名医が教える「余命わずか」で後悔しない4か条
自分に責任がないことまで自分のせいだと思い込み、自分自身や自分の人生を否定する患者さんは多いといいます(写真:pearlinheart/PIXTA)
自分に責任がないことまで、自分のせいだと思い込み、自分を責め、否定してしまう人がいます。「自分が悪かったから」「他人に迷惑をかけたくない」そう考えてしまうことは止められませんが、それでは一度きりの人生を後悔なく過ごすことはできません。4000人以上を看取り、死の淵にいる人々を支えてきたホスピス医である小澤竹俊さんの『自分を否定しない習慣』から、一部抜粋、編集し、自分を否定せずに穏やかに生きる方法を紹介します。
よく耳にする「迷惑をかけたくない」という言葉
看取りの現場で、私がいつも感じるのは、最初のうち、自分自身や自分の人生を否定される患者さんが非常に多いということです。
中でもよく耳にするのが、「迷惑をかけたくない」という言葉です。
かつて、一生懸命家族を守り、支えてきた人でも、会社や社会のために必死で働いてきた人でも、年齢を重ねたり病気になったりして体の自由がきかなくなり、一人でトイレに行くことさえままならなくなると、何もできなくなってしまったこと、他者や社会の役に立たなくなったことに絶望します。
そして、自分を「家族や周りの人に迷惑をかけるだけの存在だ」「何の価値もない人間だ」と責めるようになり、「さっさと死にたい」「自分なんか生きていても仕方がない」、さらには「これまでの人生は何だったのか」「自分の人生には意味がなかった」と嘆くのです。
そんな患者さんの言葉を聞くたびに、私は胸が締めつけられます。
自分の死を願うこと。
自分の存在をいとうこと。
自分の人生に価値がないと感じること。
これほどつらい自己否定はありません。
「自分は、他人に迷惑をかけるだけの存在だ」と考えてしまう人には、責任感の強い人、真面目な人、優しい人が多いように感じます。
その責任感、真面目さ、優しさが、自分を否定するという感情につながってしまうのは、とても悲しいことです。
ただ、「他人に迷惑をかけたくない」という思いから自分を否定してしまうのは、人生最後のときを間近に控えた患者さんだけではありません。
若い人、健康な人であっても、「他人に迷惑をかけたくない」という気持ちから、迷惑をかけてしまっている自分を肯定できずにいる人、「自分なんていないほうがいい」と思ってしまっている人が、たくさんいるのではないでしょうか。
「自分は生きていても仕方がない」と書く小学生
私は2000年から、私がホスピスの現場で学んだことを、今を生きる子どもたちに伝える「いのちの授業」を、各地の学校で行っていますが、そこで出会う子どもたちから、
「親の機嫌がいつも悪いのは、自分が悪い子だからだ」
「自分が無力だから、友だちの悩みを解決してあげることができない」
といった苦しみの声を聞くことがしばしばあります。
親御さんの機嫌がいつも悪いのも、友だちの悩みを解決できないのも、決してその子のせいではないのですが、それを自分のせいだと思い込み、自分自身を否定してしまっているのです。
中には、「自分は生きていても仕方がない」とまで感想文に書く小学生もいます。
自分のせいではないことまで自分のせいだと思い込んでしまい、自分を肯定できず、「生きていていい」という気持ちを持つことができない。
そんな苦しみを抱えている人は、子どもでも大人でもたくさんいます。
もしかしたら、みなさんの中には、大きな苦しみを抱え、自分を否定する気持ちが強く、「今の自分のあり方を肯定することなど不可能だ」と思う人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、どれほど深い苦しみの中にあり、自分を否定する気持ちが強くても、人には必ず、そこから立ち直り、前を向いて歩き出せる力があると私は信じています。
たとえば、膵臓がんで余命わずかと宣告された、70代の男性の患者さんは、最初のうち、「周りに迷惑をかけたくない」「早く逝きたい」と口癖のように言っていました。
若いころ、登山が好きだった彼は、車椅子での生活を余儀なくされ、ほかの人の助けがなければトイレにも行けなくなってしまった自分自身に対し「恥ずかしい」という気持ちすら抱き、苦しんでいたのです。
ところが、在宅チームのスタッフと関わり、自分の人生を振り返るうちに、彼は、自分が多くの人に支えられて生きてきたこと、今も家族をはじめ、大切な人たちに支えられていること、彼自身がそうした人たちの支えになっていること、これまで自分が果たしてきた役割に気づきました。
そして、自尊感情(自分を大切だと思える感情)や自己肯定感を取り戻し、今の自分を受け入れ、穏やかな表情で日々を過ごすようになったのです。
自分自身を肯定するために必要な4つのこと
人生最後のときを間近に控えた患者さんと日々接していて思うのは、どれほど名誉や地位、財産があっても、それらは心からの笑顔をもたらしてはくれないということです。
自分を支えてくれている、本当に大切な存在に気づくこと。
自分自身や自分の人生、自分がやってきたことを肯定すること。
自分が人生を通して学んだことを、次の世代に伝えたいと思うこと。
そうしたことができて初めて、人は本当の意味で幸せを手に入れ、穏やかにこの世を去っていくことができるのです。
では、どうすれば、自分自身を消してしまいたいほどのつらい気持ちや苦しみの中で、自分自身を肯定し、穏やかさや、前を向いて生きる力を得られるようになるのか。
私は、そのためには、次の4つのポイントが必要だと思っています。
1.弱い自分を認め、自分を支えてくれている存在に気づくこと
2.自分をわかってくれる存在に気づくこと
3.変えられるものと変えられないものを見極め、変えられないものを無理に変えようとしないこと
4.変えられるものを変えようと、一日一日を頑張って生きること
いのちが限られた人でも、健康に生きている人でも、自分を否定する気持ちにとらわれることはあるでしょう。
しかし、もがき苦しみながらも、自分の弱さを認め、自分を支えてくれている大事な存在に気づき、自分をわかってくれる人と支え合い、自分の力で変えられるものと変えられないものを見極め、変えられるものについては少しでも変えようと、一日一日を頑張って生きる。
その中で、自分がかけがえのない存在であることに気づき、「Good Enough」(それで良い)と今の自分自身を肯定することができれば、人は必ず穏やかな気持ちを手に入れ、本当の意味で幸せになることができます。
自分を否定する気持ちを手放すことは、その第一歩なのです。
また、自分の気持ちを否定しないことも大事です。
たとえばあなたは、「つらい」「しんどい」という気持ちや、他者に対する嫌悪感、憎しみなどの気持ちがわきあがってきたとき、「そんなことを考える自分はダメだ」と考え、気持ちを押し殺したりしていませんか?
私たちは患者さんの話を聴くとき、「反復」と「沈黙」を大事にし、ゆっくりと時間をかけるようにしています。
たとえば、患者さんがスタッフに「昨日、トイレに間に合わず、恥ずかしい思いをしました」と言ったとします。
そのとき、「歳をとれば、みんなそうなりますよ」などと答えるのはもちろん問題ですが、「少しくらい漏れたとしても、尿漏れパットがあるので、気にしなくて大丈夫ですよ」などと答えるのも、実は好ましくありません。
良かれと思って発した言葉でも、患者さんは「自分の気持ちが否定された」と感じるからです。
自分が感じたことを否定しない
ここで大事なのは、あくまでも「昨日、トイレに間に合わず、恥ずかしい思いをしました」という患者さんの言葉をそのまま受け止めることです。
ですから、私たちは、「昨日、トイレに間に合わず、恥ずかしい思いをしました」と言われたら、「昨日、恥ずかしい思いをされたのですね」と患者さんの言葉のうち、重要なキーワードを反復します。
その後、患者さんが口を開くまで、こちらからは話しかけずに沈黙し、「今までは、トイレに間に合わないことなんてなかったのです」と言われたら、「今までは、間に合わないことはなかったのですね」と反復します。
相手の言葉をそのまま受け止め、反復と沈黙を繰り返す。
非常に難しいことではありますが、そうすることで患者さんは、私たちのことを「自分の気持ちをわかってくれている」と感じ、少しずつ気持ちを話してくださるようになります。
そしてこれは、自分自身の気持ちに対しても同じだと言えるでしょう。
今後は、自分が感じたこと、思ったこと、言いたいことを、できるだけ否定しないであげてください。
「そうか、私はこう感じたんだね」「私はこう思ったんだね」「私はこれが言いたいんだね」と、そのまま受け止めてあげてください。
自分自身が感じたことを尊重していく。
それも自分自身を肯定することにつながっていくのではないかと、私は思います。
私たちは誰もが、いつか必ずこの世を去ります。
そのとき、自分自身に対して「お疲れ様でした」と思えるように、本当の自分らしさを見つけ、自分自身を愛し肯定し、後悔のないよう前を向いて、今日という一日を生きていきたいものです。
(小澤 竹俊 : 医師)