失地回復できるか、その道のりはどうなっていくでしょうか?(撮影:尾形文繁)

自動車メーカーのダイハツ工業が、認証申請における不正行為で揺れている。12月20日、第三者委員会が調査結果を発表、174個の不正行為があったことを明らかにした。これを受けて、国内外で生産中のすべてのダイハツ開発車種の出荷が停止される事態となった。

自動車業界を揺るがすような大規模な不祥事であるが、これからダイハツ、そして日本自動車業界はどうなるのだろうか? 過去の自動車業界の不祥事を参照しながら読み解いてみたい。

自動車業界での不正はこれまでも頻繁に起こっている

安全管理を第一とする自動車業界で、このような不正は到底あってはならないことだが、実際のところは、自動車業界の安全を巡る大きな不祥事はこれまでも何度も起こっている。

大きな問題を下記にまとめるが、ほぼ毎年のように不祥事が起きている。小さな不祥事も挙げると、さらに増えていく。

■自動車業界に関する大きな不祥事

2000年 三菱自動車、69万台の大規模リコール隠しが発覚

2004年 三菱自動車、前回を上回る74万台のリコール隠しが発覚

2015年 独フォルクスワーゲン、ディーゼル車の排ガス規制試験で不正

2016年 三菱自動車、燃費試験データの不正操作

2017年 自動車用安全部品大手のタカタ、主力商品のエアバッグの欠陥リコール問題により、膨大な負債を抱えて経営破綻

日産自動車とSUBARU(スバル)、無資格の従業員が完成検査に携わっていた問題が発覚

2018年 自動車部品大手の曙ブレーキ工業がブレーキとその部品の品質検査データの改ざんなど11万件の不正行為があったと発表

2022年 日野自動車、エンジンの排出ガスや燃費の不正問題が発覚

2023年 中古車販売大手ビッグモーターによる保険金の不正請求問題

デンソー製燃料ポンプ搭載車の事故で大規模リコール

こうした問題が起きる背景には、自動車業界の特殊事情もある。

自動車は、安全性が極めて重要となる商品であるだけに、厳しい規制が課されている。自動車業界はグローバルでの熾烈な競争下にあるが、企業として効率を追求していくと、どうしてもコストのかかる部分とのトレードオフの問題が生じる。

一方で、自動車は高度技術の“かたまり”である。漏れなく検査することは非常に手間がかかるし、不具合をゼロにすることは実質的には不可能である。

自動車業界ではリコール(不具合による回収・無償修理)問題はよく起きているが、不具合が適正に報告され、対処が行われているわけだから、リコール自体を批判すべきことではない。

問題なのは、安全性の担保を軽視するような行為が行われてしまうこと、さらにはその行為を看過する組織構造が温存されてしまうことである。


(撮影:尾形文繁)

ダイハツの不正問題の背景には、タイトな開発スケジュールの中で、担当者がプレッシャーにさらされていたことがあったとされている。

過去の不正を見ても、同様の要因が指摘されているケースは多く、ダイハツに限らず、自動車業界における構造的な問題であると見ることもできる。

不正を行った企業でも、その後の明暗は分かれる

自動車業界で不祥事を行った企業のその後はどうなっているのだろうか。

最も不本意な末路をたどったのが、タカタである。同社のエアバッグの異常破裂により、アメリカなどで少なくとも17名の死者が出たとされる。その一方で、経営者は責任逃れに始終した。ステークホルダーからの支援も得られず、負債総額1兆7000億円を抱え、経営破綻した。

経営破綻には至らないまでも、長期にわたって信頼を失い、経営悪化を続けたのが三菱自動車である。2000年のリコール隠しの発覚以来、同社の経営改革は進まず、その後も相次いで不祥事が発覚し、業績は低迷を続けた。なお、2023年12月現在においても、同社の株価はリコール隠し発覚前に遠く及ばない。

一方で、業績が回復しているのが、独フォルクスワーゲンである。2015年にディーゼル車の排ガス検査で不正を働いていたことが発覚した。同社の信頼は失墜し、欧米を中心に販売にも大きく影響した。

その後、CEOに就任したマティアス・ミュラー氏は組織改革を断行し、翌年の2016年には黒字へ回復。後任のヘルベルト・ディース氏は、さらにグループの大規模な事業の再編を実施。電気自動車(EV)の積極的な導入も進めた。業績はその後も好調に推移している。

このように同じ業界の不正といっても、問題の深刻さの度合い、および企業の事後の対応の適切さによって、明暗は大きく分かれている。

ダイハツはこれからどうなるのか?

第三者委員会の報告によると、今回のダイハツの不正は174件に及び、最も古い不正は1989年にまでさかのぼるという。

日本の自動車業界の不祥事としては、前代未聞の規模といえ、再発防止と信頼回復までは、長い道のりになることが予想される。

しかしながら、タカタなどとの大きな相違点もある。

1. 大規模な事故は確認されていない

2. 経営陣が主導していた、あるいは知っていて黙認していたという事実は確認されていない

3. 現段階では、ダイハツ経営陣、および親会社のトヨタ自動車は適切に問題に向き合っている

タカタや三菱自動車の事件では、死傷者が出ていることも、問題を深刻化させた。今回は、大規模な事故を発生させるレベルの不正には至っていないように見える。

長期にわたる大規模不正を現経営陣が把握していなかったこと、長らく是正されていなかったことは大きな問題ではあるが、知っていて故意に行っていたというのとは事態の深刻さは異なっている。


(撮影:尾形文繁)

また、ダイハツの親会社のトヨタ自動車は日本のトップ企業であるだけでなく、世界的企業である。本問題に対して徹底した対応が求められているし、またその覚悟も持っているように見える。事後対応も適正に行われることが期待される。

今回の不正によるダイハツのビジネス面でのダメージ、信頼性、ブランドの失墜は著しいが、今後の対応を適正に行うことで、信頼回復、また業績回復は不可能とはいえない。

2017年、自動車業界だけでなく、東芝の粉飾決算、神戸製鋼データ改ざんなどの不正行為が相次いで、日本の製造業の信頼性を損なう結果になってしまった。

ダイハツだけでなく、自動車業界全体が今回の不正に真摯に向き合い、再発防止を徹底する必要がある。日本の基幹産業である自動車産業の信頼性を守ることは、日本の信頼性の確保にもつながる、重要な課題である。

(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)