現在の終点、多摩センター駅に停まる多摩都市モノレールの車両。レールは駅の先で途切れている(記者撮影)

サッカーの盛んな街として知られる東京都町田市。同市をホームタウンとするサッカーJ2リーグのFC町田ゼルビアは2023年シーズンのJ2優勝、そして2024年シーズンのJ1昇格を決めた。悲願の昇格に沸く同チームの本拠地は町田GIONスタジアム(町田市立陸上競技場)。「天空の城」と呼ばれる同スタジアムのネックは交通アクセスだ。最寄りの小田急線鶴川駅からは約4km。試合開催時には臨時バスも出るが、周辺道路は渋滞しやすい。

そんなスタジアムへのアクセスが大幅に改善しそうな路線計画がある。多摩都市モノレールの町田延伸だ。同モノレールは現在、上北台(東京都東大和市)からJR立川駅(立川市)に隣接する立川北・立川南を経て、多摩ニュータウンの中心、多摩センター(多摩市)までの約16kmを結んでいる。これを町田まで延ばす計画だ。

町田延伸は「調整進めるべき」区間に

多摩都市モノレールは都や沿線の自治体、鉄道会社などが出資する第三セクター。1998年11月に上北台―立川北間、2000年1月に立川北―多摩センター間が開業した。

モノレールの全体構想は約90kmにもおよぶ壮大なプランだが、2016年に国交相の諮問機関、交通政策審議会がまとめた東京圏の新線整備に関する答申では、上北台―箱根ケ崎(瑞穂町)間と多摩センター―町田間の延伸について、事業化に向け「具体的な調整を進めるべき」との方向性が示された。

現在、動きが先行しているのは上北台―箱根ケ崎間の約7kmで、東京都は2023年に同区間の都市計画案などをまとめ、12月に住民説明会を開いている。町田延伸の現在の進捗はどうなっているのだろうか。


多摩センター駅は小田急多摩線・京王相模原線との乗換駅だ(記者撮影)

町田市は人口約43万人。東京都南部の住宅地として発展し、市の玄関口である小田急線町田駅の1日平均乗降人員は約24万6000人(2022年度)で、小田急全線で新宿に次いで2番目に多い。

市の交通のネックは鉄道が市内中央部を通っておらず、駅が外縁部にあることだ。町田(小田急線・JR横浜線)のほか、玉川学園前、鶴川(小田急線)、相原、成瀬(JR横浜線)、多摩境(京王相模原線)、すずかけ台、つくし野、南町田グランベリーパーク(東急田園都市線)と4路線計10駅があるが、その多くは市の端に位置している。

市内には町田山崎団地、木曽住宅、境川団地、小山田桜台団地など1960〜1980年代にかけて整備された大型の住宅団地があるものの、いずれも駅から離れており、交通アクセスは町田駅などからのバスが主体だ。バスは路線も利用者数も多く、例えば山崎団地の拠点である山崎団地センターから小田急町田駅前の町田バスセンターへは、車体を2つつないだ連節バスによる急行便など複数系統を合わせて平日7時台は十数本と頻発しているが、道路渋滞の影響を受けやすく定時性に課題がある。


小田急線町田駅の高架下に広がる町田バスセンター。市内各地へ向かうバスが多数発着する(記者撮影)


町田山崎団地と町田バスセンター間には神奈川中央交通が輸送力の大きい連節バス「ツインライナー」も運行している(記者撮影)

市は基幹交通として期待

市がモノレール延伸に期待する大きなポイントは、こういった交通課題の解決だ。市モノレールまちづくり推進室の担当者は「市の中央部に鉄道駅がないため、基幹交通として市内の拠点をモノレールが通ることで移動の速達性や定時性が(バスと比べて)向上し、利便性が高まる」とその意義を説明する。


2021年に選定されたルートも多摩センター直結ではなく、大型の団地や学校といった市内の拠点を結びながら迂回して結ぶ。都と市などは2019年に「ルート検討委員会」を設置し、4案の中から小山田桜台団地や桜美林学園、町田GIONスタジアム付近などを通るルートを選んだ。延長は約16km。多摩センター―町田間の速達性は他案よりやや劣るものの、確実に需要の見込める拠点を経由する点が評価された。

選定時に示された利用者数の想定は1日当たり約7万5000人。1を超えると事業の効果があるとされる費用対効果(B/C)は1.1と見積もっている。算出に用いた整備コストは非公表だ。ただ、検討委は今後の収支採算性の精査などの結果によっては、他案を改めて検討することもあるとしている。

モノレールを建設するには、導入空間(軌道を通すための場所)となる都市計画道路の整備が必要となる。上北台―箱根ケ崎間が町田延伸より一歩先を行っているのは、導入空間の道路整備が進んでいるためだ。

そこで市は2019年、導入空間となりうる都市計画道路の事業用地を、都が事業に着手する前に先行して取得する「町田方面延伸加速化プロジェクト」を立ち上げた。対象区間は約2km・約9万平方メートルで、現時点で1カ所・1000平方メートルを取得しているという。

ただ、市モノレールまちづくり推進室によると、延伸ルート16kmのうち、現状で都市計画道路以外も含めた道路自体があるのは約12kmという。町田延伸の実現に向けては、道路整備の推進が大きな課題だ。

駅の数や設置場所などについては、まず事業性の検証が必要となるため現時点では未定だ。町田市民の中には、JR町田駅前の2棟に分かれた商業施設「町田東急ツインズ」の間にある「原町田大通り」のスペースにモノレールの駅ができると聞いたことがある……という人もいるだろう。ただ、町田に設ける駅の位置も含め、まだ決まっていることはないという。


JR町田駅側から小田急線町田駅方向を見る。両駅はやや離れておりデッキで結ばれている(記者撮影)

先は長いが一歩前進

町田市と多摩市は2023年12月、モノレールの需要創出に向けた沿線の街づくりや課題解決などに向けた「モノレール沿線まちづくり構想」の素案をまとめた。同構想は両市が2022年8月から検討委を設けて策定を進めてきた。12月20日から2024年1月19日にかけて市民の意見を募集し、3月に構想を策定する予定だ。


JR町田駅前の原町田大通り。商業施設「町田東急ツインズ」の2棟を結ぶ連絡通路「クリスタルブリッジ」が道路上にかかる。かつてこのスペースは広場だった(記者撮影)

まちづくり構想の策定は延伸に向けて一歩前進といえそうだが、開業までにはまだ数多くのプロセスを経る必要がある。市モノレールまちづくり推進室によると、市民意見の募集を踏まえて構想を策定後、両市は策定した取り組みを進める一方、都は事業性の検証を行う。市の資料によると、事業性に問題がなければ、その後調査設計やさらなる事業性の精査、都市計画法に基づく手続きや軌道法に基づく手続きを経て、都が事業化を決定することになる。実際に着工するのはそこからだ。

まだ先は長そうだが、前進している多摩都市モノレールの町田延伸構想。J1昇格を決めたFC町田ゼルビアのように、事業化へ「昇格」する日はいつになるか。


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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)