ジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)/経済社会理論家。経済動向財団会長およびTIRコンサルティング・グループ代表。ペンシルベニア大学ウォートンスクール上級講師。欧州連合、中国など各国の首脳・政府高官のアドバイザーを歴任

鳴動する政治。終息しない戦乱。乱高下する市況。その先にあるのは活況か、暗転か――。

『週刊東洋経済』12月23-30日 新春合併特大号の特集は「2024年大予測」。世界と日本の行方を総展望する。


自然を収奪し、強欲に利益を追求し続けてきた人類文明は、パンデミックや気候変動によって危機に瀕している。

『エントロピーの法則』『限界費用ゼロ社会』などの著書で知られる経済社会理論家のジェレミー・リフキン氏が、人類が生き延びるための処方箋を提示する。

──新著『レジリエンスの時代』の副題はReimaging Existence on a Rewilding Earth、すなわち「再野生化する地球で人類が生き抜くためには大転換が必要だ」というメッセージです。

この200年、西洋文明を中心に、工業化による「進歩の時代」が続いてきた。しかし、化石燃料を土台にした進歩の時代はもはや持続することができず、「地球の再野生化」により、6度目の大量絶滅の危機が近づいている。

必要なのは新たなプレイブック

地球の再野生化とは、気候変動などが原因で自然が猛威を振るい、人類の制御が及ばなくなることを意味する。すでに熱波や干ばつ、洪水、森林火災が多発し、地球は生物が住めない場所になりつつある。

ある専門家によれば、このままでは今の赤ん坊が一生涯を終えるまでに地球上の生物の約半分が絶滅してしまうという。

人類が生き延びるには、今までのやり方を根本から変えなければならない。強欲な資本主義、代議制民主主義に基づく統治機構、自然を利用対象と捉える科学技術……、それらはいずれも「進歩の時代」のプレイブック(戦略集)だ。

そのプレイブックに基づいて解決策を練ろうとしても、たちまち壁にぶち当たってしまう。ここで必要なのは新たなビジョンであり、そこから生まれてくるのが「レジリエンスの時代」。すなわち、再野生化する地球で生き抜くための新たなプレイブックだ。

経済・社会の変革が急務

──現代文明のどこに問題があるのでしょうか。

19世紀に英国では電信技術の発達により、瞬時に通信ができるようになった。エネルギーでは石炭を燃焼させ、移動手段では鉄道が生まれた。上下水道も整備された。第1次産業革命とともに国民国家が形成されて、都市開発も進んだ。代議制民主主義も広がった。

20世紀にはアメリカが中心となり、第2次産業革命が起きた。石油が石炭に取って代わった。自動車が普及し、巨大な水力発電ダムが建設された。統治機構としては国連、経済協力開発機構、国際通貨基金、世界銀行が設立された。

これら第1次および第2次産業革命が、図らずも絶滅への道を用意した。進歩の時代を特徴づけたのは、効率性を追求した結果としての環境破壊などの「負の外部性」であり、農業でいえば特定品種の単一栽培による悪影響だ。

しかし、危機は変化のためのチャンスであり、私たちは新たな社会や経済、政治システムを構築すべき時に来ている。

──政治システムにおいてはどのような見直しが必要でしょうか。

気候変動の猛威は、国家間の境界線を無意味なものにしている。そこで取って代わるのが、「バイオリージョン(生命地域)」という考え方だ。国家の主権や地域の自治権はもちろん存在し続けるが、共通の生態系を「コモン(共有財)」として重視する統治の必要性が強まっている。

アメリカやカナダでは、北西太平洋岸地域、五大湖地域など、広域のエリアごとに、国境を越えて州などが集まり、各地域の生態系を産業や雇用などと一体で管理していく取り組みが始まっている。

とくに重視されているのが、生態系の保全や水資源の管理だ。中国でも2021年に8つのバイオリージョンが発表された。

統治の方法としては、工業化の時代にスタンダードとなった代議制民主主義を見直し、「分散型ピア(対等者)政治」に道を譲る必要がある。

これは市民一人ひとりが統治の過程そのものの一部となるというものだ。地方自治体は市民に協力を求め、市民は「ピア議会」(ピア主導の能動的な市民議会)に参加して、自治体とともに働く。


経済社会理論家のジェレミー・リフキン氏(© 2010 Bloomberg Finance LP)

──経済や科学技術のあり方は。

進行しつつある第3次産業革命に期待している。第1次および第2次産業革命が、化石燃料を土台とし、多額の資本を必要とする中央集権型であったのに対して、第3次産業革命は分散型で流動的なプラットフォームによって成り立つ。

インターネットによってたくさんの人たちがお金をかけずにお互いにつながれるようになった。住宅の屋根には太陽光パネルが置かれ、市民が自分で使うためのエネルギーを生み出している。

GAFAが席巻した、第3次産業革命の第1世代は中央集権的な面が強いが、40年先にこうした企業が生き残れるかは未知数だ。

というのも、大量のデータであふれる社会においては、ありとあらゆる機器にセンサーが設置され、IoTという神経系を通じてデータをやり取りするようになるからだ。一部の企業がデータを独占することはできない。いちいち遠隔のデータセンターを介してやり取りしていたら立ちゆかないからだ。

大企業は新たに勃興する無数のハイテク中小企業と連携しなければ生き残りは難しい。

共感力が変革の原動力に

──ウクライナや中東など世界中に戦争が広がっています。アメリカでは2024年の大統領選で、ドナルド・トランプ氏が再び返り咲く可能性もあります。

地政学的な発想は時代遅れだ。

なぜならば、気候変動によって住み慣れた土地から離れざるをえない人たちが、たくさんの数に上るからだ。そこで重要なのが、先ほど述べたバイオリージョンの考え方であり、人間の持つ生命愛や他者への共感力だ。私は若い世代の人たちの行動力に期待している。

──日本の役割は。

新たな時代への先導役として、日本には期待している。日本には第3次産業革命に必要な技術的な要素の多くが備わっている。日本は水に囲まれた島国であり、水との付き合い方でも多くの知恵がある。人類が生き延びるために、日本には主導権を握ってほしい。

(聞き手:岡田広行)

(岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト)