沖縄の海を一望できる絶好の立地に立つハレクラニ沖縄。沖縄屈指のリゾートホテルとなっている(写真:ハレクラニ沖縄)

富裕層インバウンドの増加を見据え、外資系高級ホテルの開業ラッシュを迎えている。今後5年で開業する高級ホテルの8割が外資系という驚きのデータもある。出店で劣後する中、国内系ホテルに巻き返し策はあるのか。

総支配人は、各ホテルの宿泊部門から朝食など食事までホテルのすべてを取り仕切る「顔」ともいえる存在だ。激変するホテル業界をどのように見つめているのだろうか。4人の名物総支配人を直撃する。

【過去の連載】
12月2日配信:パレスホテルに10年住む総支配人の「改装秘話」
12月9日配信:歌舞伎町で1泊10万円「高級ホテル」は成立するか?

今回は2019年に開業したハレクラニ沖縄の吉江潤総支配人だ。100年以上の歴史を持つハワイの名門ホテル・ハレクラ二は、1981年に三井不動産が取得した。

その2号店として2019年に開業したのが、ハレクラ二沖縄だ。リゾートホテルが立ち並ぶ恩納村の海岸線という抜群の立地に位置する。コロナ禍を除けば開業以降、快進撃が続いている。360ある客室(ヴィラを含む)の稼働率は8割程度、客室単価は9万円だ。

吉江氏は、ハレクラニ沖縄以外にもパークハイアット東京やザ・リッツ・カールトン東京など多くの有名ホテルの開業に携わってきた。業界からは「開業のプロ」とも呼ばれている。

これまで外資を渡り歩いてきた吉江氏だが、集大成に選んだホテルは三井不動産グループのハレクラニ沖縄だった。「開業のプロ」はなぜ最後に国内系ホテルを選んだのか、沖縄のホテルの強みはどこにあるのか聞いた。

ピークがずっと続いている

――オープン直後、コロナ禍に見舞われました。ホテルの運営に影響は?

2019年7月に開業し、半年後にコロナの影響が本格化した。第1波はさすがに見通しが立たず、約1カ月(2020年4月から5月まで)は休業した。しかし第2波以降は、コロナ前に来ていた方や、ハワイのハレクラニを定宿にしていた方の宿泊があり、2〜3割程度の稼働があった。

行動制限が解除された2022年3月からは、ピークがずっと続いている。本来、沖縄は7〜9月がピークだが、1年半くらいはほぼ繁閑差がない。稼働率は8割前後で、足元の平均客室単価は9万円くらい、年間でも7万〜8万円程度となっている。

宿泊客はカップルやファミリー層などさまざま。東京や京都と比べるとインバウンド客はまだ少なく1割台となっている。

今までは沖縄との直行便がある香港、台湾、韓国などが中心だったが、今年は欧米の宿泊客も増えている。東京から京都・大阪を旅行して帰国する「ゴールデンルート」が訪日旅行の主体だったが、沖縄にも来てくれるようになっているのだろう。


294平米と広々としたスイートは客室からオーシャンビューを望めるほか、プライベートプールなども兼ね備えている(写真:ハレクラニ沖縄)

――沖縄はハワイなどの代替観光地として注目を集めています。

確かに沖縄とハワイは似ているところがたくさんある。独立した島で独自の魅力的な文化がある。しかし常夏のハワイと比べると、沖縄は四季があり海には半年しか入れない。冬場でもお客様が来ているのは、文化や自然などを魅力に感じてくれているからだと思う。

沖縄はすごいポテンシャルがある

沖縄は観光地として、すごいポテンシャルがあると思っている。国内客にとって沖縄は短時間で来ることができ、パスポートも必要ない。これまでハワイやグアム、バリなどに行っていた人が気軽に来られる。

最近はアジア圏だけではなく、欧米のインバウンドも増えている。まずは彼らに沖縄というディスティネーション(旅行の目的地)を知ってもらっているところだ。

課題は、ラグジュアリー旅行者を受け入れる環境が整っていないことだ。ホテルだけではなく、自治体を含めて2次交通(ホテルや空港から観光地までの交通手段)などを改善していく必要がある。

――外資系を渡り歩いて、三井不動産のハレクラ二沖縄の総支配人に就任しました。

新卒でプリンスホテルに入社し、パークハイアット東京、グランドハイアット東京、マンダリンオリエンタル東京、ザ・リッツ・カールトン東京、ザ・リッツ・カールトン沖縄を経て、ハレクラ二沖縄の総支配人に就任した。

マンダリンオリエンタル東京とザ・リッツ・カールトン東京の不動産オーナーは三井不動産だった。私は三井不動産に対して行われる月次報告会に営業担当として出席していた。

このホテルは私の集大成だと思っている


よしえ・じゅん/1983年上智大学卒業、プリンスホテル入社、その後、パークハイアット東京やマンダリンオリエンタル東京などで営業畑を歩む。2011年にザ・リッツ・カールトン沖縄の総支配人に就任、2017年からハレクラニ沖縄の総支配人に就任。業界では「開業のプロ」と呼ばれている(写真:ハレクラニ沖縄)

営業畑なのでいろいろな方と仕事をしてきたが、三井不動産のマンダリンオリエンタル東京の担当者は紳士的でいい人だった。

たまたま担当の人がよい人なのかな、と思ったが、次のザ・リッツ・カールトン東京の担当者もまたよい人だった。「人の三井」と言われるように、(取引先を含めて)人を大事にする会社だと思った。

通常、ホテルのオーナーとオペレーターの関係性は、オーナーが指示を与え、オペレーターが従うというもの。だが三井不動産はわれわれのことを尊重し、われわれも三井不動産をリスペクトしており、対話が成り立っている。三井不動産は世界中で最もよいオーナーだと思う。

将来、三井不動産の事業に関われたらいいなと思っていた。ザ・リッツ・カールトン沖縄で働いていたときに、すぐ近くに三井不動産の直営ホテルができると聞いた。これは運命的な出会いだと感じ、総支配人に就任した。このホテルは私の集大成だと思っている。

――これまでも多くのホテル開業に携わってきました。今回の開業において大切にしたことがあれば教えてください。

これまで開業に携わってきたハイアットやマリオットなどの外資系ホテルは、大手ホテルグループのブランドですでに会社ごとに文化や仕組みが出来上がっている。新規開業にあたって、それらを準備していけばホテルは出来上がる。

しかし、ハレクラニ沖縄はそうではない。ハワイのハレクラニが大事にしている「オハナスピリット」(オハナはハワイ語で広義の「家族」の意味)以外はすべてゼロから作った。今回のプロジェクトは1日目からホテルの運営チームと三井不動産がともに築き上げてきた。

数を増やすのではなく場所にこだわり

私には目標としているホテル像がある。それは「人で差別化できるホテル」だ。ハレクラニブランドを求めて、たくさんの方に来てもらっているが、リピーターになってもらえるかどうかは接したスタッフによって変わる。ホテルの魅力はやはり、目の前のお客様に喜んでもらうこと。そのやりがいを感じてもらうホテルを作りたかった。

従業員がハッピーでないと、宿泊客もハッピーになれない。開業において大事にしていることは「思いやり」だ。社外やお客様はもちろん、部下やオーナーに対しても信頼関係が大事だと思っている。

――ラグジュアリーブランドの「アマン」は出店を拡大しています。「ハレクラ二」の成長戦略を教えてください。

私が決めることではないが可能性としてはあると思う。ただ大手グローバルチェーンのように数を増やせばいいということではない。三井不動産にとって「ここだったらハレクラニを出店できる」というくらい、場所にこだわりを持っていると思う。

(星出 遼平 : 東洋経済 記者)