一代で売上高1000億円まで成長させた、シャトレーゼ創業者の齊藤寛会長(撮影:尾形文繁)

「チョコバッキー」「北海道産バターどらやき」など、人気商品を次々と生み出すシャトレーゼ。過去5年で売上高は倍増と快進撃が続く。シャトレーゼはどのようにして「洋菓子日本一」へと上り詰めたのか。創業者であるシャトレーゼホールディングスの齊藤寛会長が、食の安全、価格の安さ、そして海外戦略について語り尽くした。

――クリスマスケーキは1シーズンで100万台売れるそうですね。単純計算だと、日本で120人に1人が食べることになります。食品業界では食中毒などの問題も起きていますが。

店舗が国内に810店あるので、そのくらいの量になってしまう。1年で一番忙しいのがクリスマスシーズン。工場はピーク時には24時間稼働している状態だ。

(衛生管理の厳しい)アイスクリームから始まった会社なので、衛生面は普通の同業他社とは違う。例えば生クリームは配管を使って流すなど、衛生的な観念やシステムが出来上がっている。

お客様に喜ばれる「安さ」

――洋菓子業界では、売り上げ日本一を誇っています。


圧倒的1位だ。競合はいない。不二家は山崎製パンに、銀座コージーコーナーもロッテに買収された。この業界は後継者不足から廃業や経営権譲渡などもけっこうあり、そういうときにシャトレーゼの名前がすぐ出てくる状況だ。

――順調に業績を拡大できている、一番の要因は何でしょうか。

利益を上げようとするのではなく、お客様に喜んでもらおうと思ってやってきた結果。お客様に一番喜ばれているのは安さ。コロナ禍では、今まで町に出て行って百貨店などで買っていたお客様が、家の近くにあるシャトレーゼの店で商品を買って「安いのに美味しい」と見直してくれた。

昨今は原材料費が上がっており、卵不足は本当に参った。できるだけがまんしたが、シュークリームやプリンなどの一部商品を少し値上げした。ただ、われわれは全国で展開しているので、合理化できる部分がまだたくさんある。無駄を解消するのがわれわれの仕事なのでいいチャンスだと思っている。

売れる商品は機械で量産

――卵や牛乳、水など素材にこだわっています。それでも安さを維持できる秘訣は?

生産面では製造工程の機械化・ロボット化を進めていることだ。人手より衛生的にもよく、残業代もかからない。


齊藤寛(さいとう・ひろし)/シャトレーゼホールディングス、シャトレーゼ代表取締役会長。1934年、山梨県生まれ。1954年に焼き菓子店「甘太郎」を創業。1964年に「大和アイス」を設立。1967年に2社を統合しシャトレーゼに社名変更。2010年シャトレーゼホールディングスに商号変更し社長に就任、シャトレーゼを新設分割。2018年から現職(撮影:尾形文繁)

シャトレーゼの商品は、最初はすべて工場のパティシエ集団が手作りしている。お客様に提供してみて「これは売れる」となると機械で量産する。専用の機械は売っていないので、自分たちで考えるしかない。そのノウハウがシャトレーゼの強みだ。人と人の間に入って作業する協働ロボットなども活用し、山梨県の豊富工場ではスマート工場化を進めている。

また、問屋を通さず、契約農家や農場から原材料を直接仕入れ、工場から店舗へ直接配送しているため、中間マージンをとられないことも大きい。

――全国的に店舗が増えると、直接仕入れ・配送を続けるのは大変では?

かえって量が増えたほうが楽だ。少ないと農家は相手にしてくれないし、量があるからロボットを導入できる。物流もスポットではなく年間を通してお願いしているので問題ない。好循環が生まれる非常に良い状態になっている。ここまでくるのが大変だったが。


――コンビニ各社がスイーツを充実させています。競合と意識しますか。

専門店とは品質が違うので競合にならない。コンビニもシャトレーゼの商品がほしいと言ってくる。ただ、コンビニだと単品ずつの取扱いになるが、シャトレーゼの店舗には何百種類もの商品を置いている。これは大きな違いだ。

――出店を急拡大させています。

FCの出店希望者が多く、年間100店のペースで増やしてきた。ただ、生産が追いつかない状況になってきた。工場をいろいろなところに確保しているがまだ時間がかかるので、いったん出店を絞ろうと考えている。


出店を増やしている「YATSUDOKI」では、ギフト菓子を充実させている(撮影:尾形文繁)

一方で、1店あたりの売り上げを増やさないといけない。シャトレーゼのお菓子は家庭消費向けのおやつとしての需要が大きいが、これから人口が減っていくことも見据えて、ギフト向けの比率を増やしていく。2019年に立ち上げたプレミアムブランド「YATSUDOKI」もその一環だ。

――ギフトとなると価格帯の高いものを求められそうですが、価格設定はどうしますか。

とかくみんな(ギフトを選ぶときに)値段でこれくらいのものと考えるが、値段ではなく、美味しさや見た目など「これは素晴らしいな」という価値をシャトレーゼらしく求めていく。

上場しないのがシャトレーゼの強み

――新たに国内で取得した3工場を来年稼働させるなど、生産増強を進めています。今後、資金調達などを目的に上場する可能性はありますか。

上場はしない。資金調達などはあまり関係ない。上場していないのはシャトレーゼの強みだ。昔は上場して一人前という風潮があり、約20年前には上場準備を進めていた。だが、「よし、やるぞ」というときに考え直し、土壇場で回避した。

シャトレーゼはお客様が第一。上場すると、お客様のために商品を安くするよりも、配当を増やすことを求められる。最近は、物言う株主が多く、MBO(経営陣による買収)をする動きもある。マネーゲームに巻き込まれたら大変だ。

――ホテルやゴルフ場の再生事業も手がけています。菓子事業とどのようなシナジーがありますか。

ゴルフ場ではデザートをサービスしており、シャトレーゼの宣伝にもなっている。食事の後にデザートを食べる習慣が身につき、他のゴルフ場に行った後にシャトレーゼにお菓子を買いに来てくれることもあるほどだ。


買収した旅館のメインエントランスに「YATSUDOKI」を構えたことで、来客数が増えた(撮影:尾形文繁)

ホテルはチェックアウトからチェックインまでがらがらだった。そこで、(ホテルに店舗を併設するなどして)われわれの商品を提供すると、すぐ利益がでるようになった。この業界の中でシャトレーゼが果たす仕事があると感じた。

また、お客様に山梨へ来ていただき、シャトレーゼの仕事をみてもらう「シャトレーゼ体感ツアー」をやっている。ホテルでのお菓子づくり体験、契約農家での果物の収穫などが人気だ。シャトレーゼのこだわりに共感してもらうのが大事だ。

海外店舗数は万単位まで増やしたい

――およそ20年後に売り上げ1兆円を目指していますが、達成できれば世界一ですか?

もちろんだ。大きく伸ばせるのは海外。海外での売り上げはまだ少ないが、20年後には7000億円を目指す。とくにアジアは人口が多く、現地工場のあるインドネシアだけでも約2億7000万人だ。若い人も多く、経済成長により毎年生活が豊かになっている。

――どのように食い込んでいきますか。

それは簡単。シャトレーゼが日本でやってきたことと同じようにやるだけだ。まずは、値段を安くするのが第一条件。そのためには現地生産が重要だ。インドネシアのほかに、ベトナムとオランダに工場があるが、他の地域にも工場を作る。海外店舗数は現在190店だが、万単位まで増やしたい。一番大きな課題は、原材料をどう調達するかだ。例えば酪農や養鶏は高冷地でないとできない。オセアニアや欧州などから調達することになると思う。

――国内は3000億円を目指すとすると、現状の約3倍です。

店舗は2000〜2500店くらいまであれば大丈夫。人口5万人に対して1店舗を目安に、郊外だけでなく都心でも出店していく。郊外は周りに店が少ないので、百貨店式にアイテムを増やすことで来てもらう。都会は他のお菓子屋さんも周囲にたくさんある中で出店することになるので、商品数を絞って他のお菓子屋さんが出していない商品を出していくことが大事になる。

(田中 理瑛 : 東洋経済 記者)