言葉の達人が伝授「伝わるコピー」超実践的考え方
プロジェクト運営に欠かせない「言葉の設計図」とは(写真:kai/PIXTA)
仕事をしていると、文章を書く能力がいかに大切かを痛感するもの。しかし、「伝わる文章」や「心を動かす文章」を書くのは、そう簡単なことではありません。では、プロはどんな思考法や、テクニックを使っているのでしょうか?
ショートショート作家として知られる田丸雅智さんが、谷川俊太郎さんや又吉直樹さん、俵万智さんなど各業界の「言葉のプロ」と対談する新著『言語表現の名手20人から学ぶ ことばの魔法』より一部抜粋・再構成してお届けします。
今回の対談相手:倉成英俊(くらなり・ひでとし)/プロジェクトディレクター
1975年佐賀県生まれ。電通入社、クリエーティブ局に配属後、多数の広告を企画。その後、広告スキルを超拡大応用し、APEC JAPANや東京モーターショー、IMF世界銀行年次総会2012日本開催、有田焼創業400年事業など、さまざまなプロジェクトをプロデュースする。2014年「電通Bチーム」を組織した後、Creative Project Baseを起業。
「どう言うか」の前に、「なにを言うか」
田丸:倉成さんの社会人としてのキャリアのスタートは、コピーライターだったんですよね。まずはコピーってどのように言葉を紡いでいくものなのか、ということからお聞きしてもいいですか?
倉成:王道としてはまず、商品のいいところを探しますね。たとえば、このラジオ番組のコピーを考えるとしたら、リスナーにとってどうおもしろいのかを挙げていくんです。パーソナリティがショートショート作家だからこんな特徴があるよとか、ゲストはこんな人たちだから言葉が好きな人にとってはタメになるよとか。
田丸:いきなり言葉を考えるのではなく、まず切り口から?
倉成:はい。「なにを言うか」を決めてから、「どう言うか」を考えます。
田丸:ここからがまた長い道のりですか?
倉成:そうですね。最初からコピーが一つに絞られることってないんですよ。若いときは、打ち合わせに行くたびに100本のキャッチコピーを持っていっていましたから。
田丸:わー、噂には聞きますが、本当に100本も書くんですね……。
倉成:量が質を生むというか、たくさん書くことで意外な切り口を見つけられますから。筋トレみたいなものです。経験を重ねていくと、数を書かなくても的がわかってくるようにはなりますけどね。
田丸:だいたい何年くらいで感覚がつかめてきます?
倉成:5年くらいかなぁ。5年くらいは毎週300本、書いていましたよ(笑)。
田丸:すごい! 一行のコピーの裏側には、そういった積み重ねがあるんですねぇ。
倉成:ただね、これまでのコピーライター人生で、たった一本だけコピーを提案して、それが採用されたこともあります。
田丸:えーー!
倉成:2003年のポカリスエットの広告コピーに採用された「青いままでいこう。」。
田丸:そのコピー、覚えています。
倉成:これ実は、僕が新人1年目のときに宣伝会議賞に応募したコピーだったんです。たまたまポカリスエットのお題があって。そのときすでに「青いままでいこう」のコピーを書いていた。でも1次審査で落ちて、日の目は見なかったんです。それで3年目のときに社内の打ち合わせに、このコピーを持っていったら、当時のクリエイティブディレクターが「これがいいんじゃない?」って提案してくれて。一発で通りました。
田丸:すごいエピソードです。
倉成:あとはもう、これしかないっていう場合もありますね。コンドームのオカモトが新商品を開発して、ネーミングを依頼されたんです。使用すると温度が変わるという、ちょっとマニアックな商品でした。あるとき、コンドームをローマ字にして最初の「C」をとったら、「ONDOM(オンドーム)」になることに気づいた。コンドームの中に「温度」って言葉が入ってるじゃん!って。それで温度を楽しむコンドーム「オンドーム」と名付けました。これも一本だけで採用されましたね。
田丸:すごいなぁ。ある意味、言葉との出合いですよね。ハッと気づいてすぐに出合えることもあれば、出合えるまでに時間がかかることもある。切り口にあわせてパズルのようにカチッとくる言葉を探していくんですね。
ショートショートにキャッチコピーをつけるとしたら?
田丸:番組から無茶ぶりのリクエストがきていまして。言いだしたのは、僕じゃないですよ?
倉成:はい(笑)。なんでしょう?
田丸:倉成さんがコピーを考えるプロセスを知りたいと。そこで「ショートショートにキャッチコピーをつけてください」というリクエストがきています。
倉成:そうですねぇ。ショートショートのコピーだから超ショートにしたい、っていう発想がまず出てくるかな。世界一短いコピーにしたい。
田丸:なるほど!
倉成:「あ。」とか、「う。」とか、「泣き。」とか。「!」だけでもいいかもしれない。一文字で、いろんな喜怒哀楽を表現していくとか。
田丸:読者の方から、ショートショートにまつわる一文字を送ってもらったり?
倉成:それ、いいですね! あとは、短いことの効能をコピーにする。
「人生は短いからショートショートを読もう」とか、一粒で50個分のビタミンCみたいな感じで「一冊に30個分の物語が入ってます」とか。
田丸:うん、うん。
倉成:話が短いとなにがいいんだろう?と考えてみる。「つまんなくても、すぐ終わる」「校長先生の話より短い」。
田丸:あははは。わかりやすい。あるあるですね。
倉成:短さをもっとポジティブな言葉にしてみましょうか。「短いのに、一生覚えてる」「すぐ読み終わるのに、感動は一生続く」。
田丸:さすがですね。ドキッとする表現がたくさん出てきました。僕の本の帯に使うときには、使用料をご相談させてください(笑)。
倉成:あはは。はい、わかりました。
プロジェクト運営に欠かせない、言葉の設計図
田丸:倉成さんはご自身で自分の職業を「プロジェクト屋さん」とおっしゃっていますよね。「APEC JAPAN 2010」や「東京モーターショー2011」「IMF世界銀行年次総会2012日本開催」「佐賀県有田焼創業400年事業」、現在は2024年に国体が国民スポーツ大会に変わる1回目の大会「SAGA2024」など、実にさまざまなジャンルのプロジェクトをプロデュースされています。プロジェクトを動かしていくときにも、言葉は大事な役割を担いますか?
倉成:建築家が家を建てるときに設計図が必要なように、プロジェクトにも言葉の設計図が必要なんですね。何をしたいのか。どんなビジョンなのか。どんな戦略なのか。それらプロジェクトの礎になるような言葉をつくります。
田丸:いわゆるコンセプトに近いのでしょうか。外に向けて発信する言葉と、プロジェクトを動かしていく人たちに向けられた言葉は違いますか?
倉成:違いますね。とにかく設計図は、みんなの気持ちや考えを同じにすることが大事です。言葉自体はつまらなくてもいいんですよ。「わかる、わかる」とか「それは理にかなっているね」と感じられるほうが大事。下手に格好つけたり、表現することでふわっとした言葉になったりすると、「結局、なにが大事だっけ?」と迷うことになります。実直な言葉でいいんです。
田丸:飾りは必要ないわけですね。
倉成:一方で外に発信する言葉は、目にとめてもらう必要があるので目立たせたり、ちょっとした作戦が必要になったりしますよね。
田丸:なるほど。
倉成:やっぱり、言葉って大事なんですよ。このプロジェクトで目指したいゴールや夢はなんなのかを明確にしておくってものすごく大事で。国も自治体も学校現場なども含めて、日本のプロジェクトは設計が緩いなと思うものが多い。それは国民性かもしれないし、日本語の言語が持つ曖昧さがそうさせているのかもしれない。「なんとなくわかるよね?」で進めてしまうんです。
ただ、プロジェクトが始まり、いろいろな人が入ってくると、曖昧な設計図ではうまくいかない。無駄なことに時間やお金をかけず、関わる人々がわくわくして取り組めるようにするためにも、最初に想いや考えをしっかりと整理して、核となる言葉をつくっておくことが大事なんです。
(田丸 雅智 : 小説家・ショートショート作家)