中国で感染が広がる呼吸器疾患。写真は病院内の様子(写真:VCG/アフロ)

中国で3カ月にわたって肺炎など呼吸器疾患が流行している。

当初は北部、子どもの感染が中心だったが、気温が下がるにつれ中国全土、全年齢層に感染が拡大、新型コロナウイルスの武漢での感染爆発がよぎるのか、世界保健機関(WHO)が中国当局の対応に神経をとがらせ、国際社会も動向を注視する。病院の受診者数は高止まりしたままで、年末年始に感染のピークを迎えるとの観測も出ている。

子どもの看病や感染防止で仕事を休む

「長女の通う小学校では11月から何度か学級閉鎖になった。教師もインフルエンザに感染したと聞いて不安を感じている」

中国東北部の大連市に住む女性(33)は心配そうに話した。気温が1桁に下がった10月中旬以降、周囲で肺炎を中心とする呼吸器疾患が流行し始め、子どもの看病や感染防止のために仕事を休む同僚も増えているという。

呼吸器疾患の流行が中国で最初に大きく報じられたのは10月だ。せきと発熱の症状が出るマイコプラズマ肺炎にかかる子どもが9月以降増加し、北京市など大都市では病床が不足していることが明らかになった。

11月に入ると様相は複雑化した。インフルエンザが流行り始め、RSウイルス、アデノウイルスなど症状が異なる呼吸器疾患も同時に報告されるようになった。

患者が急増した都市では、小児科がほかの診療科から応援を要請したり、救急病院で診察が10時間待ちになるなど、医療の逼迫が顕在化している。

北京市の保険当局は小児科の診療体制やオンライン診療を拡充したうえで、小児科専門医を受診する前に近所の医院に相談することを呼びかけ、患者の分散に腐心している。


診察を待つ病院内の様子(写真:CFoto/アフロ)

マイコプラズマ肺炎だけでなくさまざまな感染症が同時に流行しているが、12月初旬時点で猛威を振るっているのはインフルエンザだという。

国家衛生健康委員会の11月26日の会見での説明によると、1歳から4歳では「ライノウイルス(鼻かぜ)」、5歳から14歳では発熱やせきなどの症状が特徴の「マイコプラズマ肺炎」と、高熱、喉の腫れや痛みを引き起こす「アデノウイルス」、15歳から59歳ではライノウイルスと新型コロナウイルス、60歳以上は気管支炎や肺炎を引き起こすヒトメタニューモウイルス、風邪の病原体であるコロナウイルスの感染が多く、インフルエンザは全世代で流行している。

ゼロコロナ政策が影響

複数の感染症が同時に広がり、中でもマイコプラズマ肺炎とインフルエンザの感染者は記録的な多さだという。中国当局や専門家はその理由に3年に及ぶゼロコロナ政策を挙げる。

2020年1月に武漢で新型コロナウイルスの感染爆発が確認されて以降、中国は2022年12月まで人の行動や経済活動を制限して感染を徹底的に封じ込めるゼロコロナ政策を続けてきた。

その結果、ほかの感染症も封じ込められていたが、今年に入って人の動きが元に戻るにつれ、ウイルスも活発に動き出した。また、ウイルスとの共存を徹底拒否した3年間で人々の免疫力が低下し、より感染しやすくなっているというわけだ。

インフルエンザは今年3月にも流行し、「季節外れ」と話題になった。通常は秋の初めから冬にかけて広がるが、ゼロコロナの影響で周期が乱れており、人の免疫力が低下していることも相まって、前回の流行から半年余りで再び流行のフェーズに入ったと専門家は説明する。

中国政府にとって頭が痛いのは、次から次にウイルスが流行して大都市の病院を受診する患者が一向に減らないことで、想定外の火種が生まれていることだ。

世界保健機関(WHO)は11月下旬、新たな感染症を速報するプログラムProMEDが「中国北部で未診断の子どもの肺炎が集団発生している」と報告したことを受け、中国当局に詳細の報告を求めたと発表した。

WHOが報告要請した事実を個別に発表するのは珍しい。武漢で新型コロナウイルスの感染爆発が起きた際に、中国当局だけでなくWHOも初動が遅いと批判されたことが念頭にあると思われる。

中国当局は同月23日にWHOとオンライン会議を行い、未知のウイルスによる呼吸器疾患は確認されておらず、医療体制も維持されていると強調したが、呼吸器疾患の流行が世界に知れ渡り、国際的なメンツ問題にも発展してしまった。

「隠蔽」と非難された武漢の二の舞を避けたいのは中国側も同じで、国家衛生健康委員会は11月24日、26日、12月2日とこまめに記者会見を開き、状況を説明している。

北部から全国に感染広がる

だが、複数のウイルスが同時多発する中で感染者は子どもから全世代に、地理的な感染範囲も北部から全国に広がりつつある。12月初めには香港と接する南部の深圳でも呼吸器疾患の流行が始まった。

WHOが関心を示したことで人々の不安も高まり、SNSで「WHOが中国で原因不明の肺炎を確認した」との情報が飛び交い、当局は慌てて否定した。

台湾当局は11月末、高齢者や子ども、免疫力の低い人は中国への渡航を控えるよう呼びかけた。

今のところ呼吸器疾患による死者は報告されていない。しかし短期間あるいは同時に複数のウイルスに感染することによる重症化やウイルスの変異への警戒感はくすぶっており、年末年始にかけて入院者や重症者が増えると予想する専門家もいる。

感染拡大の抑え込みはもちろん、医療体制の確保、国際社会での懸念の払拭、デマの封じ込め……。中国政府が対処すべき課題も複雑化している。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)