十分な準備をしなかった場合、人生の後半に目の病気や視力障害を引き起こしてしまうかもしれません(写真:C-geo/PIXTA)

日本は世界最長寿の国となり、人生100年時代を迎えています。ところが「目の寿命」ははるかに短く60〜70年ほど。十分な準備をしておかないと人生の後半に目の病気や視力障害で生活に支障をきたしてしまうかもしれません。世界中から治療を求めて患者の絶えない眼科専門医が世界基準の目の守り方を記した『100年視力』から一部抜粋、再構成してお届けします。

急に見えなくなっても慌てないで!

目に何かが当たったり、転んだ拍子に目をぶつけたり、思う以上に身近な出来事で起こるのが網膜剥離です。こうしたアクシデントでの網膜剥離は子どもや若い人に多いですが、アクティブシニアも増え、事故も増えていますから、若い人に限りませんね。

網膜剥離は、スポーツ時やアトピーで目をこするなど目への外傷で起こるほか、糖尿病性網膜症の出血や炎症で起こるのが代表的です。目はむき出しの臓器で、外傷に弱く、また、炎症が原因で膜が張り、引っ張られることでも剥離するわけです。

そして放置すると細胞が死んで失明します。つまり、とても深刻な目の病気です。とはいえ網膜剥離が起こって1カ月以内なら、近代的な硝子体手術で治せます。

見えにくくなったと、慌てて近くの病院でバックリング法や旧式の硝子体手術を受けると、かえって状況を悪くすることがあります。

バックリング法とは、シリコンバンドで眼の中央赤道部をしめつけるものですが、このバックリング法は、網膜についている硝子体線維が残っているため、手術後に激しい運動をすると硝子体線維が動き、網膜の再剥離が起きます。

さらにバックリング用のシリコンバンド移植のために結膜を全周切るので、後に緑内障になっても緑内障濾過手術ができなくなります。

大学病院などの研修病院でバックリング手術をした目よりも、何もせずに放置していた目のほうが、たとえ時間が経過していても、上級者による近代的な硝子体手術で治せることが多いのです。ぜひ慌てずに十分調べ、網膜剥離手術の経験豊富な眼科外科医を見つけて受診しましょう。

網膜の構造はこうなっている

網膜は10層の構造になっています。一番奥の層は網膜色素上皮層といい、その上の9層は神経網膜と呼びます。

この網膜色素上皮層では外から来た光が反射します。そして、すぐ上の網膜視細胞がその光に反応して電気信号を出す光受容部です。細胞層の表面側が電気信号を伝えていく伝達系の細胞層で、視神経へとつながって脳内の外側膝状体に伝わり、さらに後脳へと電気信号を伝えて、前脳が解釈することで、ものが見えるのです。

網膜が正常かは、片目ずつで見てチェックできます。両目で見ているだけだと、片目に起こる異変に気づかないのです。

片目の網膜に穴が開けば、穴からは色素細胞が出てきて、多くの濁りが飛ぶ「飛蚊症」がひどくなります。

さらに網膜剥離になれば、網膜剥離した側と反対の視野が、黒いカーテンが引かれるように見えない場所ができます。水晶体は両凸レンズであり、網膜に映る像は左右上下が反転しているためです。

網膜色素上皮層と神経網膜の癒着は弱く、はがれやすいのです。網膜剥離とは、この網膜色素上皮層と神経網膜の間がはがれた状態と理解してください。

はがれたときにできる穴から神経網膜の下に目の中の水が入り込むことで、裂孔原性網膜剥離が起きます。

外傷による網膜剥離は網膜の最周辺部の端で、のこぎりの形の鋸状縁が破けることが多いのです。ここに外傷の力がかかるのと、薄くて破けやすい場所だからです。

しかし、多くの日本の病院での手術は未だにシリコンバンドを巻くバックリング手術を行っていて、このバックリング法では、シリコンで眼球の中央の赤道部分を締めつけるので、網膜の端である鋸状縁の裂孔を押さえることはできません。いまや、バックリング法は先進国ではほぼ行われなくなっている方法です。

外傷による網膜剥離は、私も参加した医療チームがドイツで完成した近代的な小切開硝子体手術で完全に治せます。

早期発見が大切! 網膜剥離に早く気づいて

男性に多いのですが、網膜剥離になっているのに気づかないで半年以上、放置している人が結構います。女性はお化粧などの際に、片目をつぶって見るため、目の変化に気づく場合が多いのです。

男性は普段両眼で見ているので、片目が網膜剥離になっていても気づかない。1年以上放置していたと思われる網膜剥離で、強い増殖膜変化があることも少なくありません。


聞くと、「何か変だ」と感じてはいたものの、両目で見ていると気づかなかったと言います。このような長期にわたり網膜剥離になっていたケースの網膜は全体に増殖膜が張っています。とくに網膜下増殖膜があると網膜が浮き上がってしまい、単純な網膜復位術では網膜はつきません。ですから網膜に小さな穴をあけて、網膜下の増殖膜を外に引っ張り出さなければなりません。とても難しい手術です。

しかしそのような難しい手術も深作眼科では日常茶飯事。たとえ多くの病院で手の施しようがないと言われても、あきらめないでください。少しでも早ければ治るかもしれないのです。私は、手術に当たっては、悪いところをロジカルに治すことだけを考えます。とはいえ、できるだけ早く気づいて、難しい状態になる前に来ていただきたい。それが何より患者さん自身のためなのです。

そして拙著『100年視力』でも詳しく解説している両眼視野チェック(画像参照)を習慣にして早期発見を心がけてください。


(外部配信先では両眼視野チェックの具体例などを示した画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

(深作 秀春 : 眼科専門医、深作眼科院長)