たっぷりのネギが載っており、最後まで飽きずに食べられます(筆者撮影)

「このメニュー、そこまで有名ではないけど自分は好きだなあ」「定番や看板ではないかもしれないけど、好きな人は結構多いと思うんだよな……」――外食チェーンに足を運ぶと、そう思ってしまうメニューが少なからずあります。店側はどんな思いで開発し、提供しているのでしょうか。

人気外食チェーン店のすごさを「いぶし銀メニュー」から見る本連載。今回は牛めしチェーン・松屋の「ネギ塩豚カルビ丼」を取り上げます。

インパクトのあるネギダレと「ベスト」な焼き具合の豚

飲食チェーンには「代名詞」「定番」というべきメニュー以外にも、知られざる企業努力・工夫を凝らしたものが数多く存在します。本連載では、そうした各チェーンで定番に隠れがちながら、根強い人気のある“いぶし銀”のようなメニューを紹介していきます。


「牛めし」チェーンの松屋。その一方、豚メニューも人気が高いことで知られます(筆者撮影)

今回のテーマは、松屋の「ネギ塩豚カルビ丼」です。

松屋といえば、吉野家・すき家と並ぶ牛丼・牛めしチェーンの一角です。「三大チェーン」の中でも、多種多様なメニューを取りそろえていることが特徴といえるでしょう。

並盛400円の牛めしを筆頭に、同580円のビーフカレー、790円で選べる小鉢がついた牛焼肉定食、さらには牛焼ビビン丼といったメニューがあります。

マーケティングを担当する熊谷雄樹さん(販売促進企画グループ チーフマネジャー)によると、やはり人気メニューの頂点は牛めし。次いでソーセージエッグ定食、ネギたま牛めし、牛焼肉定食、カルビ焼肉定食など、各種メニューがまんべんなく人気を博しているそうです。


人気1位は、やはり「牛めし」。ただ、2位以下は丼や定食がまんべんなく注文されている模様(提供:松屋フーズホールディングス)

牛めしがメインでありながら「豚メニュー」が根強く評価されているのも松屋の特徴といえるでしょう。

中でも9月に復活した「ネギ塩豚カルビ丼」は、コアなファンも多い、いぶし銀のメニューです。同メニューは終売と復活を繰り返しており、そのたびにSNS上では悲喜こもごもの声が飛び交います。

復活「ネギ塩豚カルビ丼」

新たに復活したネギ塩豚カルビ丼を実際に食べてみました。

着丼と同時に目に入るのが、インパクトのある量が盛られたネギ。青みが強いものと白い部分がそれぞれふんだんにトッピングされています。そしてネギの下には、程良い焦げ目がついた豚カルビ。焼き立ての豚カルビや、かかったタレの香ばしい匂いが鼻をくすぐるのが特徴です。


提供とともに、肉とタレの香ばしい匂いが鼻をくすぐる1品(筆者撮影)

一口食べた印象は、意外にもあっさり。焼いたことによって染み出る豚カルビの脂もさることながら、タレに入った柑橘系のフレーバーが強く、イメージほどジャンキーな味はしません。

シャキッとした青ネギの食感と、タレがよく絡んで味の染みた白ネギの食感が楽しく、ネギだけでご飯が進むといっても過言ではないでしょう。また、タレは「つゆだく」というほどではないものの多めにかかっており、下に潜むご飯にも十分に味が行き届いています。

肝心の豚カルビも、まさに「ベスト」といえる火の入れ具合。筆者は焼肉で豚カルビを食べる際は、脂身がカリカリになるくらいまで火を通すのですが、その直前の、若干クリスピーな風味がありつつ、噛み締めたときに旨みがジュワッと出てくる理想的な焼き加減に感じました。

ここであらためて、松屋の紹介です。

松屋フーズホールディングスの主力を担う業態で、2023年10月末時点の店舗数は国内に1018店舗。そのルーツは、1966年に東京・練馬区で創業した中華飯店「松屋」にあります。

その後、1968年に牛めし・焼肉定食店として江古田にも「松屋」を開業。江古田は学生が多く生活する住宅地です。そこで、多くの人がバランス良く栄養を取れるように、牛めしだけでなく定食も創業時から提供していたといいます。

牛めし以外にも多彩なバリエーションが特徴

その後、徐々に店舗数を増やして2013年には1000店舗を達成。直近では11月8日、初出店となる高知県でとんかつ業態「松のや」と併設した店舗をオープンしています。


最近はグループ内の飲食店と複合した店舗もオープンしています。画像の店舗は松屋・松のや三原店(出所:松屋フーズホールディングス公式Webサイト)

今ではとんかつ業態の松のや、さらにカレー専門店の「マイカリー食堂」、ステーキ店の「ステーキ屋松」、中華業態の「松軒中華食堂」など多角的に展開する松屋フーズホールディングス。松屋でも、さまざまなメニューに取り組んできました。

例えば2020年に開始した「松屋世界紀行」と銘打ったシリーズでは、第1弾としてジョージアの料理「シュクメルリ」を展開。事前に行っていたテスト販売期間には、ジョージア大使館のメンバーが食事するシーンをSNSにアップして、大きな話題になりました。

その後に第2弾としてイタリア料理の「カチャトーラ」も展開しています。直近でも、タイや韓国、ペルーなど各国の料理を白いご飯に合う“松屋風”にアレンジした期間限定商品を販売しました。


2020年に登場した「シュクメルリ」は大人気を博しました(出所:同前)

その他にも2016年に「ごろごろチキンカレー」として初登場したチキンカレーメニューなど、牛めし以外でも数多くのヒット作を飛ばしてきた松屋。ネギ塩豚カルビ丼もその一つです。

熊谷さんによると、ネギ塩豚カルビ丼がメニューに初登場したのは2011年。専用のタレで煮た商品である豚めしとは異なる、鉄板で焼いた商品として登場しました。9月に数量限定で販売したところ、瞬く間に売り切れたことで翌月にすぐさま再登場を果たします。

その後も期間限定での販売を繰り返し、ついに2015年に「ネギたっぷりネギ塩豚カルビ丼」として悲願のレギュラーメニュー化。2019年には肉をロースに変更し、さらに2022年にはネギを主体としたタレへと変更するなどの変遷をたどりましたが、2023年の9月に4年ぶりとなるカルビを使用したメニューとしてリニューアルしました。

初登場から10年超 愛され続ける秘訣は「タレ」

熊谷さんによると、ネギ塩豚カルビ丼のこだわりは2022年にリニューアルを加えたネギダレ。これまで以上にネギの食感や味わいを楽しめるよう、大切りにするなどの工夫を施して改良しました。


2022年にタレをリニューアル。よりネギが目立つような改良を加えたそうです(筆者撮影)

また、肉は店舗備え付けの鉄板で焼き上げています。牛めし・牛丼チェーンの中でも店舗に鉄板があるのは珍しいといい、「肉を店舗で焼き上げること、食べていると聴こえてくる焼いている音は松屋ならではの価値と捉えています」と話します。

焼く時間は一定時間を定め、衛生面で安心できるとともに、焼きすぎない程良い火入れを実現しているそうです。鉄板はネギ塩豚カルビ丼以外でも活用しており、ハンバーグなどの定食メニューや、意外なところではチキンカレーの鶏肉なども焼いているとのこと。

「松屋は基本的に『牛めし店』なので、牛めしを中心にプッシュしていきたいと考えています」と話す熊谷さんですが、脇を固めるメニューも豊富な点が、松屋が長らく愛され続ける秘訣といえるでしょう。中でも豚メニューの人気は特筆に値します。

BSE(牛海綿状脳症)の影響でアメリカ産牛肉の輸入が停止したことにより、2004年に発売した「豚めし」はその影響を受けた筆頭となりました。「松屋の2代目」と銘打って販売を開始し、2012年の終売まで愛され続けました。


最近では「マツペディア」として、店舗で松屋に関するトリビアのポスターも掲示しています(提供:松屋フーズホールディングス)

「牛めし店」ながら「豚」もコアな人気を博す

また、2019年に牛・豚のビビン丼をそれぞれ販売して開催した「松屋ビビン丼対決」では、豚のビビン丼が僅差ながら勝利。今回紹介したネギ塩豚カルビ丼も、いくつもの変遷をたどりながら、復活のたびに話題を呼んでいます。

実は筆者も、ネギ塩豚カルビ丼を愛するファンの一人。松屋へ行った際に注文するメニューの99%は、ネギ塩豚カルビ丼(あるいは訪問時に販売しているネギ塩×豚メニュー)です。30〜40代では、牛丼・牛めしよりも豚丼・豚めしのほうがなじみ深いと感じる人も多いのではないでしょうか。

ピンチヒッターとして登場し、しっかりと結果を残し続けて引退する。豚めし・豚丼は、まさに牛丼・牛めしチェーンにおけるいぶし銀バッターのような存在です。その「豚の系譜」を継ぐネギ塩豚カルビ丼を、今回は紹介しました。今後も松屋からどのようないぶし銀メニューが生まれていくか、注目です。


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(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)