多くの企業が採用しているソーシャルメディア。思わぬ法律違反となる事例や、トラブル回避の対応について解説します(写真:miyuki ogura/PIXTA)

ソーシャルメディアを活用して商品やサービスの宣伝を行う手法は、低コストでできる手軽なプロモーションとして、いまや多くの企業が採用している。しかし、そこにはステルス・マーケティングなどの落とし穴も存在する。

近著『デジタル時代の 情報発信のリスクと対策』を上梓し、企業の危機管理に詳しい北田明子氏が、前回に続き、いまビジネス現場で頻発している、ソーシャルメディア活用で法律違反となる事例とトラブル回避の対応について解説する。

典型的なステマの事例

ある自治体が、自転車での観光推進のため大掛かりなプロモーションを実施しました。自治体下にある協議会が、観光PRのために人気インフルエンサーに協力を仰ぎ、自転車でツーリングする動画を撮影しユーチューブに投稿しました。


この時、インフルエンサーには経費などを含めて謝礼を支払っていたのですが、投稿の際にはPRであることは明記せずに配信を続けました。すると、3カ月後、ある新聞に「口コミを装って宣伝するステマではないか?」という記事が出たのです。

自治体側は「自治体の関与が容易に判断できるため、ステマには該当しないと認識している」とコメントを出しましたが、同協議会は県の補助金を使って、インフルエンサーに対する出演料など、数十万円を広告代理店に支払っていました。

この件は、何が問題なのでしょうか。また、自治体の判断・対応は正しかったのでしょうか。

弁護士の見解は「景品表示法に違反する可能性がある」というものです。

発信力のある「インフルエンサー」を活用するインフルエンサー・マーケティングは、すっかり定着しました。事業者から直接配信する「広告」に比べて、消費者の共感を得られやすい効果があるとも言われます。

「口コミを装って宣伝するステマ」に該当

インフルエンサー・マーケティングは、企業がCMに有名人を起用するのと変わりはありませんから、インフルエンサーに広告を依頼すること、報酬を支払うことは、何ら問題はありません。

しかし、それを「広告である」と明示しない場合は、ステルス・マーケティング、つまり、それが宣伝広告であると消費者に気づかれないように行う宣伝活動とみなされます。いわゆる「サクラ」や「やらせ」と呼ばれていた宣伝活動です。

上記の自治体の例は、人気インフルエンサーに出演料を支払って動画に出てもらっているため、実態は広告です。しかも、その旨を明示していませんから、新聞記事にあるよう「口コミを装って宣伝するステマ」とみなされても仕方ありません。

一般の消費者は、広告を信頼して商品・サービス選びの参考にしています。仮に広告にうそが混じっていれば、それにだまされた消費者は不利益を被ります。このような不利益を防ぐために、景品表示法という法律が設けられています。

本件については、景品表示法に違反しているということになります。

上記の自治体がやっていた動画を使ったプロモーションは、報道のとおり「ステマ」ということになります。「自治体の関与が容易に判断できるため、ステマには該当しないと認識している」というコメントは、正当性がありません。

これまでステマに関して、「不適切である」との指摘はされており、消費者庁のガイドラインでも「問題になる」との指摘もありましたが、これを直接規制する法律はなく、あくまで業界の自主規制に委ねられていました。しかし、2023年10月より、ステマ(一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示)が規制の対象となりました。

これにより、関係者が第三者を装って口コミ投稿したり、対価を受けたインフルエンサーが「広告」「プロモーション」「PR」「A社からの商品の提供を受けて投稿している」など、広告であることが明らかである旨を示さずに広告することなどが規制の対象となります。なお、自社商品の高評価依頼だけでなく、他社製品の低評価を依頼することも違反となります。

「ステマの罠」を回避する知識が必要

上記の自治体側は、新聞社の取材を受けた後に、動画の概要欄に「提供:〇〇協議会」と追記し、動画にも「プロモーションを含みます」と明示しました。

最初から、そのように明示していれば、何ら問題はありませんでした。せっかくの記念の年に観光施策を盛り上げようとやったことが、このステマによって視聴者の信用を失墜させてしまったわけです。これは、担当者や管理者がそういう仕組みを知らなかったのでしょう。

インフルエンサー・マーケティングは、当たり前のプロモーション施策として定着しています。著名ユーチューバーなど、影響力が大きく、引っ張りだこになっているインフルエンサーもいます。ただし一方で、その影響力が真実かどうかわからない「自称」インフルエンサーもおり、海外のインフルエンサーに莫大な謝礼を支払ってインバウンド誘致している自治体もあります。

口コミ宣伝という新しい手法にまだ慣れていない方は、インフルエンサーの活用についてはよく検討し、表示にも注意する必要があります。

(構成:間杉俊彦)

(北田 明子 : 広報・PR、危機管理広報アドバイザー)