増えているシニアの婚活。成功する人・しない人の違いは何でしょうか(写真:metamorworks/PIXTA)

2023年も終わろうとしているが、この1年の婚活事情を振り返ってみると、50代、60代の入会者が前年に比べて増えた。日本の社会の行き先が見えない不安な時代に、1人で年を重ねていくならパートナーと生きていきたいと考えているからだろう。

ただ熟年婚活者は、成婚できる人とできない人に大きく分かれる。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、シニア世代の婚活がうまくいく例とうまくいかない例を紹介しながら、シニア婚活を考えてみたい。

金銭的には余裕があるが

よりこ(61歳、仮名)はメーカーで部長職についていたのだが、再雇用制度は取らずに、会社を昨年定年退職した。

「同じ仕事を任されているのに、再雇用になったら給料が7掛け以下に減給する。それが馬鹿らしいな、と」

そう思えたのは、金銭的に余裕があったからだ。5つ下の弟は30代で結婚し家庭を持っている。10年ほど前に母が亡くなり、実家に父と2人で暮らしているのだが、退職金にプラスして、これまで貯めてきた預金が十分にあった。

加えて、同居している父の年金を今よりこが管理しているので、実質の日常生活は父の年金で2人の生活を賄うことができている。

「90歳を超えている父の年金は、私たちが65からもらう年金とは比べものにならないくらい高額なんです。父が生きている限りは、私のお金は生活のためではなく、自分の趣味ややりたいことに使えます」

では、なぜ婚活を始めようと思ったのか。よりこは初婚者なのだが、ある日の出来事が起因する。

女友達と待ち合わせをして映画を見に行った。終えて、お茶をしていると、近所付き合いをしている隣人から電話が入った。

「お父さんが庭で転んで、病院に運ばれたわ」

お茶を切り上げて慌てて駆けつけると、足の付け根を骨折した父が病院のベッドに横たわっていた。

「横たわる姿が枯れ木のようで、老いを実感しました。先はそんなに長くないだろうと。もし父がいなくなったときに、私はひとりぼっちになってしまう。そして私も歳をとって年々老いていく。身寄りは弟だけ。弟家族のお荷物になるのは嫌だなって」

それならば、一緒に歳を重ねていけるパートナーを探そうと思ったそうだ。そして、婚活をスタートさせることを決意した。

10年前の婚活市場とは違い、今はシニアの登録者も多い。60代でもお見合いはいくらでも組める状況だ。いくつかのお見合いをし、断ったり断られたりが続いていたのだが、その中でも交際に入ったしょうじろう(65歳、仮名)とは気が合ったようだ。

待ち構えている「アノ問題」

3回、4回とデートを重ねていくうちに、真剣交際が見えてきていた。

ところが、あるときこんな相談が来た。

「前々から気になっていたのですが、しょうじろうさん、何かにつけて私の体に触れてこようとするんですよ。この間は手をつながれて。しばらくはつながれたままにしていたんですが、途中で美味しそうなお菓子があったのでお土産に買って、それをしょうじろうさん側の手に持って、手がつなげないようにしました」

そこで、筆者は言った。「これから結婚しようという男性と手をつなぐのが嫌だったら、1つ屋根の下では暮らせないのではないですか?」。

すると、よりこが言った。「この歳になったら、そんなベタベタするのって、気持ち悪いし、恥ずかしいじゃないですか。お茶のみ友達みたいな関係で、皆さん結婚していくのではないですか?」。

これは、よりこだけではなくアラカン女性たちからよく聞く言葉だ。ただ男性たちは、いくつになっても女性と触れ合いたいと思っている。

この世代になると、男女の性的欲求には差が出てくるようだ。性交を伴う関係においても、60代の男性では53%、70代の男性では25%がそれを求めている。ところが、女性の場合は60代が20%、70代が10%と、男女で大きな開きがある(日本性科学会、2000年調査より)。

筆者がこれまで見てきた婚活女性でいうと、男性に触れ合うのを避けたがるのは、再婚者よりも初婚者に多い。

加齢によって身体的にも精神的にも変化が生まれ、性欲は衰えていくし、男性も完璧に行為ができるわけではない。ただ、それでも触れ合いたいと思うのが男心だ。女性側にもある程度の性的欲求や好奇心がないと、シニアの結婚は難しい。

婚活よりも推し活が優先

自営業のさとえ(60歳、仮名)は、1000万円近い年収を稼いでいるバリキャリだ。2年前に、25年の結婚生活に終止符を打ち、熟年離婚をした。

「体の動くうちは仕事はしたいと思っています。仕事をするのは社会と関わりを持つことなので、生きていく張り合いになりますから」

入会面談のときに、こんなことを言っていた。1人で生活していくには困らない収入があるのに、なぜ再婚を考えたのか?

「2人の子どもも社会人になって、独立しました。子どもには子どもの人生がありますから、私が動けなくなって仕事ができなくなったときに、子どもに面倒を見てもらうのは嫌だなと思ったんです」

再婚を希望するシニア女性で、さとえのように経済的に自立しているのはレアなケースだ。結婚をして、経済面を男性に頼りたいと思っている女性たちが多い。持ち家がなかったり、離婚時の財産分与が十分な金額でなかったりすると、なおさらだ。

それでいうと、さとえは自分で購入した分譲マンションがあり、老後困らない預貯金額もあった。

「マンションを売ったり貯金を出したりすれば、介護施設にも入れると思います。でも、それでは寂しい」ので、見合いする男性は、資産や財産を持っているというよりも、「人として面白い人」「一緒に暮らして楽しい人」だった。

婚活をスタートさせ、いくつか見合いをしたのだが、なかなか気の合う相手に巡り会えずにいた。

「60代の男性ってアクティブではないし、静かな隠居生活みたいなものを望んでいる人が多いことにびっくりしました。私が想像していたのとかけ離れていた」

そんななかで、こうじ(63歳、仮名)は違っていた。スポーツジムに行くことを日課にしており、体も引き締まっている。数年前までは、市民ランナーとして、フルマラソンの大会にも出場していたという。

「今日の方はとてもお話が弾みました。ぜひ、交際希望でお願いします」

そして仮交際に入ったのだが、2度目のデートを終えたところで、こんな連絡が来た。

「前回のデートのときに、アイドルグループが好きだという話をしてくださったんですね。そしたら、この間のランチをご一緒したときに、『今日は夜、コンサートに行くんですよ。今全国ツアー中で、地方公演のチケットも取ってあるんです』っておっしゃって」

その話をするこうじの顔が、いつにも増して生き生きしていたという。そして、全国ツアー中のアイドルグループの地方公演にも追っかけていくので、2度目のデート以降、週末会うことができなくなった。

「この方、本当に結婚したくて婚活をしているのでしょうか。交際終了でお願いします」

人の趣味は、それぞれだ。没頭できる趣味があるシニアは、隠居はせず確かにアクティブかもしれない。

娘や孫の年齢のグループが好きで、そのなかのメンバーを推しにして、コンサートに行くのは何も男性だけではない。女性も若いアイドルが好きだったり、韓流スターや歌舞伎役者にハマっていたりして、そこに時間やお金を費やしている人たちがいる。

だが、それが過ぎるとそちらを優先させてしまう。推し活だけではない。ウインタースポーツが好き、マリンスポーツ好き、ゴルフ好きなど、趣味に没頭して婚活をなおざりにすると、婚活での結婚は難しい。

シニアの婚活で求められるもの

こちらは、婚活がうまくいったケースだ。

よしお(66歳、仮名)がやすこ(63歳、仮名)と成婚を決めた。よしおは、上場企業を退職後、年金生活を送っていたのだが、長男に続き、長女が結婚したことで、自分のこれからの人生を考えるようになった。

年金生活ではあるが、持ち家があり、貯蓄もかなりある。そんな男性は、60代でも婚活市場では人気なので、よしおはスムーズにお見合いが組めていた。しかし、6人目のお見合いを終えたときにこんな感想を漏らした。

「今の50代後半、60代の女性に、おしゃれできれいな人が多いのでびっくりしました。美魔女っていうんですかね。ただ、きれいに着飾ってブランドバッグを持ってくるような女性は、皆さんプライドが高くて、強気な発言をする人が多いし、行く店にうるさい」

さちこ(59歳、仮名)とお見合いしたときのことだ。約束の時間に落ち合い、近くにあったファミレスに入ろうとしたら、彼女が足を止めて言った。「もしかして、ここでランチですか? やだ、婚活でファミレス連れて行こうとした人、初めてですよ」。

よしおは慌てて、「それはすいませんでした。このへんでどこか、いいお店は知りませんか?」と尋ねた。さちこは、何度か行ったことがあるという路地裏にある小洒落た一軒家のレストランによしおを連れて行った。

その後、さちこからは“交際終了”が来たのだが、そのランチの席で、よしおは婚活の仕方をしっかりレクチャーされたという。

婚活で結婚したいなら、ランチデートのときはお店を予約しておいたほうがいいですよ」

「『どこかいい店を知りませんか?』と私に聞きましたが、女性に行き先を丸投げするのは、婚活では大きなマイナスです」

「あと、私に今『いつ頃から婚活を始めたんですか?』って聞きましたけど、婚活歴を聞くのはマナー違反です」

彼女から交際終了が来たことを告げると、よしおは苦笑いしながら言った。「まあ、彼女に婚活指導をされて私も勉強になったので、よかったです。これからは彼女に教えられたことを生かして婚活していきますよ」。

こうして10人近い女性とお見合いをし、そのなかから選んだのがやすこだった。特別美人でもなく、雰囲気も地味。仕事は、スーパーのバックヤードで総菜を作っていた。

「やすこさんは、ファミレスに連れていっても、ニコニコしながら食事をしていました。お総菜を作る仕事をしているだけに、庶民的な料理を作るのが上手。これまでお見合いで出会ってきた美魔女ではなく、私は彼女といたほうが落ち着きます」

やすこは、5年前に10歳上の夫と死別。今は、亡くなった夫が残してくれた家に住み、遺族年金とパートで生計を立てていた。

「これからのことは2人で決めていきますが、お互いが持っている家を売って、それで2人が住む中古のマンションを買ってもいいかなと思っています。彼女は、『私は働くのが好きだから、体が動くうちは働きたい』と言っています」

シニアの美魔女の落とし穴

シニア世代は、20代の頃にバブルを経験している。男性が女性に食事をごちそうするのは当たり前。特別な日は、特別な場所で食事をするのが当たり前。高価なプレゼントをもらって当たり前。そして、彼女たちが40代の頃に、ある女性誌から美魔女という造語が生まれた。


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華やかな時代を経験してきたシニアの美魔女たちは、どうしても上から目線の婚活をしがちだ。

一方、男性たちは華やかな時代も若い頃に経験はしているが、バブルから転落し、のちにリーマンショックがあり、世界から置いていかれる日本社会を体感しながら働き、定年を迎えた。

そうしたシニア男性を“くたびれている”という言葉で片づけていたら、シニアの結婚はうまくいかない。

行先不安な時代だからこそ、1人よりも2人の暮らしを考える。お互いを思い合い、認め合い、シニア女性に至っては、男性を癒やせる気持ちのある人が成婚を勝ち取れるのではないか。

(鎌田 れい : 仲人・ライター)