東京ソラマチ店はブランドを横断させた新業態(写真提供:サマンサタバサジャパンリミテッド)

旬のハリウッドセレブや人気モデルを起用し、一世を風靡した日本発バッグブランド「サマンサタバサ」の地盤沈下が止まらない。

バッグやアパレル、ジュエリーを展開するサマンサタバサジャパンリミテッド(以下、サマンサ)は12月12日、2024年2月期の業績を下方修正した。修正後の会社計画は、売上高236億4000万円(修正前は261億1900万円)、本業のもうけとなる営業損益は10億5000万円の赤字になるとし、従来予想4億3000万円の営業黒字から赤字転落することとなった。

今回の修正により、サマンサの営業赤字は5期連続、最終赤字に至っては8期連続となる。まさに泥沼だ。

最大の要因は、販売の苦戦。インバウンド需要が順調な一方、柱である国内の客数が伸び悩んだ。秋冬商戦がスタートした9月と10月も、残暑が続いたことで低調に推移。客数が当初計画の8割程度にとどまる見通しで、年末商戦での挽回も厳しいと判断した。

「ボーナス不支給」の衝撃

業績不振を受けてサマンサは、12月に支給予定だった冬季賞与を支給しないことも発表した。「これまで冬季賞与の取り扱いについて議論を重ねてまいりましたが、改めて手元流動性の確保を経営の最優先課題と認識」(同社)したと説明している。

実際にサマンサの財務状況を見ると“火の車”だ。前2023年2月末の自己資本比率は、債務超過ギリギリの0.6%まで低下。5月に親会社のコナカに優先株を発行することで約16億円を調達したことで、直近(2023年8月末時点)の自己資本比率は6.2%まで回復しているが、依然として危険水域は脱せていない。


10〜20代女性を中心に支持を得て、平成の時代に急成長を遂げたサマンサ。苦境は以前から続いていたが、直近の同社の経営を振り返ると、「3つの曲がり角」があったといえる。

1つ目は、紳士服チェーン・コナカによる子会社化だ。コナカはサマンサの株式59.1%を所有している。

コナカによるサマンサの子会社化には、少々複雑な経緯がある。2019年6月、サマンサの創業者で当時約6割超の株式を保有していた寺田和正氏が、個人的な親交のあるコナカの湖中謙介社長に対し、サマンサ株31.3%を約34億円で売却。寺田氏はその後、代表権のない取締役に退いた。そして同年9月、湖中謙介社長個人が所有していたサマンサ株をコナカが全て取得して関連会社となった。

寺田氏が自身の会社の株式を放出した2019年当時、同社の業績はピークアウトしていた。2015年2月期に過去最高の純利益を記録した後、主力のバッグの販売不振などにより業績が低迷。2017年2月期から現在に至るまで、サマンサは7期連続で最終赤字から抜け出せていない。

コロナ禍で巨額赤字に転落

2つ目が、2020年からのコロナ禍だ。通勤や外出用のバッグが主力のサマンサにとって、外出自粛は大きな痛手で巨額赤字に沈んだ。グループ間の連携を強化して財務基盤の安定化を図るため、2020年5月にコナカがサマンサを子会社化。コナカ傘下だった「フィットハウス」(ブランド雑貨などの販売)をサマンサが吸収合併したことで、コナカの出資比率が59%に上昇した。

3つ目が、2022年5月に米田幸正氏(73)がサマンサの社長に就任したこと。米田氏は過去にスギ薬局を運営するスギホールディングスや、日用品メーカーのエステーで社長を歴任した人物だ。

米田社長の主導で現在、サマンサの「リボーン計画」が進められている。商品から店舗・ネット通販といったフロント部分から、生産・物流などの裏側に至るまで全面的に見直し、最適化を図る狙いがある。

たとえば組織・業務改革では、ブランド横断で商品を開発する体制に見直した。「サマンサタバサ」というブランドの“聖域”にメスを入れ、ブランドごとのコンセプトやターゲット層、価格帯などの再定義を行い、重複部分の投資を減らしている。物流拠点も5拠点から1拠点に集約するなど、業務効率化を徹底する。

これにより従来のブランド別出店から、サマンサのブランドをひとまとめにした店舗開発にも注力している。女性向けのサマンサタバサと、男性向けブランド「KINGZ(キングズ)」も集結させて、幅広い層の集客を狙う。

修正計画の達成に必要なこと

今2024年2月期はブランドを横断させた10店程度の出店を進めながら、不採算店の整理も進めていく。これにより2024年2月末は232店舗(前期比38減)となる見通しだ。

サマンサの復活に向けて焦点となるのが、やはり売上高の確保だ。肝煎りのブランド横断店は順調な滑り出しながら、出店先である商業施設の特性に合わせた商品構成を模索中。ファミリーや20代前後の若年層が多く訪れるショッピングセンター店舗では「サマンサベガ」「サマンサタバサプチチョイス」の需要が高いが、年齢層が高い百貨店内の店舗では高単価の革製品の引き合いが強いという。

サマンサは長年の構造不況から脱し、再び輝きを取り戻すことができるのか。経営陣の手腕と覚悟が問われている。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)