一時はカリスマ創業者として名をはせた鎌田氏(左、2020年撮影)だが、社内での求心力は徐々に失っていった(左写真:梅谷秀司、右写真:尾形文繁撮影)

衝撃の身売りから3カ月、日本最大のYouTuber事務所は新たな局面を迎えた。

UUUMの創業者である鎌田和樹氏が年内をもって、同社の名誉顧問を退任する方向で調整していることが東洋経済の取材でわかった。12月12日までに複数の関係者が明らかにした。

報酬額などをめぐり、会社側と折り合いがつかなかったことが背景にあるとみられる。

アドセンス(YouTube広告)収入の伸び悩みなどに直面していたUUUMは8月、広告事業などを手がけるフリークアウト・ホールディングスとの資本・業務提携を発表。株式公開買い付け(TOB)により、9月15日付でフリークアウトの連結子会社となった。

UUUM株の約3割を保有する筆頭株主だった鎌田氏も、TOBに応じるかたちで保有株をすべて売却し、9月15日付で取締役会長を退任している。一方、同時に「ファウンダー兼名誉顧問」に就任し、引き続きUUUMとの関係性は維持することになっていた。

わずか3カ月半での顧問退任により、鎌田氏はUUUMの経営から完全に手を引くこととなる。

「関係性維持」を強調していたが…

鎌田氏は光通信で執行役員を務めた後、人気ユーチューバーのHIKAKIN氏との出会いをきっかけに、2013年にUUUMを設立した。創業から4年で上場を果たすなど、一時はカリスマ創業者として名をはせた。


TOBに関する資料には、会社側が鎌田氏を慰留したと受け取れる記載がある(編集部撮影)

8月のTOBに関するリリースでは、UUUM側が「(鎌田氏との)関係性を維持することにより、企業価値向上に寄与すると判断」し、鎌田氏に名誉顧問への就任を提案したと記されている。

当時、フリークアウトのIR担当者も取材に対し、「業界の先駆者でもある鎌田氏にはぜひ残ってほしいとお願いした」と話していた。

鎌田氏の手腕や人脈に期待して慰留したならば、UUUMにとって今回の退任は痛手となりかねない。しかし、実態は異なるようだ。

「鎌田氏はUUUM社内での求心力をとうに失っており、退任しても大した影響はないだろう」。UUUMの実情に詳しい業界関係者はそう指摘する。

複数の関係者によると、そもそも名誉顧問の就任は、鎌田氏側が持ちかけたのがきっかけだったという。ところが報酬などの条件面で鎌田氏側の要望と折り合いがつかず、正式に就任する前の9月中旬時点で、年内いっぱいの契約とすることが決まっていた。「むしろUUUM経営陣にとっては、完全に関係が切れたほうが業務もやりやすくなるはず」(前出とは別の業界関係者)。

カリスマ的存在だったはずの鎌田氏が求心力を失ったのはなぜなのか。

始まりは、2021年10月の週刊誌による鎌田氏の不倫報道にさかのぼる。当時、会社側は「記事内容について、おおむね事実であることを確認」とのリリースを出し、代表取締役社長であった鎌田氏は翌年7月までの役員報酬を全額返上する事態に。プライベートの問題とはいえ、コロナ禍での不祥事に、社内の一部では鎌田氏に対する不信感が高まっていた。

2トップ体制下で混乱も

2022年6月には会長に退き、新社長の梅景匡之氏と2人で代表職を担う体制へと移行した。その後の業績悪化が、求心力の低下にさらなる追い打ちをかけることとなった。

収益柱であったアドセンス収入が落ち込む一方、2トップ体制下で指揮命令系統に混乱が生じたことも相まって、ビジネスモデルの再構築に苦戦。2023年5月期には上場以来初の営業赤字に転落した。「代表取締役として残りながらも、新たな収益源となるビジネスを打ち出せない鎌田氏の素質が疑問視されるようになった」(業界関係者)。

今年6月に鎌田氏が代表職から退いたのも、こうした社内事情が関係していたとみられる。

そしてフリークアウトへの身売りが決まった後、さらに同氏への信頼を失墜させる出来事が起きる。

TOBが発表された8月、筆頭株主だった鎌田氏は過去の大量保有報告についての訂正報告書を関東財務局に提出している。訂正箇所は「当該株券等に関する担保契約等重要な契約」という部分だ。

同氏は2022年6月、東海東京証券に200万株を担保として差し入れたことを報告していたが、それ以外にも大和証券に200万株、野村信託銀行に55万株を差し入れていたと訂正。当時、鎌田氏が保有していたおよそ600万株のうち、約75%が担保に出されていた計算になる。


鎌田氏が提出した大量保有報告に関する訂正報告書。野村信託銀行への差し入れについては、この後55万株に再修正している(編集部撮影)

担保に入れられたままの状態では、株式を売却できない。TOBのデューデリジェンスを実施する過程で発覚したもようで、UUUM経営陣もそのとき初めて知ったようだ。

鎌田氏はこの株担保ローンによって数十億円を借り入れていたとみられる。UUUMの役員らは当然それら資金の使用用途も把握しておらず、ショックは大きかったという。「創業者であり筆頭株主でもある人間が、周囲に知らせず大半の株式を担保に入れていたというのは普通では考えられない」。業界関係者はそう話す。

東洋経済は鎌田氏に対し、顧問退任の経緯や株担保差し入れの報告をしていなかった理由などについて問い合わせたが、期限までに回答はなかった。

鎌田氏なきUUUMの今後

業績悪化に苦しんだUUUMは目下、フリークアウトの子会社として再出発の過程にある。今2024年9月期第1四半期(2023年6〜8月期)も、新作ゲームの不調などにより営業赤字から抜け出せずにいる。

今期は不採算事業の撤退や人員削減などの構造改革に着手し、収益が安定しづらいゲーム事業については将来的に撤退する方針を明らかにしている。「ショート動画」の普及に伴いアドセンス収入が低下する中、グッズ販売やマーケティングなどを軸にビジネスモデルの立て直しを進める。

11月24日には、TOB後の新たな経営体制が発足。梅景氏が社長を続投し、フリークアウト側から2人の取締役が送り込まれた。

創業者なきUUUMは変革できるのか。今まさに、再起に向けたターニングポイントにさしかかっている。

(郄岡 健太 : 東洋経済 記者)