フォードはミシガン州での電池工場建設をめぐり、多くの課題に直面している。写真は2023年2月、工場の建設計画を発表するフォードのジム・ファーリーCEO(同社ウェブサイトより)

アメリカ自動車大手のフォード・モーターは11月21日、一時中断していたミシガン州の車載電池工場の建設工事を再開したと発表した。アメリカ市場のEV(電気自動車)の需要が事前予想ほど伸びていないことや人件費の上昇により、生産能力を4割以上縮小しての再スタートとなった。

具体的には、工場の年間生産能力を当初計画の35GWh(ギガワット時)から20GWhに削減した。EVへの搭載量に換算すると、供給能力が年間40万台から23万台弱に減少する格好だ。

労働組合のストライキが影響

「EVの需要の伸びが予想を下回ったことに加えて、全米自動車労働組合(UAW)のストライキの影響で労務コストが上昇したことが、今回の決断の要因になった」。フォードのCCO(最高広報責任者)を務めるマーク・トルービー氏は、発表当日の説明会でそう述べた。

約1カ月前の10月25日、フォードは従業員の賃金を2028年までに25%引き上げることや、入社時の時給を28ドル(約4162円)以上にすることなどについて労働組合との間で暫定合意に達した。フォードのミシガン州、ケンタッキー州、イリノイ州の工場では、それまで6週間にわたってストライキが続いていた。

なお、フォードは10月末に開催した7〜9月期決算の説明会でも、ケンタッキー州で予定していた2カ所目の車載電池工場の建設を延期したことを明らかにした。こちらもEV需要の伸びの鈍化を理由にしている。


フォードは伝統の「マスタング」ブランドにもEVを投入したが、需要は想定したほど伸びていない。写真はマスタングのEVモデル「マッハE」(同社ウェブサイトより)

ミシガン工場の規模縮小やケンタッキー第2工場の建設延期を含めて、フォードが先送りを決めたアメリカ国内向けのEV関連投資は総額約120億ドル(約1兆7839億円)に上る。

フォードの説明によれば、アメリカの消費者はEV購入のためにエンジン車やハイブリッド車より高い金額を支払うことを、もはや望んでいないという。そのため、高額な車載電池の製造コストをEVの価格に転嫁できないと判断したもようだ。

米議会には建設再開に「失望」の声も

フォードがミシガン電池工場の建設計画を発表したのは、2023年2月13日のことだ。フォードの全額出資で工場を建設し、中国の車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が技術パートナーとしてプロジェクトに参画。CATLは特許を含む製造技術を供与し、工場の立ち上げから運営までサポートする計画だった。

このCATLの役割をめぐり、アメリカ国内では(安全保障上の懸念やアメリカ政府の補助金支給をめぐる)反対の声が多方面から上がっていた。


本記事は「財新」の提供記事です

今回の建設再開の発表で、フォードはCATLとの関係見直しについては触れていない。アメリカ下院の共和党議員で、中国との戦略的競争に関する特別委員会の委員長を務めるマイク・ギャラガー氏は、フォードの発表に対して「失望した」とのコメントを出した。

(財新記者:盧羽桐)
※原文の配信は11月22日

(財新 Biz&Tech)