(写真:Graphs/PIXTA)

ビジネスアイテム購入の決め手は何ですか。唐突に聞こえますが、決め手が「値段」になっている場合、印象面で損をしている可能性があるのです。たとえばジャケットひとつとっても、百貨店からファストファッションまで価格帯はさまざま。

検討の入り口として「予算感が大切である」ことは間違いありませんが、値段が決め手の場合、「購入の目的がズレてしまい、結局クローゼットの肥やし」になってしまう方も多いのです。

のべ5000人を超えるクライアントの買い物に同行してきた経験から、ビジネスアイテムについては「センスより、購入までの思考プロセス」が、印象面に影響を及ぼしているという結論に至りました。

これからの時期、セールから正月の初売りまで、買い物シーズンがやってきます。そこで失敗しない「買い物の視点」について、ビジネスマンの買い物に同行してきた服のコンサルタントがお伝えします。

「決め手=価格」思考が見落としがちな盲点

ビジネス印象において「清潔感」と「TPO」の両立がゴールだということは、多くの人が同意するところ。たとえ清潔感があったとしても、場面にそぐわない格好では、お相手から信頼を得ることはできませんし、TPOが合っていたとしても、清潔感なしではその他大勢に埋もれてしまいます。

だからこそ2つの要素を満たす最適解として「ジャケットを選ぶこと」は間違いありません。にもかかわらず「ジャケット姿が安っぽく見えてしまう」ビジネスマンがいらっしゃるのです。そして、この現象はセンスの問題ではなく「ビジネスカジュアルとオフィスカジュアルの混同が原因だ」と私は考えています。

その背景として「脱スーツの流れが加速している」ことが関係しているのでは。というのもスーツ量販店のみならず、ファストファッションまでさまざまなお店でジャケットを扱っていますが、「ビジネスカジュアルとオフィスカジュアルの明確な違い」は値札に書かれていません。

つまり「購入の決め手=価格」でジャケットを選んだとき、「オフィスカジュアル」用のジャケットを、「ビジネスカジュアル」で合わせてしまうリスクがあるのです。とはいえ両者は同義語のように使われるため、両者の定義が曖昧な方もいらっしゃるはず。そこで今回はその違いを明確化いたします。

ビジネスカジュアルとオフィスカジュアルの違い

企業から服装研修の依頼を受けるとき、打ち合わせの段階で、人事担当の方から「ビジネスカジュアルとオフィスカジュアルの定義を明確にする」というテーマをいただく機会が増えています。


左、オフィスカジュアルの着こなし。右、ビジネスカジュアルの着こなし(写真:筆者撮影)

確かに「スーツ以外のジャケット」という意味では似たように感じる両者ですが、企業によっては、明確に線引きされているもの。内勤メインのオフィスカジュアルに対して、取引先対応のビジネスカジュアル。そして両者の違いを一言で表現したとき、それは「ドレス感の違い」に集約されるのです。

オフィスカジュアルよりもドレス感が強いビジネスカジュアルの着こなしでは、価格で選んだジャケットがカジュアルすぎてしまったとき、安っぽく見みえてしまいます。

結果として、いつまで経っても求めるドレス感が手に入らないため、何度も買い直してしまうかもしれませんし、その違和感を無視したまま、印象面で損し続けるケースもありえるのです。

役職と職種で変わる!ジャケットのドレス感

ジャケットという言葉から、誰もがイメージするものは開襟の上着というカタチかもしれません。ところが裏地のつくりによって、肩の印象も変わります。

ドレス感という言葉は、本連載をチェックされている読者の方には馴染みがある言葉ですが、「ジャケットのきちんと具合」の指標です。ビジネスカジュアルで求められるジャケットには「オフィスカジュアル以上、スーツ未満のドレス感」が求められるもの。

そしてドレス感がないカジュアルなジャケットは、そもそも取引先に会う印象を備えていないのです。一般的な視点として「開襟の上着」というデザインや、黒・紺・グレーの色合いを鵜呑みにしてジャケットを判断しがち。これこそ「購入の決め手=価格」の盲点です。

実際のドレス感を見渡す限り、「肩パッドの厚み」や「アームホールのつくり」など、値札で判断できないポイントが印象を左右しています。だからこそドレス感の視点を養い、自分自身で気づくしかないのです。

顔まわりに近いジャケットは、全身の印象を左右します。だからこそビジネスシーンにおいては、基本的戦略としてドレスジャケットを選んでください。そして過去の記事でAMFステッチについても触れましたが、今回は「襟のロール」に注目します。

「総毛芯(そうけじん)」という言葉をご存じでしょうか。


総毛芯のビジネスカジュアルジャケット(写真:筆者撮影)

表地と裏地の襟の間に、馬や羊の毛をあしらったジャケットを言います。一方、カジュアル見えしやすいジャケットは接着芯と呼ばれ、表地と裏地を接着剤でくっつけたもの。当然ながら襟のロールが立体的に映るドレスジャケットは、高級感ある質感で、総毛芯のものが多いのです。


接着芯のオフィスカジュアルジャケット(写真:筆者撮影)

また半毛芯(はんけじん)のジャケットもあります。判断は難しいかもしれませんが、ジャケットを選ぶ際に「襟ロールの立体感」に着目してみましょう。

たったこれだけのことですが、ドレス感あるジャケットに行き着くはず。もしわからない場合は、店員さんに直接「芯地」について確認してみることもひとつの手段です。

セールや初売り時期だからこそ大事なこと


紺ジャケットの表地と裏地の間にベージュのウールの毛芯が挟まっている(写真:筆者撮影)

とはいえ「安いジャケットがNG」というわけでもありません。大事なポイントは求められる立場によって、「ジャケットのドレス感を変える」こと。

カジュアルな職場ならば、オフィスカジュアルで問題ありませんが、立場によってはビジネスカジュアル領域のジャケットを選びましょう。

価格やサイズ感・色合いのみならず、襟のロールを意識することで、ご自身にふさわしいジャケット&パンツのドレス感を見極めましょう。

冬物セールや正月の初売り時期だからこそ、購入決定に至る思考プロセスを見直してみてください。普段は手を出さない価格帯のジャケット試着をおすすめします。購入に至らずとも、ドレス感の概念を体感するチャンスですから。

(森井 良行 : ビジネスマンのためのスタイリスト)