日本人を印象操作するヤバいグラフを見抜く方法

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(写真:metamorworks/PIXTA)

「数学なんて将来役に立たないし」と、学生の頃テスト前にぼやいていた人は多いでしょう。しかし実は、「世の中のほとんどのことは統計と確率で読み解ける」としたらどうでしょう? 小学生の算数教室などの出前授業を実施し、中高生に実用的な数字・数学を伝えている佐々木淳さんの書籍『“1 ミリも難しくない”統計学 スマホゲームのガチャでSSRを引く確率は?』より一部抜粋・再構成してお届けします。

新型コロナの報道で使われていたグラフ

2020年に新型コロナウイルスが流行した当初、パニックになったという方も多かったのではないでしょうか。人類が経験したことのない疫病がはやると混乱するものです。また、新型コロナウイルスに関連するニュースが連日流れていました。その中には、感染に関する責任問題を問うものもありました。

感染問題でナーバスになっていた頃の日本では、「新型コロナウイルスに感染したら、それは本人のせいだと思う」と、自己責任と考える人もいました。この割合は、「欧米の3〜4倍」にもなっていたそうです。このようなグラフで報道されたケースがありました。


皆さんは、どのように感じますか? このグラフだけを見ると、日本人には「感染は自己責任」だと思っている人がとても多いように感じるかもしれません。しかし、よく数値を見てください。そう思っているのは約15%で、全体としては少数派です。そして、さらに少数である他国を引き合いに比較することで、「日本人は、新型コロナウイルスに対して厳しすぎる」といったイメージを持たせているのです。

それをさらにくっきりと見せる技法が、このグラフには使われています。
それは、グラフの目盛りを操作することです。グラフの目盛りをよく見ると、0から始まっていません。本来グラフの基準は0にするべきです。

なぜなら、棒グラフの目盛りを0から始めずに途中からにすると、違いや変化が強調されるため、間違った印象も強調される可能性があるからです。

今回のケースでは、あくまで「コロナの感染は自己責任」と思っている人は少数派のはずなのに、グラフにだけ着目すると、まるで圧倒的多数で、ほとんどの人がそう思っているように見えてしまったのです。

目盛りを0からスタートする形に直すのが原則

このような棒グラフは、目盛りを0からスタートする形に直すのが原則です。実際に、直したグラフを提示すると次のようになり、イメージが随分と変わったと思います。なお、Excelなどの表計算ソフトで積み上げ棒グラフを作成すると、「目盛りが0から始まらない」ことがあるので修正しましょう。


ただし、グラフの目盛りが0から始まっていれば全て信頼できるというわけではありません。0から始まっているものの、途中がぷっつり切れているのであれば、先ほどの0から始まっていないグラフと同様に、誤解を与えるグラフになります。このようなグラフは、途中のぷっつり部分を復元して比較しましょう。


他には、途中から目盛りの比率が化ける棒グラフも見かけます。グラフの目盛りは等間隔でなければなりません。例えば、左のグラフは0〜80と80〜100までの目盛りの幅が違います。おそらく何かしらの増加を極端に示すために用いられているのでしょうが、等間隔の目盛りに計り直して比較することが大切です。

ただしこのグラフは、縦軸の目盛り幅を変化させていますが、横軸の目盛りを変化させる「時空が歪んだ」グラフも存在するので、必ず「歪み」は確認しましょう。

2軸プレイに気をつけろ

棒グラフや折れ線グラフなどの複数のグラフを組み合わせて、左右に軸を設けた下のようなグラフを、2軸グラフと言います。異なるデータを一つにまとめることで、時系列の変化などをわかりやすく比較することができます。

例えば下のグラフは、1991年から2020年までの月間の平均気温と降水量を表したものですが、気温の変化と降水量の変化を時系列ごとに確認できます。


しかし、わかりやすく比較することができる反面、左右で2つの軸があるぶん、グラフがどちらの軸のものなのかわかりづらく誤解してしまう可能性があります。この2軸グラフは気温と降水量を表していて、単位が「mm」と「℃」と異なるので誤解することはあまりないかもしれません。しかし、次に紹介するような、単位が同じで桁や尺度が異なるグラフを作為的に見せる困ったトリックが多々あります。

特に、折れ線グラフを2軸で利用する場合、あるものは増加していき、あるものは減少していく逆転現象が起こりそうになっていることを「わざと」演出しているものを目にします。

例えば、下の2軸折れ線グラフを見てください。A社とB社の売上の推移を時系列で比較して表したものです。この折れ線グラフを見ると、半年間でB社の売上がどんどん伸びていき、A社を追い抜こうとしているように見えます。


しかし、軸をよく見ると、売上の桁が一つ違います。なぜ2軸にする必要があったのでしょうか? そもそもこの2社を比較すること自体が適切とは思えませんが、一つの軸でまとめてみると、下のグラフのようになります。
このように一つの軸にまとめて比較すると、先ほどと違ったイメージになるのではないでしょうか?


誇張の奥義「ドッキングメソッド」

選択肢のあるアンケートはさまざまありますが、選択肢の数は次のように3つや5つの場合が多いです。

選択肢が5つの形式は、選択肢が3つの形式のものよりも意見の特徴をより詳細に調査することができ、「どちらでもない」の回答が減少する傾向があります。普通を好み極端を好まない日本人は、特にこの傾向が強くなります。

この、普通を好む日本人の特性を逆手にとったトリックもあります。 例えば、上記の3つの選択肢で、1の「賛成」が30%、2の「どちらでもない」が50%、3の「反対」が20%だったとします。円グラフで表す場合、次の円グラフを予想した方が多いのではないでしょうか?


もちろん本来は上の円グラフになるはずです。しかし、グラフを作成する人が数値を使って作為的に「否定」を演出するために、「どちらでもない」を悪用する方法も考えられます。


どちらでもないということは、「賛成」でも「反対」でもないということ。しかし、上のグラフのように、「賛成」と「どちらでもない」をドッキングして「反対ではない」や、「反対」と「どちらでもない」をドッキングして「賛成ではない」にすることもできるのです。

このようなドッキングには、「〜ではない」という否定の言葉が入っていることが多いです。否定の言葉は理解しやすい言葉ではないので、あえて使用している場合は、このような作為の可能性も疑う必要があるのかもしれません。

3Dグラフはトラップだらけ

データを見やすくする方法の一つがグラフですが、資料作成の際に美しく見える、「映える」ことばかりに目がとられると、思わぬトラップにはまることがあります。その典型が、3次元(3D)のグラフです。

結論から言いますが、3Dのグラフは遠近法により、データが歪んで見えることが多々あります。つまり、誤解を与えることが多いため、原則用いないほうがよいです。

誤解を与えないためにも、グラフは基本的に2Dで表すようにしましょう。統計グラフを用いる目的は、データをわかりやすく「正しく」伝えることが目的です。見た目が美しかったとしても正しく伝わらなければ、目的を達しないことになります。

では、実際に3Dのグラフを見ながら問題点を確認していきましょう。まずこの円グラフを見てください。


この円グラフは、警察官の世代別不祥事(懲戒処分者の数)を表したグラフで、「目立つ若者世代の不祥事」として実際に某報道番組で使用されたグラフです。

この円グラフを一見すると、「10〜20代は不祥事を多く起こしているなぁ」と思うかもしれません。しかし細かく見ていくと、50代と10〜20代で懲戒処分者数の差はたったの3人ですが、10〜20代の方が大分多く懲戒処分者がいるように見えます。

また、30代と40代で懲戒処分者の人数は同じですが、30代の方が多く、かつ10〜20代の次に多いように見えます。

中心がずれている円グラフ

この円グラフはそれ以外にも、問題のある点が数多くあります。わかりやすくした次のグラフを見てください。円を分割する点が中心からずれています。全て20%を表していますが、一つとして同じ割合には見えません。そのため、中心で分割しないと同じものが同じものに見えなくなるのです。


また、30代、40代、50代は10年区切りなのに、なぜ10代と20代はまとめたのでしょうか? もちろん10代で警察官になっているのは18歳と19歳のみということもありますが、まとめるのは適切とは言えません。そして、円グラフは「割合」を示すものです。なぜ割合で表さないのでしょうか?

こうしたグラフを見るときは必ず、普通のグラフに修正して検討し直してください。

10代と20代の具体的な人数がわからないので、割り振って修正したのが次のグラフです。


ここで紹介した、見た感じと実際のデータに大きな違いがあるグラフは適切なグラフではありません。その乖離を生み出す要素の一つが、3Dなのです。

大学の合格実績をアピールするグラフの罠


同様に、この3D棒グラフを見てください。どのように見えますか? 数値を細かく見る人ならわかると思いますが、2023年度の国公立大医学部・医学科の合格者数より2022年度のほうが多いのに、棒グラフ上はそのように見えないのです。数値はウソをついていません。


しかし、体積が遠近法によって大きく見えるのです。 私たちは数値とグラフを見た場合、グラフで相場観を見ることが多いので、この図はその特性を意図的に利用していることになります。

また、国公立大と私立大学の合格者数の合計が表示されていませんが、こちらも2023年度より2022年度のほうが多くなっています。そのため、このような3Dグラフは2Dにして見ることが大切です。2Dにすると次のグラフのようになります。


(佐々木淳 : 下関市立大学教養教職機構准教授)