外国人記者クラブでの会見に登場した元自衛隊員の五ノ井里奈さん(写真:Yoshio Tsunoda/AFLO)

日本に今、ヒーローがいるとするのならば、元自衛隊員の五ノ井里奈だろう。12月12日、福島地方裁判所が陸上自衛隊に所属していた元自衛官、五ノ井への強制わいせつ罪に問われた元自衛隊員3人に有罪判決を言い渡した。

彼女は正義のために声を上げ、揺るぎない勇気を示した。五ノ井の戦いは日本のみならず、世界でも大きく報道され、古い体質の日本が変わるきっかけの1つになるとも期待されている。

五ノ井の勝利は「自衛隊」にもプラスか

五ノ井の戦いは、自国の制度と戦わなければならなかったため、とても過酷だったに違いない。

自衛隊に入隊したとき、彼女は子どもの頃の夢をかなえた。だが、その1年後、性的暴行を受けた彼女は、加害者たち、そして彼女の訴えに耳を貸さない自衛隊の上層部、さらには委員会が起訴を強要するまでは不起訴を選択した検察官たちとの全面戦争を始めることになった。

「五丿井の長い闘いの中で、朝日新聞を除いては奇妙なことに大きく報道されなかった劇的なシーンがある。8月1日の法廷で、元上司がセクハラで告発された3人の隊員を守るために嘘をついたと公然と認めたとき、彼女は突然倒れ、病院へ運ばれた。

後に、彼女は、倒れた理由として、当時のことを思い出して苦しくなったと話した。思い出すだけで倒れてしまうほどにつらい出来事を告発した彼女の勇気を前に、元上司もその態度を改めざるを得なかったのではないか。

自衛隊でキャリアを積みたい、という若者が減っている中で、五ノ井の勝利は女性の勝利というだけでなく、自衛隊にとってもプラスになるかもしれない。

たとえば、アメリカ陸軍は、「多様性と包摂」という政策の先駆者であり、若い女性や外国生まれの人、性的マイノリティなど、自身のアイデンティティが不利だと感じている社会の大多数を惹きつけることで、同様の問題を克服した。

アメリカ軍の広告に登場した女性

例えば、2021年、アメリカ軍の広告に2人のレズビアン女性に育てられた女性兵士が登場した。後に有名になったこの広告では、女性兵士が2人の強い女性のロールモデルを持つことで(両親のことである)、女性も強くなれることがわかり、兵士になることを決意したと語っている。

広告に登場したもう1人は、移民1世の息子だった。ロイド・オースティン国防長官(偶然にも黒人)は当時、「多様性は私たちの一部でなければならない」と説明した。

日本でも自衛隊が、日本に住む移民の親を持つ子どもたちにアピールすることで、どのような恩恵を受けるか想像してみてほしい。今回の五ノ井の勝利を受けて自衛隊が自らを開かれた、安全な「職場」に変えることができれば、女性のみならず、多様な人にとって働きやすい場所になることは間違いない。

18歳から30歳まで自衛官だったレズビアンの女性、山川万理恵さんは自衛隊に入った理由を「私は人の役に立ちたかったし、海と空が好きでした。だから海上自衛隊の航空機搭乗員になったのです」と話す。

ところが、自衛隊では「みだらな言葉には耐えなければなりませんでした。男性たちは、私が女性だから待遇がいいのだと疑っていました。女性には向かない仕事だと、面と向かってはっきり言われたこともあります。上司に報告しましたが、効果はありませんでした」。

山川のセクシャリティは状況をさらに悪化させた。

「セキュリティを理由に休暇中であっても外出は許されなかったし、結婚しているか、30歳以上で息子が2人以上いなければ基地外に住むことも許されませんでした。私は同性愛者なので、結婚することもパートナーを持つことも法律上認められておらず、こうした待遇を受けることはできませんでした」と、山川は振り返る。

「自衛隊では女は耐えなければならないことが多いから、男よりタフになる」と山川のパートナーは話す。パートナーとの時間を過ごすことができなかった山川は、結局自衛隊を途中除隊し、キャリアを変えてシェフになった。

彼女は今、フランスの一流ホテルで働いている。もし自衛隊が今回の件で変われるのならば、山川のような優秀な人材の流出も防げるようになるかもしれない。

日本のイメージの改善にもつながる

国会議員の多くはこの事実を知らないかもしれないが、日本の世界における存在感は今やスウェーデンやポルトガルのような中所得国並みである。

私はフランスの大手紙の特派員を務めているが、日本について話題となるのは自民党の裏金問題や大阪万博のような不祥事や問題ばかりだ。大手の外国メディアは東京支局を次々と縮小・閉鎖している。フランス人のほとんどは今の首相の名前も知らないだろう。

だが、このような希望がないという世界的に抱かれている日本のイメージは、このところ、勇気ある女性たちによって修正されている。

その1人はジャーナリストの伊藤詩織だ。数年前、彼女はセクハラとの戦いでイギリスBBCやアメリカの『タイム』誌などの世界の大手メディアで報道された。彼女の事件を描いた映画『ブラックボックス・ダイアリー』は、世界で最も注目される映画コンペティションの1つであるサンダンス映画祭に出品されたばかりだ。

そして、自国の政府から鼻であしらわれた五ノ井は、『タイム』誌から世界の未来のリーダーの1人に選ばれ、こう紹介されている(記事の執筆者は伊藤詩織である)。「日本社会では、性暴力について発言することは長い間タブーだったが、里奈の勇気はすべてのサバイバーに門戸を開いた」。

改革の道が日本にあることを示した

CBSニュースのアジア特派員であり、アメリカで最も尊敬されているジャーナリストの1人であるエリザベス・パーマーは、「私はあなたの勇気をとても賞賛する」とコメントしている。

五ノ井は、「彼女は性的暴行の裁判で勝訴した。彼女は今、他の人々が苦しまないように自衛隊が変わることを望んでいる」と題されたAP通信の長編記事でも紹介された。

この記事は、フランスの『ル・フィガロ』紙、シンガポールの『ストレーツ・タイムズ』紙、イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』紙、『ガーディアン』紙、アメリカの『ワシントン・ポスト』紙、『CNN』、『BBC』、その他数え切れないほどの海外メディアに掲載されている。

五ノ井のような人たちは、日本が一見して見える以上に複雑であることと同時に、キックバックや保守主義のスキャンダルの裏に希望があることを示している。勇気を持って声を上げる人がいることは、たとえそれが当たり前のことでないにしても、世界のほとんどの国にはない改革の道が日本にはあることを示している。

(レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員)