「親との関係がしんどい」。そんな親に対する“モヤモヤ”の正体を知り、癒しにつなげていく方法を紹介します(写真:takeuchi masato/PIXTA)

「毒親というほどではないけれど、親との関係がしんどい」

そんな親に対する“モヤモヤ”は、大人になった今だから表れた「癒し」の知らせかもしれません。SNS・ブログで人気の心理カウンセラー・寝子さんの著書『「親がしんどい」を解きほぐす』より一部抜粋・再編してお届けします。

子どものころに起きていた心の状態

親に対するしんどい気持ちは軽くしたいですよね。そのため、「このモヤモヤをなくすにはどうしたらいいだろう?」と悪いもののように捉え、追い払おうと行動したくなります。

けれど、感情や感覚は、なくそうとすればするほど強まってしまうものです。

その気持ちがどこからきて、今何を知らせているのかを的確に捉えることこそ、抱えているしんどさを解きほぐし、ご自身を深く癒すことにつながります。

つまり、ご自身のモヤモヤの正体を知ると癒しが始まることが多いのです。

そこで、親との間に起きる自分の感情に気づき、さらには癒しにつなげていくために、少し過去に遡ってみましょう。

私たちは、さまざまなことを過去から学び、今の自分を作っています。そういう観点では、親という存在の影響はとても大きいものです。今の自分の感情に気づこうというとき、子どものころの自分と親との関わりに、たくさんのヒントを見つけることができます。

私たちが子どもだったころ、どのような心理作用が起きていたのか、ひもといていきたいと思います。

成長の過程で、身体が発達していくように、感情も発達していきます。

私たちの感情は「快か不快か」といった未分化な状態から、「嬉しい」「楽しい」「悲しい」など、さまざまな心理状態を体験できるように豊かになっていくのです。

このように感情が耕されるためには、親からの関わりで“安心感”を得ながら、親を通して自分の感情を知っていく過程を経ることが必要になります。

子どもの健全な発達のためには、「養育者が子どもに合わせながら調子を整えてあげることを繰り返していく過程」が非常に重要であるとされています。

具体的には、「ぐずっている子を親が抱っこしてなだめる」といった身体的な調整から、「怖かったね」「どう思う?」などの気持ちの言語化を助けるものまで、感情は“聞かれて”“呼応されて”耕されていきます。

そのような体験の積み重ねによって、私たちは自分で自分の気持ちが理解できるようになっていきます。そして、お互いに感情が伝わり合うからこそ、親の優しさや温かさが子どもを落ち着かせることになります。

親の感情は子どもに移る

一方で、親が子どもに合わせるのではなく、子どもが親に合わせるという作用も起きます。

親が子どもの状態を本人以上に心配することがあることと同じように、親の心の状態が子どもに伝播することも多々生じています。

親が悲しそうにしていたら、子どもは親以上にいたたまれない気持ちになったり、親が誰かに怒っていたら、その対象を子どもも嫌ったりするようになります。

程度の差はあれ、私たちは成長過程で親と感情を共にするものです。

そのような一心同体の状態から、子どもの成長と共に、子ども側だけでなく親側も「相手の気持ちや思考は自分とは別のもの」と区別していけるようになっていきます。

「子どもの調子に親が合わせる」という働きかけが家庭の基盤となっていることが大切です。しかしながら、親が子どもの気持ちにお構いなしに自分の気持ちを爆発させていたり、子どもの心身の具合にほとんど関心を払わなかったりという状況であった……ということが少なくありません。

このような環境では、親が子どもの調子に合わせるより、「子どもが親に合わせることのほうが日常であった」という親子の役割が逆転した状態になっていたと言えます。

このような環境であると、子ども側は心に傷を負ってしまいます。それは、大人の負の感情は、子どもが抱えきれるものではないからです。

そのため、親が不機嫌であるなど、負の感情を子どもに向けることが多かったら、親自身が感じている以上に子どもには脅威として響きます。時には、子ども側の健康を損なってしまうこともあるほどです。

それでも、選択肢のない子どもは、懸命に親に適応するために「合わせよう」とし、子どもは自分のことより親の悲しさや不機嫌さを受け止めて、親のために対処する日々を重ねていきます。

子どものころ自分の気持ちを感じる余地を与えられないまま、親のストレスに心を痛める日々を過ごすと、大人になってふと気づくと「自分の気持ちはよくわからないけれど、親の気持ちばかり考えている」という心情につながっていることがあります。

こうなると、いざ親から距離を取ろうと思っても、親の心中を思うとあまりに心が痛み、上手に距離を取れなくなることがあります。

今の“心の痛み”は子どものころのもの

大人になった今でも、このような親の心情をおもんぱかるときに起きる“心の痛み”があったら、「親のつらさが想像されて苦しい」と捉えるのはやめてみましょう。

代わりに、「まだ子どもだったころに、大人である親の気持ちまで受け止めていたのだ。それは子どもが負うにはあまりに負担が大きかったから、今でも似たような状況になると当時の自分が蘇るのかも」と受け止めてみてください。

つまり、親の痛みに意識を向けるのではなく、今まさに心が痛んでいる自分に思いを寄せてみるのです。

今のご自身の“心の痛み”は、親の痛みを正しく反映しているものではなく、「子どものころの自分が受けた衝撃の強さ」です。

だからこそ、自分自身を思いやってあげることが大切になります。

親子関係の“無意識の巻き込まれ”に気づく

今の自分が癒すべきはきっと、親ではなく、あなた自身であるはずです。


誰かのつらさや悲しさに直面したら、共感性があればご自身も同じようにつらく悲しい思いになることは当然の反応です。

ただ、その当然の反応をそのままにできずに「親のために何かしないと」となることで、「自分の課題ではない」とうまく区別できなくなるのが親子関係の特徴の1つです。このような“無意識の巻き込まれ”に気づいていきましょう。

意識することができたら、「子ども時代に“親の心の痛み”に敏感に傷ついていたのかも」「今でも“助けなきゃ”と思ってしまうのだ」「ある程度共感するのは自然なこと」などと、ご自身について詳しく知っていくことができます。

それだけで、ご自身の苦しみを和らげていくことにつながります。

(寝子 : 臨床心理士・公認心理師)