現在のビジネスパーソンに求められているのは、短い時間で成果を出し続ける「スピード感のある仕事」。「初速を上げるための実践的なテクニック」を紹介します(写真:kouta/PIXTA)(写真:EKAKI/PIXTA)

日本の企業では、残業をいとわず、長い時間をかけて丁寧な仕事をすることが求められてきましたが、そうした働き方は、すでに許されない状況を迎えています。現在のビジネスパーソンに求められているのは、従来型の「じっくりと時間をかけた仕事」ではなく、短い時間で成果を出し続ける「スピード感のある仕事」なのです。

スピード感のある仕事とは、どのようなものなのか? ベストセラー『トップ5%社員』シリーズの著者である越川慎司氏は、「仕事の初速が早いこと」だと言います。初速とは? 同氏の新刊『仕事は初速が9割』をもとに、3回に渡り解説します(今回は3回目)。

今回は、明日からすぐに始められる「初速を上げるための実践的なテクニック」にスポットを当てます。初速を上げて、仕事を効率的に進めるためには、やる気に頼らない仕組みを手に入れることがポイントです。

仕事モードに切り替える

最初にお伝えするのは、やる気のあるなしに関わらず、まずは「2分だけ仕事をやってみる」という超シンプルで、即効性のあるテクニックです。

仕事が遅くなる一番の原因は、「最初の一歩」を踏み出せないことにあります。疲れている、眠い、何となく面倒くさい……など、やる気が起こらない理由は人それぞれですが、「たった2分だけ」と考えれば、重い腰を上げやすくなります。

「まずは2分だけやってみる」ことを自分のルールにすると、次のような効果が生まれることがわかっています。

・「ちょっとやってみる」という気軽さが、行動ハードルを下げてくれる

・「作業興奮」が始まって、エンジンがかかりやすくなる

「仕事を始めなければならない」と考えると気分が重くなりますが、「たった2分」のことであれば、「とりあえず、やってみるかな」という気持ちになります。わずか2分でも、実際に仕事を始めてしまえば徐々に作業興奮が始まって、気分を「仕事モード」に切り替えることができるのです。

多くのビジネスパーソンが、「モチベーションが上がらなければ、仕事はできない」と考えていますが、それを待っていたのでは、動き出しが遅くなるだけです。成果を出し続けている人は、自分のやる気を「アテ」にしていません。

とにかく仕事を始める仕組みを作って、作業をスタートさせてしまえば、作業興奮によって、モチベーションは後からついてくることを理解しています。そうした考え方が、仕事の初速を早めているのです。

人間の脳は「小さな数字」で示されると、「その作業は行動ハードルが低い」とイメージすることがわかっています。

「アンケートに答えてください」といわれるよりも、「1分だけアンケートに答えてください」といわれた方が回答率が高まります。「スポーツジムに行けば、やせますよ」といわれるよりも、「2カ月だけスポーツジムに通えば、やせますよ」といわれた方が、行動を起こしやすくなるのです。

どんな作業をする場合でも、「まずは2分だけやってみる」ことを習慣化すれば、無理なく初速を早めることができます。

苦手な作業の前に、得意な作業をやる

苦手な仕事というのは、どうしても手をつけるのが遅くなってしまいます。

そんな状況から抜け出すためには、苦手な仕事を始める前の段階で、自分が得意な仕事や、好きな作業を少しだけやってみると、精神的なフリーズ状態を打ち破ることができます。

私の場合でいえば、経費精算などの細かい作業が得意ですから、重要度の高い仕事に取り組み始めて、少しでも「気持ちが乗らないな」と感じたら、得意な軽作業に切り替えています。

得意な作業を始めると、作業興奮によって、「自己肯定感」が高まってきます。エンジンがかかりやすい状態を作ってから重要度の高い仕事を始めれば、スムーズに作業を進めることができるのです。

自己肯定感を高めて、作業エンジンをかけることが目的ですから、簡単な作業であれば、どんなことでも応用ができます。

アメリカの海軍では、トップの将軍を含めて、全員が自分の寝ていた布団を自分で畳むことから1日をスタートさせているそうです。眠くてウトウトした状態であっても、自分はきちんと布団を畳んで整理整頓した……ということが、自己肯定感を高めてくれて、その日の訓練に集中することができるといいます。

簡単なこと、好きなこと、得意なことを少しだけやって、自分の「やる気スイッチ」をオンにする仕組みを作っておけば、苦手な作業であっても、ポジティブな気持ちで向き合うことができます。

集中し続けてはいけない

成果を出し続けている人は「集中する」ことではなく、「集中を継続する」ことを意識して、効果的な休憩時間の取り方を工夫しています。

マラソン選手が、給水所で水分や糖分を上手に摂取して、最後に猛スパートをかける準備をしているのと同じです。

集中力を途切れさせずに作業を進め、最も大事なゴールの手前でフルパワーを発揮して、いかに早くゴールに飛び込むか? 休憩時間を取る一番の目的は、それを実現することです。

仕事を始めて作業興奮が出ると、2時間でも3時間でも、集中して作業をすることができますが、成果を出し続ける人たちは、それを「やめる」習慣を持っています。

集中して長時間の作業をすると、疲労が蓄積して、作業効率が悪くなります。作業興奮が出すぎてしまうと、作業することが目的になってしまい、本来の目的を見失ってしまう危険性もあるからです。

こうしたリスクを回避するためには、あらかじめ「休憩時間」と「休憩の仕方」を決めておくことが大切です。

作業を始めて45分が経ったら、作業を中断してデスクから離れ、コーヒーを飲むとか、30分が経過したらグミを食べるなど、それぞれの好みに応じて、手軽で時間のかからない気分転換の方法を工夫しています。

コーヒーを飲むために一度立ち上がる習慣があると、「あれっ、何のためにこの作業をしていたんだっけ?」と仕事を振り返る機会ができます。ムダな作業にハマっていると気づけば、それをやめることができるのです。

「疲れたら休憩する」をやめる

これまでの調査によって、コーヒーを飲みながら仕事をしたり、おやつを食べながら作業をすると、どうしても効率が悪くなることがわかっています。

コーヒーを飲んだままで作業をすると、休憩のタイミングを見失って、疲れたり、眠くなってしまうことになります。

この仕事が終わったら、温かいコーヒーを飲んでひと休みしようとか、この作業が終了したら、甘いおやつを食べよう……というメリハリの利いた状況を意図的に作った方が、作業効率が格段に高まります。


「集中する時間」と「休憩する時間」を明確に分けているから、彼らは仕事が早く進み、残業沼にハマリ込むことがないのです。 

多くのビジネスパーソンが、「疲れたら、休憩する」という働き方をしていますが、そうした休み方によって、疲れが取れることはありません。

疲れが出た時点で、すでにエネルギーを使い過ぎていますから、休憩によって気分転換はできても、疲れが取れることはないのです。

成果を出し続けている人たちは、「疲れる前に休憩する」ことを重視しています。

(越川 慎司 : クロスリバー代表取締役)