えて」と伝えて会話を進めよう。

相手の発言でこちらの見方が変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。変わらない場合にはその旨を、あなたの視点や同僚からの意見をもとに伝えよう。「改善すべき点」の欄に「効果的なチームワーク」と書き加えるのもよいだろう。

あくまでも建設的なトーンで話し、部下が仕事をうまくできるようになることが、このワークの目的だと強調しておこう。仕事をうまくやるためには、自分が何に取り組むべきか、正しく理解する必要があるのだ。

「改善すべき点」が特定できたら、その具体的な目標を立てて、下の欄に書き込もう。

たとえば「プロジェクト終了時の同僚からのレビューで、5段階で3.5以上を取る」というように、各目標の達成度がわかるよう、すべて数値で目標を設定することが重要だ。

誤解を生まないためにも、目標はあくまでシンプルに、明確に設定しよう。エラー率や欠勤日数のような数値指標がよい。

こうしたワークをしていると、部下が自己に厳しく、なかなか自分の強みを言えないことに気づくだろう。また、あなたの知らなかった観点が出てくることもある。こうしたプロセスは建設的なことなので、恐れる必要はない。

重要なのは目標設定

このワークで最も重要なのは目標設定だ。目標を設定して、いつまでに何をしなければならないのかを部下に明確に理解させよう。

計画に合意できたら、部下もあなたもその紙にサインして日付を書き込んでおこう。

そのコピーを部下に渡して、次回、進捗状況を確認する面談の日程も決めておく。次の面談は1カ月以内で設定する。状況が深刻であれば、もっと短いスパンで面談を設定しよう。


こうしておけば、あなたの仕事もずっと楽になるはずだ。次の面談では、部下の改善状況がはっきりする。

目標と業務状況のレビューは非常に簡単だ。目標をすべて達成できているのが理想だが、その場合にも、再度、同じプロセスを繰り返すことで、軌道に乗るようケアしておきたい。

次回も完璧に目標を達成できたなら、3回目は期間を長く設定してみよう。部下の業務状況が改善していった場合には、面談のスパンを広げよう。逆に悪化してきたら頻度を高めて運用すればよい。

何度も面談を行って改善計画を修正したにもかかわらず改善が進まない場合には、方向性が明確になる。部下のスキルと業務が合っていないことがはっきり証明された。これができるから、このツールは強力なのだ。

正しく使えば、誤解の余地はほぼ存在しない。部下は改善できているか、業務を離れるべきかのいずれかだ。部下にとっても、業務が改善できない場合、別のことに挑戦すべきだと自分で気づく機会になるだろう。

(ローレン・B・ベルカー : アメリカ大手保険会社役員)
(ジム・マコーミック : コンサルタント)
(ゲイリー・S・トプチック : マネジング・パートナー)