婚姻力・出生力ランキングから見えてくる、「異次元の少子化対策」に必要な視点を紹介します(写真:pearlinheart/PIXTA)

今年の年初に政府が掲げた「異次元の少子化対策」ですが、もう間もなく1年になるというのにパッとしません。

出てくる内容は、少子化対策というより、子育て支援一辺倒であり、その子育て支援ですら子育て世帯にとっては児童手当の拡充があったところで、むしろ引かれる金額のほうが多く、マイナスになるという試算も出ています。

まったく少子化対策になっていないどころか、子育て支援にさえなっておらず、これでは「異次元の少子化対策」ではなく「異次元の少子化促進策」と揶揄されても仕方ないでしょう。

今起きているのは「少子化ではなく少母化」

何度もお伝えしているとおり、今日本で起きているのは「少子化ではなく少母化」であり、子どもを産む対象の女性の絶対人口の減少とともに、婚姻減による有配偶女性の減少(つまり、母親になる対象の人口の減少)によって生じています(参照:『少子化議論なぜか欠ける「婚姻減・少母化」の視点』)。

それは、つまりは、婚姻数の減少によるものであり、婚外子比率が極端に低い日本においては、婚姻数が増えなければ子どもの数は絶対に増えません。

だからこそ、少子化対策というならば、本来は若者の結婚に向けての環境整備をすることが大事になります。わかりやすくいえば、それは若者の雇用と所得の安定です。が、そうした対策は1つも出てきません。

また、対策というからには実効性が求められます。しかし、そもそも東京などの大都市と地方とでは課題自体が違うのに、それを全国一律でとらえることに無理があります。

誤解のないようにお伝えしておくと、子育て支援を否定しませんし、それはそれとしてやるべきことですが、都道府県単位でみれば、出生の多いところと少ないところがあるように、子育て支援が充実しているエリアとそうでないエリアの格差も存在します。

同様に、結婚の多いエリアと少ないエリアという結婚格差も存在します。当たり前ですが、都道府県ごとに注力すべき課題は異なるのです。

都道府県ごとに課題は異なる

今回は、都道府県別の実態に即した15〜49歳での婚姻率と出生率という指標を使って、それぞれどこに課題があるのかを明らかにしていきたいと思います。

まず、一般に婚姻率といわれているものは、婚姻数を全人口で割ったものですが、これは全人口であるため高齢者が多いエリアは低くなってしまい、実態とは乖離しがちです。よって、新たな婚姻が発生しないだろうという生涯未婚率の考えに基づき、15〜49歳の人口を分母とした婚姻率で比較します。

また、出生率に関しても、よく使われる合計特殊出生率は適当ではありません。15〜49歳の全女性を分母とした合計特殊出生率では、未婚人口の多いエリアほど低くなりがちで、これも実態を正確に示さないので、15〜49歳の有配偶女性だけを分母として計算し直したものを使用します。

両方とも2020年のデータを元にし、婚姻率も出生率も同次元で比較するために両者とも全国平均比で見ます。

それらの都道府県ランキングを示したのが以下の表になります。



婚姻率高いのは大都市圏、有配偶出生率高いのは西日本

婚姻率の1位は沖縄、2位は東京、3位は大阪ですが、7位愛知、9位福岡と上位ベスト10に大都市が4つも入ります。最下位は秋田です。

一方、有配偶出生率は、1位沖縄、2位鹿児島、3位熊本と、九州沖縄勢がベスト3を独占、ベスト10の中の8つを占めます。こちらも最下位は秋田です。

婚姻率が高いのは大都市圏で、有配偶出生率が高いのは西日本という形でもありますが、これらそれぞれのランキングから、次の4象限に分けることができます。

A群:婚姻も出生も全国平均よりプラス
B群:婚姻はプラスだが出生がマイナス
C群:出生はプラスだが婚姻がマイナス
D群:婚姻も出生も全国平均よりマイナス

これらをマップ上で色分けすると一目瞭然です。


「婚姻も出生もプラス」というA群は、九州沖縄を中心とする西日本と東京、大阪の15都府県。対して、「婚姻も出生もマイナス」というD群は、東北、関東から中部北陸を含めた東日本で占められ、19県です。

一方、「婚姻はプラスだが出生がマイナス」というB群は北海道、愛知、香川の3道県のみ。「出生はプラスだが婚姻がマイナス」というC群は、滋賀、京都、兵庫など10府県となります。

これをさらにまとめると、婚姻が足りないエリアが29で、出生が足りないのは22となります。

もちろん、今回の数字はあくまで全国平均比によるものなので、絶対数としては結婚も出産も年々減少してはいますが、2020年単年で見た場合に、単に「結婚はしているのに子どもが産めないのか」「そもそも結婚ができていないから子どもが生まれないのか」という本質的な課題が見えてきます。

人口規模の大きいエリアでの出生数改善が重要

さらに、もう1つ視点として加えるべきは、単純に都道府県の数で見ても意味はないということです。たとえば、東京で生まれる子どもの数は人口最下位の鳥取で生まれる子どもの35倍もあります。絶対人口が違うのだから当然なのですが、合計特殊出生率だけで都道府県比較をしてしまうと、そもそもの人口の差を忘れがちです。

わかりやすく単純化していうと、鳥取の人口で、合計特殊出生率を0.1あげようとすれば年間プラス250人程度の出生数で達成できますが、東京であれば、約8900人のプラスが必要になります。

小さい村で生まれてきた貴重な新しい命を言祝ぐのは大切ですが、国全体のマクロの視点で出生増という少子化対策を考えるうえでは、人口規模の大きいエリアで、出生数が改善されない限り難しいのです。

前述の4象限に分けた内容を、2020〜2022年の各都道府県の出生数実績とかけあわせた散布図が以下になります。バブルの大きさが出生数を示します。


こうしてみると、都道府県別に注力すべきポイントがより明確になると思います。

東京、大阪、愛知、福岡などの大都市は、婚姻力は決して低くはないわけです。ただし、その中で愛知だけは出生力がマイナスのB群に入ります。東京はかろうじてA群内ですが、出生力のプラスはわずかで、ほぼ全国平均並みです。

要するに、大都市のうち、大阪や福岡に比べて、東京と愛知は、婚姻数のわりに出生数が低いことがわかります。ということは、このB群にあたる愛知、北海道、香川と東京は、結婚した夫婦に対する支援の強化が望まれるということになります。

反対に、C群は、出生力はあるのに婚姻力がないことが課題です。結婚した夫婦はそれなりに産む環境や志向があるにもかかわらず、そもそも婚姻が成立しないことで子どもが生まれていないのです。よってC群に求められるのは、子育て支援よりも結婚促進が必要になるわけです。

婚活促進すればいいという単純な話しでもない

問題は、結婚力も出生力もマイナスのD群ですが、東北や北関東地方はすべてここに含まれます。ここに求められるのもC群同様子育て支援ではなく結婚の促進です。子が生まれる前提の婚姻が成立していないのですから。

とはいえ、官製婚活などをすればいいと考えるのは短絡的です。もちろん、そうした出会いがないという理由もありますが、東北や北関東の問題はそれ以前に、地元に魅力的な就職先がなく、東京などへ人口が流出してしまっている影響が大だからです。

つまり、D群において最優先すべきは、若者の雇用や経済環境の改善であり、それがなければそもそも結婚も出生も発生しません(参照:『「不本意未婚」結婚したいのにできない若者の真実』)。

とくに、より深刻だと思うのは、この中に首都圏の埼玉、千葉、神奈川という人口の多い県が固まっていることです。東京の周辺にありながら、東京より明らかに婚姻力が低い。

その要因は、同じ首都圏にありながら、東京の大企業に勤める若者と比べれば、周辺3県の若者の所得が低いという事実は無視できません。なまじ東京圏で生活しているだけに、東京基準で相対評価されがちな部分もあります。こうした人口の多いところでの減少は全国的に影響も大きくなります。

男性に関していえば、収入の多寡と未婚率は強い負の相関があります。言い換えれば、男性は年収の高い方から順番に結婚していくわけです。

実際、東京の中でさえ、港区、千代田区、中央区など所得の高い区だけは出生数を伸ばしていますが、足立区、葛飾区、江戸川区といったかつて出生力の高かった下町エリアは減少が激しい。少なくとも、首都圏における婚姻力の差は若者の経済力の問題と無関係ではないでしょう(参照:『所得が多いほど「出生数増」日本が直視すべき現実』)。

最後に、A群ですが、ここも安泰というわけではありません。あくまで2020年の中では平均より高いだけであって、A群もすべて年々婚姻数も出生数も減少しています。A群の出生率が高い要因は、20代前半での婚姻率の高さと比例します。

早くに結婚できていたからこそ、多子出産になるのです。しかし、今や高卒での婚姻率が激減しています。それもまた、高卒就業者の低所得の問題と関連します。やがてA群も経済問題によりB〜Dへと移行する可能性があります。

1婚姻当たり1.55人が生まれている

私が独自に指標化した「発生結婚出生数」というものがありますが、これは、前年の婚姻数に対して、翌年の出生数は大体同じ比率で生まれてくるという法則に基づきます。それによれば、1婚姻当たり1.55人が生まれてきます。この数字は1990年代から不変です。

つまり、婚姻が1つ減ればそれだけ翌年1.55人の出生が失われていくことを意味します。少子化対策とは、婚姻の増加または増加しないまでも維持にかかわっているのです。そしてそれは若者の所得の問題と同一です。

ピーター・ドラッカーの名言に次のようなものがあります。

「重要なことは、正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど役に立たないものはない」

いい加減、問いの間違いに気付いてほしいものです。


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(荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト)