部下をどうマネジメントするかはマネジャーになったばかりの人が直面する難しい課題です(写真:takeuchi masato / PIXTA)

「できる社員」から「新任マネジャー」へのステップアップは、多くの人が想像する以上に大きな変化です。十分な経験やトレーニングを積まないままに取り組むと、せっかくの昇格が試練の連続になりかねません。

たとえば「問題のある部下をどうマネジメントするか」も難しい課題でしょう。ローレン・B・ベルカー氏らの著書『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』から一部を抜粋し、私生活や態度に難のある部下のマネジメントについて考えます。

私生活の問題への介入

部下の中には、私的な問題のせいで勤怠や業績が悪化する人も出てくる。アルコールや家庭の問題などはマネジャーの仕事とは無関係だと思っているなら、それは甘い。

ただし、マネジャーだからといってどんな問題でも解決できるわけはない。こうした問題に対処すべく、従業員支援プログラムを用意している先進的な企業もある。

よほどの大企業を除いては、社外のサポート機関と連携する形になる。こうした従業員支援プログラムには専門職が関わっており、地元の支援団体などについての知見もある。

従業員の私的な問題をすべてマネジャーの自分が解決できると考えるのは馬鹿げている。自分の専門性を超えた問題に対応しようとして、状況を悪化させてしまうリスクがある。

マネジメント業務として適切な範囲から逸脱しないことも、マネジャーの責任だ。部下の個人的な問題にかまけて、業務目標の達成に支障をきたしてはならない。人助けは崇高ではあるが、あなたは支援のプロではない。

さらに、アメリカのほとんどの州では、法令により個人的なアドバイスはマネジャーの職権として認められていない。

数年前にソルトレークシティのコンピューターメーカーで起きた事例だが、組み立てラインの作業員が2回に1回は遅刻しており、40〜50分遅れることもあった。

さらに仕事の精度も低い状況が数週間続いたため、上司がその従業員と話したところ、従業員は謝罪して言った。

「託児所の開始時刻がよく遅れていて、子どもを入り口に放置して仕事に来るわけにいかないのです」。施設の状況に不安があるため一日中、子どもが心配で、業務に悪影響が出ている、とのことだった。

上司は言った。「いい方法があるわ。私の子どもの通っている託児所を使えばいいでしょう。開始が1時間早いのよ。これで遅刻もなくなるし、業務中に心配しなくてよくなるわ。そうしなさいよ」。

部下は上司に言われたとおりにした。詳細は控えるが、新しく通い始めた託児所で、部下の子どもに悲劇が起こった。部下は弁護士を立てて会社を訴え、勝訴したのだった。

部下の話には耳を傾けるべきだが

裁判所は「上司には、部下に個人的なアドバイスをする資格はない」と判決を下した。この上司は、人事部など適切な従業員サポートの部署に部下をつなぐべきだった。託児所の変更は、部下個人の選択である。

もちろん、部下の話には耳を傾けるべきだし、思いやりは大切だ。部下全員にそれぞれ仕事外の生活があり、みんな困難をやりくりしながら仕事に来ていることは忘れずにいよう。

問題を抱えた部下と率直な話し合いをする際には、事前に方針を決めておくことが大事だ。あくまで目指すところは、業務上の問題の解決である。私的な問題を解決するのは部下自身であることを強調し、支援プログラムにつなぐようにしよう。

部下の話はもちろん親身になって傾聴すべきだが、部下が業務を放置して相談ばかりに時間を費やす状況はまずい。部下が2時間も仕事そっちのけでお茶を飲みつつ個人的な問題をだらだら喋っていても止めないのは、「よい聴き手」ではない。

マネジャーのキャリアの中では、いずれ、考えうるすべての問題を聞くことになるだろう(ときには思いつかないような問題も起こる)。配偶者やパートナー、子ども、親、人、同僚、自分自身、宗教、食事制限、自尊心、その他あらゆる人生の問題を部下たちは経験するものだ。

人のもろさに対応する際には、深刻さに飲み込まれずに自分を保てるよう、「勝手に決めないこと」を基本ルールとしておきたい。あくまで業務上の問題を解決するのであって、部下の私的な問題については支援の部署や窓口を案内するにとどめよう。

態度に難のある部下のマネジメント

駆け出しのマネジャーは、さまざまなタイプの困った部下に出くわすだろう。問題のある態度には、マネジャーとして必ず対処しなければならない。放置するのは、「その態度でかまわない」とメッセージを送っているのと同義だ。

また、他の部下もあなたに不信感を持つ。態度の悪い部下を管理する能力がない、あるいは、そうした態度が気にならないのだと思われてしまう。

部下の態度の問題に対処するには、変えるべき点とその理由を本人に伝えることだ。そして相手の言い分も聞こう。ひょっとして何か理由があっての行動なのかもしれない。

そのうえで、行動を変えると合意させ、変化をどのようにモニタリングしていくかについても話し合っておこう。改善への兆しが見られたら、その都度、本人によい点を伝えるように。

話し合いの前には、問題とされる行動の具体的な事例をいくつも用意しておきたい。本人が何が問題なのか理解できない、あるいは「そんなことはしていない」と否定しかねないためだ。

あくまで前向きに話そう。「仕事で成功してほしいから話しているんだよ」、「態度の問題が改善できれば、仕事がずっとうまくいくはずだ」と相手に伝えよう。

これで改善してくれれば、上司としてもありがたい。懲戒解雇などの人事的な処分になるのは避けたいものだ。他に選択肢がないなら仕方ないが、解雇は最終の選択肢にしておきたい。

ここでは、新任マネジャーが特に手こずる部下のタイプを挙げておく。この他にもいろいろいるので、心構えをしておこう。態度の問題に対処する際には、ここに述べたアドバイスを活用してほしい。


攻撃する人

上司や同僚の意見にいつも反対するタイプ。上司を傷つけ、目標達成に向けたチームの努力をくじこうとする。

おどける人

人を楽しませることが自分の主業務だと考えている人。よく笑う楽しい人が職場にいるのは非常によいことなのだが、度を越すと業務の邪魔になる。

ドロップアウトする人

精神的に、あるいは物理的にチームからはぐれてしまう人。業務貢献がなくなったり、仕事自体をサボったりする。

厄介なタイプにはできる限り素早く介入

手柄を奪う人

他の人の功績を奪って自分の手柄にしてしまい、組織の成功にいかに自分が不可欠であるかを吹聴して回るタイプ。


本業と副業が逆転している人

社内サークルやイベントなど他のことに熱中して、業務が副業状態になる人のこと。

「私の仕事じゃない」と言う人

職務記述書に記載のない仕事は一切やりたがらない人。「ランチに行くついでに人事部に届け物をしてくれる?」という程度の依頼でも、「職務記述書や個人目標にありませんけど」と断るタイプだ。

同情を求める人

「会社に尽力しているのに報われない」と嘆き、周囲に同情してほしがる人。仕事以外に楽しみや生きがいのない人に多い。

文句だらけの人

このタイプはいつも不平をこぼし、何にでも文句を言う。業務量から、同僚、上司、顧客、通勤、勤務日、果ては天気まで、何もかもがとにかく不満なのだ。こういう人のネガティブさは他のメンバーに伝染しやすいので危険だ。

厄介なタイプには他にもいろいろある。マネジャーとしてこうした問題が起こる覚悟を持ち、問題のある行動があれば、できる限り素早く介入していこう。

(ローレン・B・ベルカー : アメリカ大手保険会社役員)
(ジム・マコーミック : コンサルタント)
(ゲイリー・S・トプチック : マネジング・パートナー)