岸田文雄首相(写真:時事)

野党第1党の立憲民主党が、臨時国会会期末の13日午後にようやく内閣不信任決議案を提出し、与党があっさり否決して今国会の与野党攻防が終わった。ちょうど半年前の通常国会での「内閣不信任騒動」とほぼ同じ展開で、「『解散』に怯えて野党の最大の武器を放棄するような茶番劇」(政界関係者)ともみえ、「“多弱・分断野党”の実態」(同)を露呈した。

そもそも、岸田文雄内閣は夏に「増税メガネ」と揶揄されて以来政策決定で迷走を繰り返して「国民総スカン」状態となり、内閣支持率が2012年暮れの自民党政権復帰以来の最低記録を更新し続ける窮地に陥っている。

加えて、臨時国会終盤に発覚した最大派閥安倍派の「巨額裏金疑惑」で、東京地検特捜部が本格捜査を進める中での会期末だ。本来なら、野党第1党が内閣不信任決議案提出で「解散か総辞職か」の大勝負を挑むべき局面なのに、「最初から腰砕けでは、国民の野党不信を拡大させるだけ」(自民長老)との批判は免れない。

次期通常国会会期末での「勝負」にも疑問符

しかも、立憲民主執行部は12日の役員会で、最終対応を泉健太代表に一任していた。「すべて泉氏一人に責任を負わせる」(立憲若手)という無責任さで、「まさに旧民主党時代以来の悪弊」(同)と批判も少なくない。この状態が続けば「もはや瀕死」(首相経験者)ともみえる岸田首相を、首尾よく次期通常国会で「総辞職か解散」に追い込めるかどうかにも疑問符が付きかねない状況だ。

会期末の13日午後、立憲民主は岸田内閣に対する不信任決議案を衆院に提出した。自民の最大派閥・安倍派の「巨額裏金疑惑」などを踏まえ、「政権中枢で大きな腐敗が明らかになった内閣には正当性がない」との理由を掲げた。

これに対し、共産党はもとより、政権寄りの姿勢を続けてきた日本維新の会、国民民主党も賛成したが、13日午後3時に開会となった衆院本会議では、直ちに不信任決議案の採決が行われて自民、公明両党の反対多数で否決。その時点で国会は実質的に閉幕した。

これに先立ち、13日午前11時半に開会した参院本会議では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済に向けた特例法や、大規模な国立大学法人に運営方針を決める合議体の設置を義務付ける改正国立大学法人法が成立、これと並行して衆参各委員会などで必要な会期末処理が行われた。

手続きがすべてが終わった段階で、泉健太立憲民主代表が内閣不信任決議案を衆院に提出、午後3時に開会した衆院本会議で与野党の賛成、反対討論と記名投票の結果、午後5時前に同決議は否決となった。

岸田首相にとっては単なる「通過儀礼」に

こうした一連の手続きに先立ち、岸田首相は13日午前に記者団のインタビューに応じ、「信じるところに従って粛々と対応する」と淡々とした表情で語った。岸田首相自身にとっては、「国会閉幕後の14日に予定する松野博一官房長官、西村康稔経済産業相ら安倍派4閣僚の後任人事などで頭がいっぱいの状態」(側近)とされるだけに、不信任否決は「単なる会期末の通過儀礼」(同)と受け止めたことは間違いなさそうだ。

そこで問題となるのは、前通常国会と同様に、今回も立憲民主が“及び腰”の対応とならざるをえなかった理由だ。これまでの国会運営のルールでは、内閣不信任決議案が提出された段階で衆参両院でのすべての審議がストップし、同決議が可決すれば解散か総辞職、否決されれば両院での審議再開、となるのが通例。

これも踏まえ、野党はこれまで、会期末前日か当日午前に内閣不信任決議案に提出し、午後の衆院本会議で採決に持ち込むパターンが多かった。

ただ今回その手法をとると、13日午後の衆院本会議で採決する場合でも、提案理由説明、各党の賛成・反対討論を経ての記名投票とその結果公表まで2時間以上かかるため、その後に衆参各員会を開いて改めて、重要法案の審議を再開、委員会可決、本会議採決に持ち込むためには多くの時間を要し、場合によっては時間切れにもなりかねない。

その場合、与党は法案成立のため会期を短期延長せざるをえなくなる。そうなれば、13日夕に予定された岸田首相の会見や、国会閉幕を待って行われるとみられる東京地検の本格捜査も先送りを余儀なくされる。

次期通常国会の「会期末勝負」に不安も

その場合、会期の延長幅にもよるが、1月中下旬と見込まれる次期通常国会までの期間が短縮され、地検の捜査も「さらなる短期決戦」(地検幹部)を迫られる。だからこそ、立憲民主は会期延長とそれに伴う混乱を避けるため、確実に国会閉幕に持ち込める手続きを選択せざるをえなかったのが実態とみられる。

ただ、年明け以降も岸田政権の厳しい状況が続けば、次期通常国会の会期末の「不信任案提出劇」は、「まさにのるかそるかの大勝負」となる可能性が大きい。その際も立憲民主執行部が野党内での孤立を恐れて、今回のようなどっちつかずの対応をとれば、「結果的に、国民の不信を買って野党第1党としての資格を失う」(自民長老)ことになり、泉代表の責任問題につながることは避けられそうまない。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)