マースクはメタノール燃料に対応した大型コンテナ船への置き換えを進め、CO2排出量を実質ゼロにすることを目指している(写真は同社ウェブサイトより)

国際海運大手のデンマークのA.P. モラー・マースクは11月22日、次世代の船舶燃料「グリーンメタノール」の長期供給契約を中国の風力発電大手、金風科技(ゴールドウィンド)の子会社と結んだと発表した。

ゴールドウィンドが内モンゴル自治区のプラントでグリーンメタノールを生産し、2026年から年間50万トン供給する。この規模のグリーンメタノールの供給契約は、世界の海運業界でこれが初めてだ。

(訳注:グリーンメタノールは、火力発電所などから回収した二酸化炭素[CO2]と、風力や太陽光など再生可能エネルギーの電力で製造した水素を合成して作られる)

メタノール動力船を大量発注

マースクは国際コンテナ輸送の世界的大手で、船舶の運航に伴うCO2排出量を削減する「グリーン海運」を推進している。燃料として重油とメタノールの両方に対応した新型コンテナ船をすでに25隻発注しており、2040年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを目指している。

今回の長期契約による供給量は、上述の新造船が必要とするメタノール燃料の半分超を賄うことができる。マースクの説明によれば、それを通じてCO2排出削減の初期段階のリスクを下げられるほか、2030年までに(重油に対して)競争力のあるグリーンメタノールの市場価格を形成するのに役立つという。

ゴールドウィンドは中国最大の風力発電機メーカーであり、風力発電所の運営やさまざまな関連業務も手がけている。2022年に中国国内で設置した風力発電設備の容量は11.4GW(ギガワット)に上り、市場シェアは2割を超える。


ゴールドウィンドは内陸部の内モンゴル自治区にグリーンメタノールの製造プラントを建設する。写真は同社の風力発電機工場(内モンゴル自治区興安盟区域経済合作局のウェブサイトより)

同社は2023年4月、船舶用メタノール燃料事業に参入する布石として、風力発電を利用した水素とメタノールの製造プラント建設に関する契約を内モンゴル自治区政府と締結した。これは現時点で世界最大級のグリーンメタノールの生産プロジェクトだ。

「マースクとの契約を起点に、再生可能エネルギーとグリーン燃料生産を効果的に組み合わせていく。グリーンメタノールの生産技術を改良し、船舶燃料としての経済性を備えるものにしていきたい」。ゴールドウィンドの董事長(会長に相当)を務める武鋼氏は、そう意気込みを語った。

世界的な供給センターになれるか

とはいえ、グリーンメタノールの経済性を高めるのは容易なことではない。海運業界のベテラン関係者によれば、マースクが最初のメタノール動力船のために調達したアメリカ産バイオメタノールの価格は、1トン当たり約2400ドル(約35万4800円)。これは天然ガスなどから作られるメタノールの7〜8倍の値段だという。

だが見方を変えれば、コスト引き下げのハードルが高ければ高いほど、達成した場合のビジネスチャンスは大きい。


本記事は「財新」の提供記事です

「中国は再生可能エネルギーやバイオマス燃料の生産大国だ。グリーンメタノールの大量生産を通じて価格を引き下げれば、次世代船舶燃料の世界的な供給センターになり得る」。中国の業界関係者の多くが、そう期待している。

(財新記者:李蓉茜)
※原文の配信は11月22日

(財新 Biz&Tech)