水の色が何色か、あなたは答えられますか?(写真:alexgrec/PIXTA)

みなさんは、「化学」についてどんなイメージを持っているでしょうか?

「理論や計算、化学式や物質の性質、反応など覚えることが多くあって大変」

「内容に実感がわきにくく、わかったという気持ちになれない」

そんな意見もあるかもしれません。しかし、それを抜きに人間の生活・暮らし・人生を語ることはできないくらい、私たちは化学に支えられて生きているのです。

そのエッセンスを、初学者向けに化学をわかりやすくかみ砕いて解説することに長けた、左巻健男氏による最新刊『化学で世界はすべて読み解ける』よりご紹介します。

水の色は透明? 青色? 

地球は表面の約70%が水でおおわれていて、水に満ちているので、「水の惑星」と呼ばれています。

水は浅いと無色透明です。無色透明なのは、太陽の光が全部向こう側に通り抜けるからです。

太陽光は白く見えますが、虹の7色「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」が混ざり合ったものです。アメリカやイギリスでは藍色がない6色としているなど、国によって虹の色に違いがあります。

それらの色のうち、赤い光は、わずかですが水に吸収されます。浅い水では、その影響が非常に小さいので無色透明なのです。

ところが水が深くなると、赤い光が水に吸収され、残りの光が合わさって青色の光になり、水の中を進んでいきます。つまり、海のような深い水では、青色の光だけが海の水に吸収されないで水の中の物質(ごみやプランクトンなど)によって散乱し、私たちの目に届きます。それで私たちの目には、海が青く見えるのです。

地球の表面と大気にある水の量は、14億立方キロメートル(重さで1兆トンの140万倍)と推定されています。その97%以上が海水(塩水)です。

淡水は、地球の水全体の3%未満しかありません。しかも、そのほとんどは、南極、グリーンランドなどにある陸上の氷です。地下水、河川や湖沼などの淡水はごくわずかです。

海水は塩分を大きく減らさないと、人が飲むにも植物への水やりにも使えません。

海水から塩分を減らすには莫大な費用がかかるので、私たちが家庭や工業・農業で利用できる水は、地下水、河川や湖沼など淡水ということになります。

海水も淡水も循環している水の一部です。太陽光が海水に当たると、海水から水が蒸発して水蒸気になり、大気中に含まれます。水蒸気は、雨や雪に姿を変えて、地上に降り注ぎます。そして、最終的には海に流れ込んでいきます。

こうした水の循環があるので、私たちは淡水を使うことができるのです。

「氷は0℃」と思っていませんか?

水は、私たちの生活する温度範囲(常温)で、固体、液体、気体の3つの状態を見せてくれる物質です。

常温はJIS(日本産業規格)では20℃±15℃(5〜35℃)の範囲とされています。本記事では20℃付近とします。

水は、1気圧のもとで、融点(凝固点)は0℃、沸点は100℃です。水の融点と沸点から、摂氏温度の目盛りが決められています。

マイナス18℃の冷蔵庫の冷凍室でつくられた氷は、冷凍室内で何℃でしょうか?

「氷は0℃」と思っていませんか?

マイナス18℃の場所では、氷はマイナス18℃になります。それを取り出して常温に置くと、まわりからの熱で次第に温度が上がっていきます。0℃になると融けはじめます。融け終わるまで0℃です。

これは加えられた熱が、氷の水分子間の結合を解いて、分子があちこち動ける液体の水になることに使われるからです。

水の分子は、0℃以下の氷の状態では、まわりの水分子とがっちり結びついていて、それぞれの場所から動けません。0℃の液体の状態になると、それぞれの場所を変えて動けるようになります。したがって、液体の水は容器によって形が変わります。

液体窒素はマイナス196℃という低温です。液体窒素の中に氷を入れておけば、マイナス196℃の氷になります。

水を鍋などに入れてコンロで加熱すると、次第に温度が上がります。水面からは水蒸気が飛び出す「蒸発」が起こっています。温度が上がるにつれて蒸発が盛んになります。

水の内部を見てみましょう。

初めに水の内部から出てくる泡は、水に溶けていた空気です。温度が高くなったため、溶けきれなくなって、泡として出てきたものです。

100℃になると、盛んに内部から泡立ち、沸騰します。沸騰しているときの泡の中身は水蒸気です。沸騰中、水の温度は100℃です。加えられた熱が液体の水分子間の結びつきを切って、ばらばらの水分子(水蒸気)にするために使われるからです。

水蒸気は目に見えるでしょうか?

水が沸騰しているやかんの口からは、白い湯気が見えます。実は湯気のまわりには目に見えない水蒸気があります。水蒸気は、ばらばらの水分子がびゅんびゅん飛んでいる状態です。ばらばらの水分子は目に見えません。水蒸気は無色透明で、その分子は見えないのです。

倍率1500倍程度の性能のいい光学顕微鏡でも、水の分子は見えません。それに対し、目に見える湯気は、莫大な数の水分子が集まっています。その数は幅がありますが、例えば1京個です。

水蒸気でマッチに火がつけられる!?

沸騰している水から出る水蒸気は100℃ですが、その水蒸気をさらに熱すると、温度の高い水蒸気になります。

水蒸気は100℃どころではなく200℃、300℃を超えるような高い温度にもなります。水蒸気は最高で100℃ではなく、300℃を超える場合もあるのです。

これを「過熱水蒸気」といいます。熱くて乾いた感じの水蒸気です。

過熱水蒸気を当てるとマッチに火がつき、紙も焦げ出します。水蒸気でぬれるのでなく、水蒸気で焦げるのです。

私たちは、普段の生活の中で、100℃を超える水蒸気に接する場面はないでしょう。だから「水はぬれやすい」とか「水蒸気はせいぜい100℃までにしかならない」という考えを持っている人が多いのかもしれません。

火力発電所や原子力発電所では、水を熱して「高温高圧の水蒸気」をつくり、この水蒸気を、発電機につながった巨大なタービンに勢いよくぶつけ、タービンを回すことによって電気をつくっています。

最近、身近に過熱水蒸気を使った調理器具が現れました。

2004年、ウォーターオーブン、つまり「水で焼く」という調理器を、シャープが発売しました。これは300℃を超える過熱水蒸気を使う調理器です。300℃はてんぷらをあげる油の温度、約180℃をかなり超えています。

もともと業務用では過熱水蒸気を使う調理器が存在していましたが、家庭用として小型化して販売されたのです。

食品に水蒸気を当てれば結露してぬれますが、過熱水蒸気では食品がぬれた状態になるどころかパリッとカリッと焼けます。ウォーターオーブンの高熱で、食品内部の脂が融け出し、ポタポタと落ちます。

また、調理器内の空気を追い出しますから、初め空気中に21%あった酸素がぐんと減ります。低酸素状態では食品の成分が酸化しにくいので、ビタミンなど酸化に弱い成分を守ることもできます。

最初に販売されたウォーターオーブンは過熱水蒸気のみを利用していましたが、その後は、過熱水蒸気に加えて、マイクロ波の併用、ヒーターの併用、マイクロ波とヒーターの併用など、いろいろな加熱方式を組み合わせています。

氷はなぜ水に浮かぶのか?

水は、自然界にあるいろいろな物質の中で、他とは異なる性質を持っています。最大の特徴は、固体の氷のほうが液体の水よりも、同じ体積で軽いということです。

同体積で比べると、ほとんどの物質は液体のときよりも固体のときのほうが重いのです。例えば、ロウソクのロウ(パラフィンという物質)を加熱して液体にしたものにロウのかたまり(固体)を入れると、ロウのかたまり(固体)は沈みます。

また、常温で唯一液体の金属である水銀を、ドライアイスで冷やして固体水銀にしてから液体の水銀中に入れる、あるいは液体のエタノールを液体窒素で冷やして固体エタノールにして液体エタノールに入れる。するとどちらも、固体がその液体中に沈みます。

これは固体のほうが液体より原子・分子どうしの結びつきが強く、原子・分子間の隙間が小さくなるので、原子・分子がぎっしり詰まり、密度が大きくなるからです。

ところが水は違います。水は液体のときよりも固体のときのほうが軽いのです。

さらに液体の場合、ほとんどの物質は、温度が上がると膨張して軽くなりますが、水は違います。水は、4℃のときに最も重くなるのです。

もしも氷が0℃の水よりも重かったら、まず水面で冷やされてできた氷は、できた途端に底へ沈んでいきます。湖にしろ、川や海でも底が氷でいっぱいになります。

しかし実際はそうではなく、氷は水面上に留まり続けます。だから水の中の生物は、0℃より気温が低くなっても、氷のカバーに保護されて暮らしていけるのです。

なぜ水は固体のほうが液体よりも、同じ体積で軽いのでしょうか?

これは水分子の結びつき方が原因です。水分子は酸素原子1個に水素原子2個が結びついています。水素原子2個はある角度(104.5度)をなす折れ線形をしています。

水分子は分子内に電気的な偏りが大きい分子です。すると、ある水分子の水素原子と近くの(別の)水分子の酸素原子が、分子どうしで+電気と−電気の引き合いをします。

この結びつきを「水素結合」といいます。水素結合は普通の分子どうしの引き合いより強いです。

普通の氷は、水分子が水素結合で結びついて結晶になっており、この結晶を上から見ると、水分子は六角形の形に並んでいます。雪の結晶もこの構造の集まりですから六角形になります。水素結合のせいで氷は隙間が大きいのです。

液体の水になると水素結合がかなり切れて、水分子が乱雑に動き回るようになります。水素結合がなくなると、水分子間の隙間が埋まって密度は大きくなります。

水はどんなものでも溶かすのか?

水にいろいろな物質を入れてかき混ぜてみましょう。ショ糖(砂糖の主成分)を入れたときは、ショ糖の姿は見えなくなり、無色透明の液体になります。このとき「ショ糖は水に溶けた」といいます。

馬鈴薯デンプンを入れると、水は白くにごります。そしてしばらくすると、デンプンが底に沈澱してきます。


水に物質を入れたとき、浮いたままだったり、沈澱したり、水がにごったりしている場合は、その物質は水に溶けていないのです。

水は、物質を溶かす能力が大きいです。

雨は、大気中の気体を溶かし込んでいます。川の水は、いろいろな物質を溶かし込みながら海へと流れていきます。海水中には、1リットルあたり約35グラムの塩類が溶けています。金や銀はおろかウランまで、60種以上の元素が溶けています。

私たちの体に目を向けてみましょう。

私たちが食べ物を食べると、それに含まれるデンプン、タンパク質、脂肪は、胃や腸で消化・吸収されて水に溶けるようになります。水に溶けるようになった栄養分は、体内に吸収され、血液の流れに乗って、体のすみずみの細胞まで運ばれます。老廃物もまた、水に溶けて尿や汗などとして体の外へ運び出されます。

灯油やガソリン、食用油、脂肪など、有機化合物(炭素を中心にした化合物)は一般に、水に溶けにくいものが多いです。それでも全く溶けないわけではありません。

灯油やガソリン、食用油、脂肪なども、わずかですが水に溶けます。

油の仲間どうしは、よく溶け合います。だから水では消えない油性インクの落書きは、アセトンや石油ベンジンなどの有機溶剤で消すことができます。

有機化合物の中でも、エタノールやショ糖などは水によく溶けます。エタノールは水にどんな割合でも溶けますし、ショ糖は20℃で、水100グラムに204グラムも溶けます。これは、それらの分子中に水と仲のいい部分(親水基の-OH〔ヒドロキシ基〕)を持っているからです。

水は、塩類や親水基を持った親水性の物質だけでなく、溶ける量は少なくても、きわめて多種類の物質を溶かします。水にはガラスも溶けるのです。

(左巻 健男 : 東京大学非常勤講師。元法政大学教授、『RikaTan(理科の探検)』誌編集長)