ボランティア」は強制ではないけれど、正面から断りづらいのが実情です(写真:polkadot/PIXTA)

大阪市と神戸市で開催された阪神タイガースとオリックス・バファローズ優勝パレードにおいて、大阪府および大阪市の職員が来場者の誘導などを行いましたが、これがボランティア扱いであったことが問題になっています。

パレードが実施されたのは11月23日ですが、12月8日の読売新聞の報道によると、大阪市の横山英幸市長は7日記者団に対して「開催して批判されるのなら、判断は慎重にならざるを得ない。(開催しないことも)十分にあり得る」と、職員をボランディアとして募った対応に市議会などで批判が出たのを踏まえこう発言したと報じられています。

この発言や、一連の経緯を巡り、いまだにインターネット上などで議論が続いています。

無償ボランティアにした背景

府と市は「特定球団のイベントの公費負担は違法の恐れがある」として、無償ボランティアという名目での対応にしたとのことですが、確かに、地方自治法には、その根拠となる条項があります。

地方自治法第2条第14項
地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。

地方自治法第 232 条第1項
普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。

これらの条項の定めによると、確かに、特定球団のイベントに公費を投入することについては、「地方自治のために必要な最少の経費」という枠を外れ、違法な支出となる可能性はあるかもしれません。

しかし、この「違法な支出」を回避するために、大阪府や大阪市が、職員にボランティア活動を強いていいのかは別問題です。

大阪府や大阪市の職員は地方公務員に該当しますが、一部の条項を除き、地方公務員にも労働基準法は適用されます。1日8時間1週40時間の労働時間規制や、時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いも、地方公務員には適用があります。

そうしますと、今回のボランティア活動が、実態として業務命令と同視されるような形で行われたものであったとしたら、無償で時間外労働を求めたことは、労働基準法違反に該当する可能性があります。

たとえ地方自治法等による財政規制に違反しないための理由であっても、労働基準法違反を正当化することはできません。

この点、報道されているところによると、大阪府市を合わせて3000人のボランティアを集めると目標人数を設定したり、ボランティアの募集が職制を通じて行われ、上長からの意思確認もあったとのことで、状況を総合勘案すると、純粋なボランティアではなく、法的には「業務性あり」と判断するのが妥当でしょう。

いずれにしても、大阪府や大阪市の職員が、労働基準法に違反してボランティアという名目の無償労働をすることは、回避すべきであるというのが、労働法の専門家である筆者の視点からの意見です。

会社の清掃活動やお祭り参加のボランティアは?

今回は、公務員のボランティアの事例でしたが、民間企業においても、同様の事案は少なからず発生します。

例えば、会社が、地域の清掃活動や、お祭りなどへの参加を「ボランティア」として社員に命ずる場合が考えられるでしょう。

このようなとき、たとえ「ボランティア」という名目であったとしても、事業主や上司から「参加をしてください」と明確に命令された場合は、間違いなく「業務」扱いになります。

明確な命令ではなくとも、参加をしないと人事考課にマイナスの影響を与える場合や、職制による圧力で事実上断ることが困難な場合も「業務」扱いと考えるのが妥当です。

とはいえ、社内の人間関係や「居心地」などのことを考えると、上司から参加を事実上強制されている状況の中で、「ボランティアであるならば辞退します」とか「業務扱いにならないなら参加しません」などと、正面から断ることができる人は少ないと思います。

そのようなとき、どうすればよいかですが、以下4つの対応が考えられます。

第1は、社内の人事部やコンプライアンス部門への相談です。ボランティアを強制しているのが会社ぐるみではなく、所属部署の方針や、直属の上司の考え方によるものであれば、社内的な相談により円満に解決できる可能性があります。

第2は、集団での交渉です。自分1人だけで交渉するのは心理的ハードルが高いですし、集中攻撃を受けるリスクがあります。しかし、ボランティアを強制する会社の方針に疑問を持つ社員が自分以外にもいるのであれば、人数を集めて会社と交渉するというのも手です。

「そんなに多くの社員が反対していたのか」ということがわかれば、会社側も対応を変える可能性があります。状況によっては、労働組合を結成して、正式に法的な意味での団体交渉を申し込むということも考えられるでしょう。

第3は、労働基準監督署への相談です。強制的なボランティア活動への参加は、無償労働となり、まさに「賃金未払い」という労働基準法違反ですから、労働基準監督署も会社への指導や調査に動いてくれるはずです。労働基準監督署に相談をする際には、強制参加を裏付ける社内文書やボイスレコーダーなどを準備しておくといいでしょう。

自ら会社に見切りをつけることも選択肢の1つ

第4は、退職も含めて検討するということです。会社に改善を求めることが難しそうな場合や、ボランティアを拒んだために嫌がらせを受けたような場合は、自ら会社に見切りをつけ、新しい職場に移るということも前向きな選択肢だと思います。

雇用保険の基本手当(いわゆる「失業手当」)の受給においても、このような理由で離職した場合には、特定受給資格者(いわゆる「会社都合退職」)とみなされ、給付制限期間なく基本手当を受給できたり、年齢や勤続年数によっては原則日数の90日分以上の基本手当を受給できる場合もあります。

なお、会社から受け取った離職票が「自己都合退職」と書かれていたとしても諦めないでください。離職理由を最終的に決定する権限を持っているのは会社ではなくハローワークなので、ハローワークに事情を説明すれば、職権で離職理由を変更してもらうことができる可能性があります。

本来、ボランティアとは、誰かから命令されて行うものではなく、自発的な意思によって参加するものです。そこに組織の事情が加わって、強制参加の色を帯びるというのは、社会通念上違和感がありますし、法的にも、全てが違法とまでは言えませんが、「黒に近いグレー」である場合が多いと考えられます。

会社であれ地方公共団体であれ、所属するメンバーが安心して気持ちよく働けるようにするということ、および、コンプライアンスの両面から、ボランティアへの動員にあたっては、慎重な対応をすることが望ましいと言えるでしょう。

(榊 裕葵 : 社会保険労務士、CFP)