ファーストリテイリングは海外ユニクロで過半の利益を稼ぐまでになった(編集部撮影)

今年は暖冬でアパレル各社が総崩れになると予測されているのですが、先ごろ発表されたユニクロの11月の月次売上高は前年同期比10%増と「独り勝ち」と言っていい好調な数字をはじき出しました。

11月は急に寒気が強まったこともあり、またファーストリテイリング恒例の秋の感謝祭が行われたことから、ユニクロやジーユーで冬物を買い求めた読者の方も多かったのではないでしょうか。私もその一人です。

ユニクロを運営するファーストリテイリングの決算期は8月です。10月12日に発表された2023年度の業績は売上高が前年比20%増、営業利益が同28%増とまさに絶好調です。ただ、ユニクロの感謝祭で買い物をされた読者の皆さんは、店舗である種の”変化”をお感じになったかもしれません。

ユニクロ進化の歴史

経済評論家の視点で申し上げると、ユニクロは徐々に進化を遂げているのですが、つい数年前までの形態からまた一段階、進化形態を変えたようです。皆さんが微妙に気づき始めている変化と、その裏側にある進化について記事にまとめたいと思います。

ユニクロの進化形態はあくまで私が観察して感じている独自の分類なのですが、過去、私の知っているユニクロは4段階で形態を変えてきました。それは、

第1形態:激安衣料品量販店
第2形態:国民的ブーム
第3形態:高機能高ブランド化
第4形態:輸出産業

という進化です。簡単に説明します。

私がユニクロで最初に買い物をしたのが1990年でした。ユニクロはまだ関東には上陸しておらず、私が訪れたのは豊橋の店舗でした。当時のユニクロはとにかく安い衣料が山積みされている量販店で、私は「ロックンロールカフェ」というなんとなくパチモノっぽいロゴが書かれた下着を買って帰ったのを覚えています。

実は帰省の際に服を少なく持ってきてしまい、当座をしのげる服が欲しいと思ってでかけたのがユニクロで、当時はそのようなお店だったということです。

皆さんがよくご存知のユニクロは、おそらく第2形態からでしょう。東京に進出した直後の1999年に1900円のフリースブームが起きて、一躍注目されます。皆がユニクロで買う一方で、当時はアイテム数も少なかったことから、同じ服を着ている人を街で見かけることも多く、国民服と呼ばれていました。

第3形態へどう進化したか

この第2形態の国民的ブームによって、ユニクロのブランドイメージは二極化します。品質の良いカジュアルウェアが安く手に入るというプラスのイメージと、所詮はユニクロだというマイナスのイメージでした。ユニバレという言葉が生まれて「もしユニクロだとバレると恥ずかしい」と考える消費者が多かった状況をどう打破するかが、当時の経営陣の課題でした。

そこで2000年代をかけてユニクロが取り組んだのが、第3形態への進化です。着ていることが恥ずかしいブランドから、着ていることが誇らしいブランドへと進化させるにはどうすればいいか。結果を見ると2つのルートでユニクロは進化を目指しています。

1つ目はヒートテック、エアリズムといった高機能化ルート。2つ目は有名デザイナーとのコラボによる特別コレクションルートです。

後者のコラボはこれまで何度も店頭で商品が奪い合いになる「事件」と言っていい反響を生み出してきました。今年の冬は英国ブランドのアニヤ・ハインドマーチが即日完売になったことがニュースを賑わせました。

あくまで主観的な観察事実ですが、2010年代前半の特別コレクションでは、ビッグネームとユニクロがコラボすることで世の中を驚かせた反面、ユニクロで発売された商品は正直、デザインは素晴らしいがなぜこの品質(ないしは素材)で出すのか?と疑問符がつくレベルのコラボ商品が少なくありませんでした。

2010年代後半になってようやく、特別コレクションが品質まで特別なレベルに引き上がったのは、ユニクロに高価格帯が定着したことが寄与したと思われます。今年、品切れになったアニヤ・ハインドマーチのカシミヤハイネックセーターは1万2900円ですが、実は今ではユニクロの定番のカシミヤセーターの価格も1万2900円です。

冒頭、ユニクロのお店である種の変化を感じるかもしれないと申し上げたのはこの点で、感謝祭では限定価格で大きく値下げをする一方で、そもそもの通常価格ではユニクロの商品はかなり高い。ユニクロのプレミアム商品はそれに見合った品質を先に決めて、それに合わせて価格を設定する形に変わってきているのです。

海外ではどう見られているのか

さて、ここまでが皆さんがご存知のユニクロの進化で、言葉で表現すれば第3形態は高機能・ブランド化したユニクロです。価格は手頃ですが以前ほどは安くはない。けれどもいいブランドだと思う消費者が押し寄せる。そしてユニクロ製品を着ている人は別に恥ずかしいとは思わない。そこまで進化をしてきました。


イギリスのユニクロ店舗内。品ぞろえや店舗レイアウトなど日本と大きく変わらない(編集部撮影)

さてここからが第4形態の話です。私を含め消費者の立場でかかわっているとユニクロの進化は第3形態までしか目にすることができません。しかし海外に出かけると、違ったユニクロを目にすることができます。

私は10月に香港に出張をしました。出張の際にはついでに現地のショッピングセンターを回るようにしています。香港でもユニクロは賑わっていました。日本よりも価格が高く感じますが、現地のライバルになるグローバルなアパレルブランドと比較すればかなり安く感じます。

このアジアでのユニクロ人気について現地の人に聞くと、2010年代以降に出店が加速したアジアでは、消費者は最初から高機能高ブランドの衣料品店としてユニクロを認識していることになります。そもそも日本という言葉自体にプレミアム感があり、その日本で一番人気のアパレルブランドがユニクロだと捉えているのです。

そしてファーストリテイリングという企業としてみると、今やこの海外ユニクロ事業が事業の柱になっています。2023年度の売上高の成長率を見ると国内ユニクロ事業が7.5%の成長率だったのに対して、海外ユニクロ事業は29.8%の成長率です。営業利益は国内ユニクロが稼ぎ出す利益が全体の3割、海外ユニクロは合計で全体の6割の利益をたたき出しています。

そうなるとファーストリテイリングはトヨタと同じで、円安になると儲かる構造に変わります。2022年から2023年にかけて、日本は円安に苦しめられました。ニトリやサイゼリヤなど海外から輸入して日本で販売する企業は国内事業が苦戦したものです。

一方で海外での販売台数の比率が高いトヨタは、構造的には円安が1円進むたびに利益が約450億円増えます。トヨタでは2024年3月期の予想利益のうち実に1兆円が為替レートが円安に振れた影響だというのですから、輸出産業がいかに円安で儲かるのかがわかります。

そしてユニクロの第4形態も特徴として挙げられるのは、輸出産業型に事業構造が変わったことです。もちろん中国やアジア諸国の工場で縫製している部分は円安の恩恵は受けませんが、2本柱の1つである高機能製品は、東レから円建てで仕入れた素材を海外で売るほど円安で儲かる構造にあります。

日本で稼ぐには限界がある

さらに円安だけではありません。グローバル市場トータルの規模の効果で原価が下がるので、国内価格もそれにつれて下げることができるようになります。

これはあくまで肌感覚ですが、近年ユニクロの兄弟分であるジーユーの価格が相対的に高くなっている気がします。ジーユーはユニクロと違い、ほぼほぼ日本市場で店舗を展開しています。事業ボリュームの差が、商品コストに反映されているような気がしてなりません。

実は冒頭の話に戻すと、確かに11月のユニクロの国内既存店の販売結果は好調でした。売上高は前年比10%増で、その内訳としては客数が6%増え客単価も4%増えています。しかし8月、9月は逆にマイナスで、四半期で見ると売上高は横ばい、客数は3%ほどマイナスになっています。

そう考えると国内ユニクロの好調さは、実は海外ユニクロの絶好調さによるおこぼれかもしれません。国内ユニクロの価格は、国内消費者の支払えるぎりぎりのラインに到達し始めている一方で、ユニクロのビジネスは今では第4形態に進化して、今後の成長は海外ユニクロの状況をウォッチしていかないと見誤るようになってきた。これが長年ユニクロを観察してきた私の結論です。

(鈴木 貴博 : 経済評論家、百年コンサルティング代表)