気負わずに部下を褒められるようになると、信頼関係によい効果がもたらされます(写真:Lukas / PIXTA)

ローレン・B・ベルカー氏らの著書『マネジャーの全仕事 いつの時代も変わらない「人の上に立つ人」の常識』は、40年にわたってアメリカで読み継がれてきた「マネジメントの古典」。このほど最新の内容を踏まえ翻訳刊行された第7版から一部を抜粋、編集のうえ、部下を褒め、よい評価を伝えることの重要性についてお伝えします。

褒めるのは「一瞬でできる」

モチベーションを高め、良い職場環境を作るには、褒めるのは非常に有効な方法だ。自分の部下を褒めない管理職は多いが、これは大間違いだ。

褒められた部下は、「上司は自分の仕事を気にかけてくれているんだ」と感じられるし、「自分が取り組んでいる仕事は大事なことだ」と認識できる。やろうと思えば、褒めるのは一瞬でできるし、何のコストも必要ないが、部下には大きな影響があるのだ。

褒めるのは、対面はもちろん、電話でもメールでもショートメッセージでも可能だ。評価を伝える際には常に対面がベストではあるが、遠隔地勤務や時差などで適宜連絡の取れない部下には、電話やメールなどで褒めるようにしよう。

携帯電話にメッセージを送る利点は、ほぼ即座に届くことだ。受信したメッセージをすぐ開きたい気持ちに抗える人は少ない。

褒めない上司の中には、「自分が褒められた経験がないから」という人がいるが、それならば、この負の連鎖に自分が終止符を打てばいい。

「給料をもらっているのだから仕事はうまくできて当然だ。褒める必要などない」という人もいるが、あまり賢い理屈ではない。褒めたら、さらによい仕事をするかもしれない、と考えてみるべきだ。費用はゼロ、時間もほんの少しでいいのに、褒めない理由はないだろう。

リーダーとしてやるべきことは、部下の持つ能力をフルに発揮できるよう、モチベーションを高めることだが、ふさわしいときに適切なやり方で部下を褒めるのは、モチベーションを引き出すひとつの方法である。

褒める効果と注意点


褒めるのが苦手な人もいる。新任のマネジャーに特に多いのだが、新しいスキルなのだから、最初は戸惑うのも当然だろう。

気負わずに人を褒められるようになるには、とにかくやってみるしかない。やっているうちに簡単になるものだ。人を褒めたり、よい仕事を評価する際には、以下の点に気をつけよう。

具体的に褒める

特定の行動をまたやってほしい場合には、フィードバックの際に、その行動を具体的に伝えることが重要だ。より詳細に伝えれば、それだけ同じ姿勢や行動を繰り返してくれるようになる。

「先週よかったよ」と言うだけではなく、「先週は、あの難しい状況で本当にうまく交渉できたし、判断もよかったよね」と伝えるようにしよう。

影響を伝えよう

たいていの人は、自分の仕事が部門や組織の目標に貢献した度合いや、事業の全体像の中で自分の果たした意義などを知りたいものだ。こうした影響があった場合には、部下の業務のおかげで部署外にもよい効果が出たことを伝えておこう。

褒めすぎてもいけない

むやみに褒めてばかりいると、発言のインパクトが薄まり、部下に不信感さえ持たれてしまう。「この上司に褒められても価値がない」と思われないためにも、褒める価値があるか、内容が見当違いでないかには気をつけておこう。

よい仕事を褒めて評価する際は、2つのステップで行おう。まず、賞賛に値する行動、態度、業績を具体的に伝える。たとえば、「製品カタログの表紙のデザイン、とてもいい仕上がりでしたね」というように。

そのうえで、なぜその仕事が評価に値するのか、仕事の影響や貢献について話そう。「新しいデザインのおかげで確実に売上が伸びそうです」などと伝えるわけだ。

適切に褒めることの効果について、話をしておこう。あるマネジメント研修で、30人の参加者に、以下の2つの質問をした。

1 これまで経験してきた中で、最もよかったマネジメントの事例を挙げてください。

2 逆に、経験上、最悪だったマネジメントの事例は?

ほとんどの回答が、自分なりによい仕事ができたときに受けた評価(反発したものも含めて)に関連していた。それは当然のことだろうが、そこには驚くほど強い感情が伴っていた。

仕事をする上で重要なのは「給与」ではなく…

鮮烈に印象に残った例を挙げよう。ある若い男性が話してくれたのは、重大な修理のために、80キロ以上トラックを運転して郊外の施設に行く依頼を受けた際のことだった。

午後10時半にやっと帰宅すると、電話が鳴った。上司からだった。

「無事に帰れたかを確認したくて。天候が悪かったから」

修理業務については何も訊ねなかったのだが、これは部下の技術に全幅の信頼をおいていたからだろう。ただ無事に帰宅できたかを確認したのだった。


これは5年以上も前の出来事だったが、若い技術者はつい最近のことのように鮮明に記憶していた。

アメリカの大手企業が従業員を対象に行った調査に、「仕事をするうえで何が重要か」を順位付けさせる設問があった。「給与」は6位であり、2位以下に大差をつけて1位となったのは「自分の仕事が評価されること」であった。

あなたが上司に感謝してほしいと思うならば、部下も同じことをあなたに求めている。褒めるときには、出し惜しみしないこと。コスト負担はまったく発生しないし、金銭よりずっと価値があるのだから。

(ローレン・B・ベルカー : アメリカ大手保険会社役員)
(ジム・マコーミック : コンサルタント)
(ゲイリー・S・トプチック : マネジング・パートナー)